宝塚花組でも上演 色あせない『はいからさんが通る』の魅力とは?

 宝塚『はいからさんが通る』を観ました。全編のダイジェストなので、原作を知らないと駆け足に思うかもしれませんが、ファンはもう冒頭から嗚咽ですよ。原作リスペクトもすさまじくて、着ている衣装はすべて原作と同じ。冗談社の壁には「極端にみじめなグラフ」もさりげなく貼ってありました。ギャグもかわいくて、最高の舞台です。隣に座っていた50代らしき女性も、ずっとグズグズ鼻を鳴らしていたので、泣いていたっぽいです。

 時代を経ても『はいからさん』が色あせないのは、それだけ強いメッセージと構成力があったからでしょう。読者の求めるものって、変わらないんですよね。

 ただ1点、作中に起きたスペイン風邪大流行が、たった1行「インフルエンザ、通称スペイン風邪大流行。15万人が死亡した」とあるのみです。もしもこの作品が今作られたら、きっと無視できなかったはずです。15万人も亡くなったのですよ、大事件ですよね。

 結核は現代では恐怖の対象ではなく、懐古的な悲劇としてドラマチックに語られます。しかし人の移動が今ほど活発ではなく、しかしそこそこ医療も発達していた70年代には、感染症の大流行はあまり重要視されなかったのかもしれません。

 それでも、作品の魅力は色あせません。こうした執筆時の時代背景に心を寄せてみるのも面白いですね。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報
『はいからさんが通る』(KCデラックス)
著者:大和和紀
出版社:講談社
出版社サイト(新装版1巻ページ)

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