『ジャンプ』はいまや「少年」だけのものではない! 『BURN THE WITCH』かわいい魔女たちの力強いメッセージ
さらにいえば、このタイプの異なるふたりは、ふだんはそれほど仲がいいというわけではない。何しろニニーは出世第一に考えて常に「上」を見ており、のえるは現状に満足している(ように見える)のだ。だが、そんな目標も性格も異なるふたりは、それぞれの「自分の中にあるルール」に反する敵が現れた時には、息の合ったコンビプレイを見せてくれる。たとえそれが、自分たちよりも力のある上司の命令であったとしても、「違う」と思えば、彼女らは決して「自分」を曲げることはない。ネタバレになるから詳しくは書かないが、物語の終盤で、「WB最高意志決定機関」の実力者であるブルーノ・バングナイフに対し、いつもはクールなのえるが、彼のいうことを聞くかわりに、「ダセぇメッシュですね」といって反抗し、ニニーが「よく言った」と讃えるくだりは、この漫画で最も痛快な場面のひとつだといえるだろう。
そう、このふたりのかわいい魔女たち――特にニニー・スパンコールの最大の魅力とは、常に「自分の力」を信じているポジティブな姿勢にある。そういう意味では、前言をいきなり撤回するようで申し訳ないが、彼女は少年漫画の主人公にふさわしいキャラクターだといえなくもない。
物語のクライマックスで、自分を表現できず、ドラゴンという存在に依存していた表の世界でのかつての仲間・メイシーに向かってニニーはこういう。「おとぎ話なんかクソでしょ(略)あんたも誰も 魔法が解ける本当の理由なんかわかってない」。その理由が一体なんなのかについては、ぜひ本編を読んで確認していただきたいのだが、もともと「バカしか魔法にかかんないなら あたしは魔法をかける側がいい」といっていたニニーの、自分の道は自分で切り開いていく「強さ」を感じ取ることができるはずだ。
ちなみに、この「自分らしくあれ」、あるいは、「自分の力を信じろ」という力強いメッセージは、本作のニニーとのえるに限らず、近年のジャンプ作品を代表するヒロインたち――たとえば、『呪術廻戦』の釘崎野薔薇や、『鬼滅の刃』の甘露寺蜜璃らの生きざまからもひしひしと伝わってくるのだが、こうした女性たちが魔物との激闘の中で見せてくれるある種のたくましい「教え」は、きっといま、『週刊少年ジャンプ』をリアルタイムで読んでいる小さな女の子たち――同誌はいまや「少年」だけのものではないのだ――の心にも、きっと大きな“何か”を刻み込んでいることだろう。
■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69
■書籍情報
『BURN THE WITCH』既刊1巻(ジャンプコミックス)
著者:久保帯人
発売日:2020年10月2日
価格:本体600円+税
https://www.shonenjump.com/j/rensai/btw.html