『キン肉マン』大魔王サタンは「稼げるレスラー」である ジャスティスマン戦で発揮したヒールの才能

 ジャスティスマンは予想どおり完膚なきまでにサタンを破壊した。しかし、過去2試合のような塩試合にはならなかった。それはなぜか? 大魔王サタンがヒールレスラーとして完璧な仕事ぶりでジャスティスマンを引き上げたからに他ならない。

 前シリーズでは一応敵として戦ったジャスティスマンだが、この試合ではベビーフェイスとして、大ヒールのサタンと戦わなくてはいけない。その構図を意図的に作り出すために、まずサタンは試合前に舌戦を仕掛けるが、ジャスティスはサタンの話は聞かないで自分の主張ばかり、あまつさえ「黙れゴミ屑」のひとことでサタンの喋りを遮るという形で応戦する。

 一見すると塩にしかみえないこのジャスティスマンの喋りだが、改めて見ると「ザ・ロック」(世界最高峰のプロレス団体WWEのトップレスラー)に通じるものがあるということがわかるだろう。ザ・ロックといえば歴代最高のベビーフェイスの一人である。サタンはジャスティスマンをやりとりの中で自然とベビーの立ち位置に誘導し、過去の因縁も踏まえた対立構造を観客(読者)に実に見事に提示したのである。

 役割が決まったら、次は実際の試合をどう成立させるかだが、実はサタン、ヒールとしての立ち位置にも関わらず、ほとんど反則を使っていないのである。言うなればシュートを仕掛けてきた相手に対して、あくまでもセールとアピールで試合を成立させようとした。ひたすらジャスティスマンの技を受け、たまに効いてないアピールをしようと逆立ちになれば、自分のことを棚に上げてその態度にキレたジャスティスマンに喋り途中で蹴り倒され……。最初はそのやられっぷりを同情し、その小物感に失望していた読者も、それでも立ち上がりプロレスの試合として成立させようとするサタンの姿を見てようやくサタンの名レスラーっぷりに気づき、サタンを応援していた。

 そのセールとアピールに乗せられてるとも気づかず、「やっぱり俺強えー」を連発できて気をよくしたジャスティスマンは、試合中にベビーフェイス全開なセリフを連発する。まるで正義の味方のそれがカッコよく聞こえてしまったのは、ほかでもない、サタンのコントロールのおかげである。そして読者の気持ちが十分に高まったところで陸式奥義「ジャッジメント・ペナルティー」を食らったサタンは文字通り粉々に砕けちる、これ以上ないやられっぷりを披露する。誰の目にも明らかな勧善懲悪。メインイベントの締めくくりとしてはまぎれもないハッピーエンドである。

 このとおり、オメガ編のメインイベントとなるこの試合は多分に凡戦になる可能性を秘めており、試合展開いかんによっては暴動が起こってもおかしくない状態だったことは理解していただけたろう。そんな試合を一人の名レスラーが必死にコントロールしたおかげで、名勝負とはいわなくても、メインとして試合が成立したという事実を忘れないでほしい。塩レスラーともいい試合ができる大魔王サタンは、その名にふさわしい超一流の“カネの稼げる”ヒールレスラーとして読者の記憶に残ることだろう。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

■書籍情報
『キン肉マン(61)』
ゆでたまご 著
価格:本体440円+税
出版社:集英社
公式サイト

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