多摩川の捨て猫と3人のおじさんの絆に涙……愛猫家・後藤由紀子の『おじさんと河原猫』レビュー

 愛猫たまを亡くしてからというもの、猫に関する書籍を手にすることが多くなりました。自然に欲しているということでしょうか。やはり16年毎日抱っこしてきた対象が急にいなくなってしまうというのには、慣れるまで相当な時間がかかるものですね。

自分の身を削りながら猫に愛を注いでいる人たち

 この作品は最初から最後まで、愛溢れるお話。ただの保護猫の話ではありません。余裕のある層の方々ではなく多摩川の河原に住むホームレスの方が、空き缶などを集めてその日に得たお金で、自分の食事もきっとままならない中、猫のごはんを用意しています。

 もちろんボランティアの方々など数人のおじさんが出てきますが、自分の身を削ってまでも猫に愛を注いでいる人たちばかりです。「なんてあったかいんだ」と途中何度も涙しながら読み進めました。

その人たちを当てにした不心得者が猫を捨てに来ることが多いのです。(本書より)

 もともとそんなことをする人がいなければ、こんな過酷な状況で暮らす必要もなかったのです。おうちでぬくぬく優雅な毎日が送れただろうに!と切なくなります。もともとは集落があったそうですがスーパー堤防ができ、高層マンションができ、八方ふさがりになったところ、ボランティアの方々が雨をしのぐ事務用机を用意して、そこを寝床にし発泡スチロールハウスで暖をとれるようになりました。

 それぞれにちゃんと名前を付けられ、ボスと呼ばれる猫もいます。

ほとんどのリーダー猫がそうするように、ボスは他の猫が食事を終えるまで、自分が食べるのを我慢していました。(本書より)

 器が大きいですね。弱っている猫に寄り添ってあげたり、そんな健気な様子にも何度も心が熱くなりました。

猫たちの“救出作戦”が始まる。(本書より)

 このままでは良くないとボランティアの方々と里親探しをはじめました。安心してゆっくり暮らせるようにという思いからです。いつも猫たちのお世話をしている加藤さん、猫たちからの信頼も絶大です。

「猫の世話ばかりしすぎて、奥さんに逃げられた」
「コーラが好きすぎて、糖尿病になっちゃった(笑)」(本書より)

 といつも笑顔の加藤さん。7年間、毎日2回も多摩川に来ていたそうですが、実は体調がすぐれず給餌もいつまで続けられるか不安を抱えていたようです。そんな中の里親探しできっと一安心されたのでは?と思います。

 加藤さんとシロの別れで涙。ボスは捕獲されたクーのことが心配で箱の上から動かなかったところでまた涙。そしてもう一人のおじさんホームレスの高野さんは、13年間猫たちと一緒に多摩川に住んでいました。2019年10月の台風19号で多摩川が氾濫した際、多くの住人が避難しましたが、

自分の世話をしている猫たちがいる。その猫たちを置いていくわけにはいかない。(本書より)

 と猫たちと運命を共にしたおじさんについても触れています。そんな愛情深い人がいる反面、猫を捨てに来る人もいる……。何だかなーと思いながらまたまた涙。

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