生身の女性が巨大化して戦う『GIGANT』は奥浩哉版『ドラえもん』か? 「すこし、不思議」な作風を考察

 CGを駆使した緻密な背景と、美女からメカ、クリーチャーまで自在に描ける画力を駆使し、『GANTZ』(集英社)『いぬやしき』(講談社)といったヒット作を連発している奥浩哉の最新連載作が『GIGANT』(小学館)である。

 この作品、ひとことで説明するのが実に難しい作品であり、先のヒット作2つのような、いわゆる奥テイストの作品を期待していると、読んでいて戸惑うことも少なくないだろうし、違和感を覚えることも間違いないだろう。かといってこの作品が難解なわけでは決してないし、ポイントさえ間違えなければ、当たり前だが奥浩哉の作品として楽しめるものになっている。今回はそのへんのポイントを整理する形で『GIGANT』という作品を楽しむための読み方を解説していきたいと思う。

『GIGANT』のドラえもん要素

『GANTZ(1)』

 まず未読の方のために『GIGANT』という作品のあらすじを紹介すると、映画監督を目指す高校生、零はひょんなことから大ファンであるセクシー女優のパピコと出会い、やがて付き合うことに。それと並行して、巷では願いを叶える謎のサイト「ETE」が流行り、そのサイトで可決された提案はことごとく現実となり、超常現象を引き起こすことになる。ある日「ETE」で大虐殺を行う破壊神が可決されると、その破壊神は現実となって、街を蹂躙し始める。謎の老人から巨大化できるダイヤルを取り付けたられていたパピコは、破壊神に襲われる零を助けるために、巨大化して破壊神と戦い……と、この時点であまりにも情報過多で、何を主題としている漫画なのかわからなくなってしまう方が多数であろう。高校生とセクシー女優の恋愛物語が主なのか、巨大化して戦う、ウルトラマン的な特撮バトルへのオマージュが主なのか、はたまたもっとSF要素がメインなのか……。

 ここで、作者の『GIGANT』に関するインタビューを確認すると、そもそもの始まりは「女の人が大きくなる話を描きたい」だったようだ。大きくなると服が破れる。そうすると裸になる。裸になって戦えるのはセクシー女優?という形でメインテーマが生まれたようだ。そしてそんなパピコが本当に存在する、実際に生きているという風に思わせたく、日常を丁寧に描いているという。

 なるほど、ならばパピコも普通に恋もするし、仕事もする。悪い男につかまりもするし、寂しくて犬も飼う。パピコのキャラクターは、同年代のセクシー女優に限らず、悩みや孤独、いろんなものを抱えながら日常を生きる一人の女性の姿がリアルに投影されているともいえよう。また、巨大化するパピコにリアリティをもたせるためには、服が破れないわけにはいかないだろう。巨大化・変身する際の服の処理という部分は特撮・アニメに限らず永遠の課題ではあるが、その道の先人である巨匠・永井豪ばりに、なんの惜しみも恥じらいも感じさせない気持ちのいい脱がせっぷりは、エロティシズムを時に忘れさせるほどである。

 そして、ただ女の子が巨大化するだけでは話が進まない。そこで用いられるのが藤子・F・不二雄の提唱するSF、つまり「すこし、不思議」概念である。日常に入り込んでくるちょっと不思議な要素。ドラえもんに感じる、ありえないけどあったらいいなと思える日常感。過去作品である『GANTZ』も『いぬやしき』も、奥浩哉作品の根底にはこの「すこし、不思議」要素が内包されていた。『GANTZ』はSF+必殺仕事人だし、『いぬやしき』はSF+ヒーローものといった具合である。どちらの作品も日常の中に起こるちょっとした変化、不思議要素が作品のオリジナリティを際立たせることに一役買っている。

 また日常=リアルと捉えたときに、CGを用いたリアルなパースの背景描写や、メカやクリーチャーの質感、人物の流麗なラインがより読者に現実感を与えることに成功しているといえる。藤子・F・不二雄の世界をエログロ要素を排除せずにリアルに描いたものが、奥浩哉作品であるといえよう。

 なので、今回の『GIGANT』のSF要素も、ドラえもんのひみつ道具でイメージするとすごくわかりやすいはずだ。「ETE」は「もしもボックス」の現代進化版と捉えることができるだろうし(もちろんドラえもんではないので、そこで叶えられる提案はよりリアルでエグくはなるが)、パピコが与えられたダイヤルは、「BIGライト」に例えればいいだろうか? もしもボックスで誰かが誕生させてしまった破壊神からのび太を救うために、しずかちゃんがBIGライトで巨大化して……。この字面だけ見たら大長編ドラえもんでありそうな展開だが、それを奥浩哉風にアレンジすると、『GIGANT』になるのかもしれない……。

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