ジャンプ+の問題作『終末のハーレム』が描く、快楽の果てのディストピア
第7巻から世界を統治するUW(女性による国際連盟)に反旗を翻すテロ組織・イザナミによって拉致された木根渕善(ナンバー4)が登場し、焼印を押されて性奴隷にされて信徒の女性たちに犯される姿が延々と描かれる。木根渕は「家畜になった気分だ」と思うのだが、ここまで来ると過剰なエロは「快楽を通り越して暴力なのだ」とよくわかる。
性行為を強制されるナンバーズの姿は、エロ漫画を消費する読者の姿と合わせ鏡になっており、読み進めていくと「気持ち良すぎて気持ち悪い」とでもいうような倒錯した感覚になっていく。
90年代に安達哲の『さくらの唄』と『お天気お姉さん』(ともに講談社)を読んだ時にも似たような気持ちを味わったものだが、作品としては、よしながふみがBL(ボーイズラブ)を追求した結果、生まれた男女逆転のSFハーレム漫画『大奥』(白泉社)を思わせる。その意味で、男性向けエロ漫画の手法を徹底した結果生まれた批評的エロ漫画だと言えよう。
SFとしても魅力的で、怜人がUW日本支部の施設から逃走し、ワクチン開発を目指す展開は、海外ドラマのようなスリリングさがあり、サスペンスとして目が離せない。先日発売された第12巻で「第一部完」となったが、物語はまだ始まったばかり。ナンバー5の正体も明らかになっていない。
2021年にはアニメ化も予定されており、違う世界を舞台にしたスピンオフも2作登場している。内容が内容であるため、エロが苦手という人にはオススメできないが、快楽原則を追求した果てに浮かびあがる毒々しいディストピアは必見である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『終末のハーレム』
原作:LINK
作画:宵野コタロー
出版社:集英社
少年ジャンプ+(『終末のハーレム』ページ)