『幽☆遊☆白書』冨樫義博、漫画家としての戦いーージャンプバトル漫画への鋭い批評性とは?

 絵もみるみる変化し、キャラクターや背景がシャープで写実的になっていく一方、余白が増え、なぐり書きのような描写も増えていった。これを手抜きととるか、作者の内面の発露と見るかで作品の評価は大きく変わるのだが、筆者はこの頃の冨樫の絵が一番好きだ。

 物語は最終的に魔族として覚醒した幽助が、仙水を倒すのだが、仙水は人間への絶望を吐露して息絶える。そして仙水の仲間・樹が「オレ達はもう飽きたんだ」「お前らは また別の敵を見つけ戦い続けるがいい」と捨て台詞を残し、仙水の遺体とともに消えていく。

 この台詞が、人気が続く限り延々とバトルを続ける当時のジャンプ漫画に対する批判であることは、まだ高校生だった筆者にもよくわかった。同時に正義が信じられなくなって人類を滅ぼそうとする仙水の姿は、永井豪が『デビルマン』で描いた善悪の反転そのものであり、その先を描こうとしたのが『幽白』の仙水編だったと言えるだろう。

 行き着くところまで行ってしまった『幽白』は、絵も物語も更に壊れていくのだが、その壊れ方があまりにも美しく禍々しいものだったため、逆に目が離せなかった。仙水編の後で描かれた魔界編は、中途半端な形で終わり、人間と妖怪の世界がつながることが暗示された後、物語は幕を閉じる。最後はおおらかで、やや拍子抜けだが、ここで世界を壊しきれなかった甘さも冨樫らしいと思う。

 魔界編から最終回に至る流れは何度も読み返しており、その度に、もしも完全な形で描かれていたらどうなっていたのだろうと想像するのだが、この壊れた姿こそ『幽白』の本質だったのだろうという考えに、いつも落ち着く。古典ではないが、当時の気分がパッケージングされた稀有な作品である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『幽☆遊☆白書』(ジャンプコミックス)19巻完結
著者:冨樫義博
出版社:集英社

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