『鬼滅の刃』最終話の謎ーー『不滅のあなたへ』との共通点から探る、永遠/記憶の希求

忘れられることが死

 『鬼滅の刃』の最終話がそんな風に読めたのは、実は『不滅のあなたへ』を読んだからだ。

 『不滅のあなたへ』の主人公、フシは最初から不老不死を持った存在だ。フシは様々な人々や動物に出会い、その死を看取り、彼らを記憶(記録)していく。ただ一人不老不死を持ったフシは、自我を獲得し、交流してきた人々を看取る時なので、永遠の命をうとましいものだと思うこともある。ここでも『鬼滅の刃』同様、個体としての永遠は否定されているようにも思える。

 しかし、作者の大今良時は、インタビューで不滅とはどういうことかについて質問され、このように答えている。

「不滅というのはただ“死なない”ということではなく、死んでも器として蘇るということでもなく、誰かに記憶され意識が残り続ける限りは存在し続ける、ということ?

『そうです。フシにとっていちばんの危機は命を失うことではなく、核を奪われ記憶や体験を奪われることで、ノッカーはそれを成そうとする。その根幹には、私の祖父母を忘れたくないって気持ちがあります』

(https://ddnavi.com/interview/593741/a/2/)」

 本作の第一話で、狼の姿のフシはある少年と旅に出る。その少年は旅の途中に負った怪我で命を落とす。少年は最期の時、フシに対して「僕のこと、ずっと覚えていて」と語りかける。そして、フシはその少年の姿をコピーし、少年の姿となって旅に出る。

 「忘れられて初めて本当の意味で死んでいく」というセリフが作中に出てくる。逆に言えば、誰かが自分のことを覚えていてくれるなら、たとえ肉体が滅んだとしても、この世界に残っていることになる。黒いローブの観察者は、フシの役割を「世界を保存すること」だという。フシが世界の全てを保存できるのなら、世界は滅んでも永遠であるのかもしれない。

 フシは何人もの死に立ち会い、それを記憶してゆく。本作に登場する人間も、『鬼滅の刃』同様、刹那を生きるしかない。しかし、『不滅のあなたへ』には全てを忘れないでいるフシがいる。その存在は、『鬼滅の刃』の最後の集合写真のように、刹那を生きた人々を永遠にしている。その永遠性を具現化するように、フシは一度記憶した人々の命を再び生み出す能力を発現させる。

 フシのその能力は、数百年の歳月が流れた後の現世編でこそ、一層貴重なものに見えてくる。しかし、現世編には、フシと因縁のあるハヤセ一族の末裔も登場する。それは、前世編での争いが繰り返されるということかもしれない。正しいものや美しいものだけが永遠というわけにはいかないのだろう。

 『不滅のあなたへ』は、人はなぜ記録するのかについての物語ではないかと思っている。僕にはフシのような完全な記憶能力はないので、外部に書き記すことでしか「覚えていること」はできない。僕は思っている。大今氏の祖母を忘れたくないという思いと同様に、僕も大事な人のことを忘れたくないし、世界に忘れられたくないと思っている。自分のつたない文章が、どこかで誰かの心に痕跡として残る微かな可能性を信じながら、毎日キーボードを打っている。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『不滅のあなたへ』既刊13巻発売中
著者:大今良時
出版社:講談社
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000019901

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