小柄な少女がカポエイラで半グレ集団と全面抗争! 格闘漫画『バトゥーキ』の新しさ

 もっとも、『バトゥーキ』ではそんなカポエイラが持つ誕生からの歴史、音楽やダンス、と一体化した文化としての姿にもしっかりと触れていて、格闘技の範疇に留まらず、ブラジルの風土に深く根ざしたものであることを教えてくれる。

 一里の高校にいた女性教師の広田流亜が実はカポエイラの使い手で、町の不良たちを相手に蹴りを放つ一里を見てカポエイラをやっていると気づき、自分のチームに誘い消えたメストレに変わって指導する。

 カポエイラの歴史。ヘジォナウやアンゴラといった流派があり、一里が習ったのはアンゴラで教えてくれたメストレが実は流派の大物だったこと。勉強になる。メストレ・ビンバというヘジョナウ創始者の「ビンバ」が持つ意味を語る流亜の仕草と表情が実に愉快だが、なぜかは第3巻を呼んでのお楽しみ。

 流亜はホーダという円陣を組み、楽器を鳴らし歌う中で2人がジョーゴと呼ばれる組み手を見せる場へと一里たちを連れ出して、カポエイラが持つコミュニティとしての大切さを伝える。

 そういえば以前、『ポストペット』を開発したメディアアーティストの八谷和彦氏から、カポエイラを習い始めたことを聞かされた。『風の谷のナウシカ』でナウシカが乗るメーヴェを再現した一人乗りの飛行機を作るにあたり、操縦者としてボディバランスや体の柔軟性を高めるために役立つからと始めたという。フィットネスにもなるというと、自分でも試してみたくなる。

『バトゥーキ』8巻

 もっとも、『バトゥーキ』の漫画の方は、格闘技としての戦いぶりがどんどんと苛烈さを極めていく。B・Jから新たに戦うよう指名された半グレ集団が仕切る地下トーナメントで一里が勝ち抜いてしまい、目を付けられて全面抗争に突入する。そこで一里の味方となったのが、一緒にメストレからカポエイラを習った双刃淳悟や、教師の流亜、さらに戦いを挑まされた空手家や柔道家やテコンドー使いたち。戦いの中で芽生えた交流が、仲間を増やして来たる本場ブラジルのカポエイラ使いたちとの戦いに、大きく関わって来る未来が予感される展開だ。

 そう考えると、第8巻で始まった半グレ集団との全面抗争もまだ通過点なのかもしれない。戦いを経て得た新たな仲間たちを引き連れ、次なる強敵との戦いに挑んでいくような展開が期待できる。その中心で圧倒的なカポエイラの技を、美しさとともに見せてくれる一里の活躍が今から待ち遠しい。最高潮の感動を味わうために、今から読み始めて備えておこう。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『バトゥーキ』既刊8巻(ヤングジャンプコミックス)
著者:追稔雄
出版社:集英社
https://youngjump.jp/manga/batuque/

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