「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ最新刊、堂々の1位に ラノベ週間ランキング

本 ライトノベル 週間ランキング(2020年7月13日~2020年7月19日・Rakutenブックス調べ)
1位『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~(2)(メディアワークス文庫)』三上延
2位『わたしの幸せな結婚 三(3)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
3位『わたしの幸せな結婚 二(2)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
4位『わたしの幸せな結婚(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
5位『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか16(GA文庫)』大森藤ノ、ヤスダスズヒト
6位『新フォーチュン・クエストII(11) ここはまだ旅の途中<下>(電撃文庫)』深沢美潮、迎夏生
7位『創約 とある魔術の禁書目録(2)(電撃文庫)』鎌池和馬、はいむらきよたか
8位『りゅうおうのおしごと!13(GA文庫)』白鳥士郎、しらび
9位『ロクでなし魔術講師と禁忌教典17(ファンタジア文庫)』羊太郎、三嶋くろね
10位『はたらく魔王さま!21(電撃文庫)』和ヶ原聡司、029
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/

 北鎌倉にある古書店の女性店主が、本に絡んだ謎を、本に関する豊富な知識をいかして推理し、解き明かしていく。三上延による「ビブリア古書堂の事件手帖」は、キャラノベというカテゴリーや、お店ミステリといったジャンルを切り開き、700万部を売って今もトップを走り続けているシリーズだ。ランキング1位の『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~』(メディアワークス文庫)はその最新刊となる。

 登場人物たちの強いキャラクター性で読ませ、イラストによる表紙絵で目を引き付ける内容でありながら、ティーンが主人公となりがちなライトノベルとは少し違って、大学生や大人たちが活躍する。キャラクター文芸やライト文芸、キャラノベと呼ばれる小説群だ。ラノベの電撃文庫やファンタジア文庫を読んで育った人たちの受け皿として創刊された、メディアワークス文庫や富士見L文庫が一例。顎木あくみ「わたしの幸せな結婚」シリーズのように、長くランキング上位にとどまり続け、今週も2位から4位を占めたヒット作も生まれている。

 2009年12月のメディアワークス文庫創刊から間もない2011年3月に刊行された三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』は、極端に人見知りだが本に関する知識はものすごい篠川栞子という女性に、大学を出たものの職にあぶれていた五浦大輔が、夏目漱石のサイン入が入った本を見てもらうエピソードから幕を開ける。

 栞子はサインを偽物と見破っただけでなく、それがどうして書かれたのかまで推理して大輔を驚かせる。大輔はそのまま、栞子が店主を務めるビブリア古書堂で働くようになり、本が関わる謎や事件に触れていく。太宰治『晩年』や、アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』、そして足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』と取り扱われる本は多彩で、それぞれ濃い蘊蓄が語られ本好きたちを喜ばせた。

 美しくて普段は物静かだが、本が絡むと饒舌になる栞子や、古書店で働いているのに本を読むと気分が悪くなる体質の大輔、掘り出し物を見つけては相応の価格で転売して稼ぐせどり屋の志田ら、登場人物たちにも掘り下げがあってひきつけられた。面白さから「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズはすぐさまミリオンセラーとなり、ラノベのようにキャラ立ちした登場人物たちが、営む稼業の知識を使って謎解きに挑む形式の小説を、一気に世に増やすきっかけとなった。

 2017年2月刊行の『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てはき舞台~』で完結を迎えたはずだったが、書きたい話があるとあとがきで作者が言っていたとおり、大輔と栞子が結婚して生まれた娘の扉子を通して、栞子たちが関わった事件がつづられる『ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~』が番外編的に登場。好評だったのだろう。今回『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~』となって本格的に再始動した。

 取り上げられている本は、金田一耕助シリーズや、吉川晃司が主演するドラマ『探偵・由利麟太郎』の原作となったシリーズを描いた横溝正史の『雪割草』と『獄門島』。とくに『雪割草』は、推理小説を書けなかった太平洋戦争時代に横溝が地方紙に連載した家庭小説で、存在は知られていながら全容は長く不明だった。2017年に発見され、2018年に戎光祥出版から刊行されたこの『雪割草』がまだ幻だった時期、栞子のところに『雪割草』という本が盗まれたから取り戻して欲しいという依頼が持ち込まれた。

 時間があればいつも本を読んでいるくらい本好きの栞子は、見つかったら『雪割草』を読ませて欲しいとお願いして依頼を受け、所持していたという上島家に行き、どうして幻の作品が存在していたのか、それが本物なのかについて言及する。そして、上島家の人たちの関係や関心などを聞いて事件そのものの謎も解き明かす。さすがはビブリオ探偵といった活躍ぶりを堪能でき、横溝作品についても詳しくなれる。

 加えて、『雪割草』が消えた第一話の事件と、それに端を発した別の事件に関する第三話の展開には、『犬神家の一族』や『獄門島』『八つ墓村』といった横溝ミステリによく描かれる、一族の間に生まれる憎悪や嫉妬がもたらす悲劇が盛り込まれていて、三上による本歌取りのような雰囲気も感じさせてくれる。

 『獄門島』を取り上げた第二話では、一般に知られた角川文庫版ではない『獄門島』の存在について学べる上に、扉子という小学3年生の少女が見せる鋭い観察眼もあらわになる。さすがは栞子の娘といったところ。その扉子に接触し、『雪割草』の事件について聞いて来たのが、栞子の母親で扉子には祖母にあたり、本を儲けの道具に使う智恵子だった。言動から扉子も智恵子に何かを感じ取ったらしく、これからの展開で世代を超えた対決が繰り広げられるかもしれない。楽しみだ。

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