『魔王学院の不適合者』が描くのは、実は身近な問題? 転生した魔王は“間違った歴史”とどう向き合うか

 2017年4月から「小説家になろう」で連載され、18年より電撃文庫から刊行してシリーズ累計100万部を突破している、秋『魔王学院の不適合者』のテレビアニメが2020年7月から放送中だ。

 主人公は暴虐の限りを尽くしたのち、2千年後に転生を果たした魔王アノス・ヴォルディゴード。口調はいわゆる俺様キャラで、ひたすら強い。目覚めてみると、その世界で使われている魔法のレベルは低下しており、「暴虐の魔王」として知られている者の名前は「アヴォス・ディルヘヴィア」という別人に変わっていた。

 そんな間違った歴史が語られ、2千年前には存在しなかった「皇族」とそれ以外を厳しく峻別する階層・差別意識がはびこる世の中で、普通の人間の子どもとして生まれたアノスが、本来の暴虐の魔王たる自らの存在を認めさせ、誤った差別意識を取り払うべく行動し、偽物の王の謎を解いていく。

 読みどころはどんな部分にある作品なのか。

序盤だけだと「ネタなの?」と思ってしまうが……

 本作序盤では、アノスが圧倒的な強さを見せつけて手向かう連中を蹴散らし「なんだと!」「バカな!」と驚愕されるという、わりとよくある展開が描かれる。

 さらにアノスの転生時点での母親と「アノスちゃんはなにが食べたい?」「そうだな。できれば、キノコのグラタンがいい」とやりとりをしてキノコグラタンに夢中になったり、女性を連れてくると「配下になれって、なにそれなにそれっ? そんな不器用な男っぷりを見せつけられたら、女の子はイチコロなんだよぉぉっ!!」「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!! 三人で朝帰りってことおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」と騒がれたりするので、「ネタなの? ふざけてる作品なの?」と思ってしまう(いや、こういうところも間違いなくおもしろいのだが……)。

 ところが徐々にシリアスさを増し、前世の因縁も絡んだ、切実な物語が展開されていく。

 ネタバレになるのでこれ以上は具体的なことは控えておくが、入り口をわかりやすくして読者を呼び込んでから、書きたかったことを展開する、ということを作家が選んだのだろう。

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