江口寿史が語る、漫画家としてやり残したこと 「70年代後半のギャグ漫画の凄さを残したい」

打倒・鴨川つばめでデビューからやってきた

――最近の仕事についても聞かせてください。SEKAI NO OWARIの『umbrella』のジャケット、音楽フェス『夏の魔物 2020 in TOKYO』のメインビジュアルなど、音楽関連の仕事が続いていますね。

江口:そうですね。こちらから積極的にというより、単純にオファーが増えているので。『umbrella』に関しては、Fukaseさんのほうで絵のイメージが明確にあったんです。ご本人と話したわけではないですけど、「水玉模様のワンピースを着て、振り返っている女の子を描いてください」という明確なオファーで。傘は僕のほうで加えたんですけど、基本的にはFukaseさんのイメージを最大限に優先して描きました。『夏の魔物』もそう。最初はパーカーのフードを被った女の子で、目線を横にずらした下絵を描いたんですが、成田さん(『夏の魔物』主催者の成田大致)から「フードを外して、目線は正面にしてください」という依頼があって、「はい、わかりました」と。職人に徹して、オファーに応えた感じですね。仕事として“江口寿史”をやったというのかな。もちろん手を抜いたりはしてなくて、求められるものに精一杯応えたし、今の自分ができる最高のものを描きましたけど。

――EDWINとコラボレーションした“ジーパン女子×江口寿史Tシャツ”に関しては?

江口:僕自身もデニムが好きだし、ジーパンの女の子は折々に描いてきたので、趣味と実益を兼ねた仕事というか(笑)、二つ返事でOKしました。EDWINは高校時代から履いていたから、嬉しかったですね。

――オファーとニーズが合致したと。

江口:そうですね。つい最近、Pictured Resortという大阪のバンドのアナログEPのジャケットを描いたんですけど、それは予算に関係なく「好きなバンドだからやるよ」という感じで。

――江口さん自身の“やりたい”という思いを優先した?

江口:そうそう。つまり、最終的に求めているのはお金じゃないんですよね。もちろんお金は欲しいけど(笑)、それ以上に、みんなが満足してくれて、褒められることを求めているし、そのことで自分も救われるので。自分自身の満足度と、人の評価ですよね。それが得られると「もっといい絵を描こう」と思うし、次につながるんですよ。逆にそれがない状態が続くとダメになるでしょうね。

――最後に漫画家としての今後のビジョンについて聞かせてください。以前のインタビューで、「ギャグ漫画でしのぎを削っていた時代のことを漫画にしたい」と仰っていましたが、その気持ちは今もありますか?

江口:もちろん。とにかく漫画から逃げてる感じが常にあるので、描かないといけないなと。特に自伝みたいなものは、必ず描きたいです。それは自分のことというより、70年代後半のギャグ漫画の凄さを残したいんですよね。今はお笑いのジャンルがいっぱいあるけど、当時は漫画がお笑いの最先端で。赤塚不二夫先生、山上たつひこ先生が一時代を築いて、その後、僕らの世代がしのぎを削って。特に鴨川つばめですね。当時のあの人のカッコ良さは描いておかないといけない。僕しか描けないので。

――当時、僕は小学生でしたが、『週刊少年チャンピオン』の『マカロニほうれん荘』と『週刊少年ジャンプ』の『すすめ!!パイレーツ!』のおもしろさはホントに強烈でしたからね。

江口:僕がいちばん憎んでましたから、鴨川つばめを。あまりにもすごすぎて。でも、鴨川さんの連載が終わったときに一番悲しんだのは、間違いなく僕ですよ。打倒・鴨川つばめでデビューからやってきたし、心にぽっかりと穴が開いてしまって……。当時、僕も鴨川さんも20才とか21才ですから。セックス・ピストルズみたいじゃないですか(笑)。

――まさに。江口さんや鴨川さんの漫画は、パンクロックを聴いてるときと同じような気分で読んでました。

江口:パンクですよね、ホントに。『週刊少年サンデー』の『できんボーイ』(田村信)もそう。80年に入る頃『マカロニほうれん荘』も『できんボーイ』も『がきデカ』も終わって、僕の敵が誰もいなくなってしまって。そこでギャグ漫画全盛の時代は終わったというか……。僕が絵の方に行ったのは、それが大きいですよ。そのあとは大友克洋さんですね。大友さんの作品を見て、「自分の絵はしょぼいな」と思って、絵の精度を高めるようになったので。とにかく当時のギャグ漫画のことは描きたいです。77年から79年までの短い時期のことなんだけど、たぶん、みんな忘れちゃうでしょ。若い子はもちろん知らないだろうし。

――いつの日か、その漫画を読めることを楽しみにしてます。

江口:いつの日か(笑)。僕もいい歳だし、そんなに時間はないですからね。急ぎます。

■書籍情報
江口寿史『RECORD』
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価格:4,950円(本体4,500円)
判型/頁数:B3変形/61ページ
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【収録作品】(※発表順)
・BAHO『HAPPENINGS』
・VARIOUS ARTIST『IS RELEASE A HUMOUR ? ~we love TELEX~』
・BBB『BBB』
・朝日美穂/直枝政広&ブラウンノーズ『TRIBUTE TO YASUYUKI OKAMURA EP』
・VARIOUS ARTIST『どんなものでも君にかないやしない 岡村靖幸トリビュート』
・ROUND TABLE『SUNNY SIDE HILL』
・吉田拓郎『一瞬の夏』
・銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』
・MAMALAID RAG『the essential MAMALAID RAG』
・SHIT HAPPENING『Lodge』
・lyrical school『datecouse』
・Shiggy Jr.『LISTEN TO THE MUSIC』
・新・チロリン『Last Pajama Party』
・東京スカパラダイスオーケストラfeat.片平里菜『嘘をつく唇』
・Shiggy Jr.『ALL ABOUT POP』
・大森靖子『MUTEKI』
・lyrical school『WORLD’S END』
・so nice/RYUTist『日曜日のサマートレイン』
・lyrical school『BE KIND REWIND』
・so nice『光速道路』

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