女子サッカーの未来を紡ぐ『さよなら私のクラマー』 ゴールシーンのエモーショナル

「私たちが負けてしまったら、日本女子サッカーが終わってしまう」
「女子サッカーに未来はあるのか?」

女子サッカー界の現状

『さよならフットボール(1)』

 『さよなら私のクラマー』(講談社)は、それぞれの思いを胸にボールを追いかけ、仲間と向き合う女子サッカーにひたむきに取り組む少女たちを描いた青春ストーリーである。実は作者の新川直司は代表作である『四月は君の嘘』(講談社)の前に、この作品の前日譚ともいうべき『さよならフットボール』(講談社)を執筆している大のサッカー好き。『さよならフットボール』連載時は、日本の女子サッカーが2004年の北朝鮮戦以降、右肩上がりに実力も注目度も上げてきて、まさにその成果が結実しようとしていたときに、グラスルーツ(育成年代)における女子サッカー選手の現実をあくまでもポジティブに描いた名作だ。

 主人公の恩田希は小さい頃から男子に混じってもチーム随一のテクニックを持つサッカー少女。しかし中学に進学すると、部活の試合に出られるのは男子だけ。いままで一緒にやってきた仲間(男子)たちと試合に出られないまでもサッカーを楽しんでいた希は、ある事件をきっかけにあの手この手を使って公式戦に出場しようと悪だくみを企てて……という物語だ。

 当時からU12年代では女子は男子と同じチームで試合ができたのだが、中学生になると女子のみでの活動を余儀なくされるため、その受け皿は激減してしまい、いろんな問題でサッカーを続けるのを諦めてしまう女子も多かった。日本の女子代表(なでしこ)躍進の影で、そこで興味を持ったサッカー女子たちにどうやって場所を提供していくか、そして次代を育成していくかというは女子サッカー関係者の課題であり、もっとも取り組んでいたポイントだろう。

 この連載から5年を経て、本作は始まった。冒頭に描いた言葉は、冒頭に描いた言葉は、上が1話の1ページ目で場でしこの選手、下が2話で主人公たちが在籍するサッカー部の監督の口から語られる。さよならフットボール連載終了の翌年、なでしこはW杯で史上初の優勝という快挙を成し遂げる。翌年のロンドン五輪では銀メダル、連載開始前年のW杯では準優勝。育成年代でもU17女子W杯は2014年に優勝と女子サッカーの黄金時代の真っ最中に始まった女子サッカー漫画の入り口がこの言葉であるというのが非常に興味深い。事実2016年、なでしこはリオ五輪の出場権を逃し、以後今日に至るまで当時の勢いを取り戻せていない現実がある。10年前と比べて女子がサッカーをできる環境は確実によくなっているし、女子のクラブチームも増えてはいるが、サッカーを職業として続けていける環境というものはまだまだ整備されているとは言い難い。

 それでも、作中に出てくる女子選手たちはそれぞれの思いを胸に、ひたむきに、純粋にボールを追いかけている。今作は蕨青南高校に入学してきた、左利きの快速ウインガー周防すみれ、全国3位、U15日本代表のボランチ曽志崎緑、そして前作の主人公、恩田希の3人を中心に物語が綴られていく。一癖も二癖もありすぎる3人とチームメイトたちがこれまた一癖ある深津監督、元日本代表FWの能見コーチと共に弱小チームのワラビーズで強豪校と戦い、試合を通して結びつく同じ女子サッカーを志す同士たちと共に競い合い、成長していくことになるのだが、『四月は君の嘘』でも如何なく発揮された新川直司のキャラクター造形の魅力はこの作品でも健在。

 出てくる登場人物はみんなかわいいし、性格もそれぞれ個性的で魅力的。そしてなによりも、全ての選手がサッカーに魅せられて、純粋にサッカーを愛している。試合中、ゴールシーンの前後にはいってくる選手の過去回想シーンでは、それぞれの選手のサッカーとの出会い、成り立ちが描かれるのだが、その描き方がどれも秀逸で、単なる試合の1ゴールをものすごくエモーショナルなものに演出している。サッカー漫画においてゴールシーンのエモーショナルさで言ったら、この作品はおそらくトップクラスに入るだろう(ゴールのエモさで言ったら、塀内夏子作品もかなりレベルが高いが、それは別の話なのでここでは深く触れない)。

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