辰巳JUNKが語る、セレブの言動に見る米エンタメ界のダイナミズム 「本業だけじゃない手腕も必要とされる」

アメリカのノンフィクションやルポの影響

――ちなみに辰巳さんが書き手として影響を受けた人はいますか?

辰巳:映画『イントゥ・ザ・ワイルド』の原作者でもあるジョン・クラカワーによる『信仰が人を殺すとき』というルポに大きな影響を受けました。アメリカのモルモン教の原理主義者が殺人事件を起こすんですが、その犯行理由に信仰が絡んでいて、裁判では「はたして信仰とは?」ということが問われた。クラカワーは筆致が簡潔なノンフィクションを書くんですけど、同時に小説みたいで読みやすいし印象に残る。提示される事実だけでなく、情景を浮かばせるようなシーン描写も印象に残る作家ですね。私は思春期のころは文化批評よりもノンフィクションやルポにハマって読んでいたので、その影響があるのかなと。

――たとえばほかには?

辰巳:「ソーシャルキャピタル」概念で有名な政治学者のロバート・パットナムが書いた『われらの子ども: 米国における機会格差の拡大』という経済本。アメリカで格差が広がっていることを膨大な取材とデータを駆使して描いていくんですが、取材した若い子の人生を掘り下げたり、アメリカンドリームの概念や同国における平等の概念を解説したりと、これもとっつきづらいものを物語的に書いていて、読みやすい本です。私の本でもブリトニー・スピアーズの章でミレニアル世代の経済格差や実質的な可処分所得の減少、教育ローンののしかかりについて触れています。

――この本を読んでアメリカのセレブ、ポップカルチャーをおもしろいなと思った人は、どんなメディアやアカウントをフォローすればいいでしょうか。

辰巳:英語のアカウントになっちゃいますけど、セレブ的なジャンルだと「Pop Crave」。これは音楽を中心にセレブのニュースをどんどん発信していくアマチュア発祥、Twitter主体のメディアです。ここはかなり勢力を拡大していまして、あらゆるSNSやポッドキャスト、Spotifyのプレイリストまで展開し、オウンドメディアではセレブのインタビュー記事も作っていて、スターが「Pop Crave」を引用してSNS投稿を書くくらいに影響力があります。

 芸能ニュースやゴシップについて知らせるアマチュアの英語アカウントにはジョークや嫌味が入りがちなものも多かったのですが、「Pop Crave」はTweetされる情報が早くて超簡潔。本文はシンプルなんですけど、Twitterだとリプライ欄が見られるので、テイラー・スウィフトとジャスティン・ビーバーのファンが売上対決をしたりといったファンダム同士の争い、英語圏のファンカルチャーも覗けます。

――「炎上に対する反応から人の気持ちを知る」的なSNSの使い方ですね。

辰巳:アメリカのマスメディアに関しては、有名どころは個性豊かでおもしろいので好みに合わせてフォローするといいと思うんですよね。The New York Timesみたいな大御所メディアはカルチャー、アートの記事だけ知らせるSNSアカウントもあるので。たとえば最近だとアメリカでも『あつまれ どうぶつの森』が流行っているので記事が出まくっていて、リベラル系の「The Atlantic」は『どうぶつの森』の経済システムに力を入れて解説しています。『どうぶつの森』ではスローライフを送るにあたりプレイヤーが借金苦にされるんですけど「ここでは資本主義と牧歌主義が一体化している。アメリカではそれらを対立させがちだからこういうものは珍しい。日本やイギリスと比べるとアメリカにはそもそも牧歌主義が薄い」と。「The Cut」は「フクロウのキャラが運営している博物館ってどうなの?」と博物館研究者に取材して「リアルな博物館と比べるとキャプションが充実してなさすぎる」といった発言を引き出して記事にしていて、ポップカルチャーがいろいろな知識の窓口になっています。

――次の本の題材やテーマはありますか?

辰巳:どうでしょう。今回の本はここ5年くらい書いてきたことの集大成みたいなところがあって、今は書き終えて燃え尽きているので……一旦、色々インプットしたいですね(笑)。ただ『ゲーム・オブ・スローンズ』や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』をはじめ、好きなテレビドラマについて少ししか触れられなかったので、それはちょっと書きたいですね。

――ゆっくりでかまいませんので、次の本も楽しみにしています!

■書籍情報
『アメリカン・セレブリティーズ』
著者:辰巳JUNK
発売日:4月30日
価格:1,700円+税
発行:スモール出版

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