『ジョジョリオン』は『ジョジョ』史上最大の問題作かーー「呪い」の正体とは?

『ジョジョの奇妙な冒険』

 1986年末に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載がはじまった荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)は、今も月刊漫画雑誌『ウルトラジャンプ』で第8部『ジョジョリオン』が連載されている人気長編漫画で、時代や場所を変えながら、ジョジョと呼ばれる主人公の物語が描かれている。

 『ジョジョ』の影響は多岐にわたるが、最大の功績は“スタンド”という概念を生み出したことだろう。第3部から登場したスタンドは、精神エネルギーが具現化した存在で、可視化された超能力である。その姿はスタンド使いによって違い、背後霊のように不気味な姿を現しては、未知の攻撃を繰り出してくる。

 スタンド使い同士の戦いには、ミステリー的な面白さがあり、敵のスタンドから攻撃された不可思議な現象を分析して相手の能力を読み解き、逆に味方のスタンドで攻撃するといった駆け引きが繰り広げられる。スタンドバトルはジャンプに心理戦の面白さを持ち込み、90年以降のジャンプ漫画のバトル表現を一気に更新した。その影響は今やジャンプのみならず、日本中のエンタメ作品に波及しており、異能力バトルの見せ方は『ジョジョ』以前と以降で、大きく変わったと言えるだろう。

以下ネタバレあり。

 2011年からスタートした第7部『ジョジョリオン』は、第4部と同じ杜王町が舞台となる。同年の3月11日に起きた東日本大震災震災によって杜王町には「壁の目」と呼ばれる謎の断層が隆起していた。その「壁の目」の下の地面に埋まっていた青年を広瀬康穂が見つけるところから、物語がはじまる。

 青年は記憶喪失で、わかっていることは、しゃぼん玉で、水分、音、摩擦といった“何かを奪う”ことができるスタンド「ソフト&ウェット」の持ち主だということのみ。被っていた帽子の売られていた店を調べることで、吉良吉影という男に自分を知る手がかりがあると思った青年は、吉良のマンションへ向かう。しかしそこでスタンド使いから攻撃を受けることになる。

 その後、吉良はすでに死んでいたことがわかり、青年は東方家に引き取られる。そして東方定助と名乗るようになるのだが、やがて、彼が吉良吉影と空条仗世文という人間が融合した存在だと判明する。東方定助は『ジョジョ』第4部の主人公・東方仗助と一字違いの名前で、吉良吉影とは第4部のラスボスの名前だ。そして空条という名字は第三部の主人公・空条承太郎と同じものである。

 実は『ジョジョ』の世界は第6部で宇宙が一巡しており、第7部以降は、一種の平行世界となっている。そのため(東方仗助に対する東方定助のように)、過去の『ジョジョ』に登場したキャラクターと似ている人物が、多数登場する。つまり、リブート作品なのだが、空条承太郎と吉良吉影という善と悪が融合して東方定助(仗助)になるという展開は、本作の根底にある価値観を現していると言えよう。

 やがて物語は、あらゆる病を治すフルーツ・ロカカカの実をめぐって、岩人間と呼ばれる石の身体を持ったスタンド使いたちと、東方家、そして定助の三つ巴の争奪戦となっていく。スタンドバトルでつなぎながら、少しずつ物語の全貌が明らかになっていく展開はいつもどおりだが、今までの『ジョジョ』と感触が違うのは、主人公が記憶喪失で物語全体が謎に満ちているからだろう。

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