『キャプテン翼』高橋陽一が挑戦してきた、紙の本ならではの漫画表現

 4月2日に集英社から『グランドジャンプ』の「新増刊」として、『キャプテン翼マガジンvol.1』が発売された。タイトル通り1冊まるごと『キャプテン翼』(高橋陽一・作)の漫画と記事が掲載された同誌には、メインコンテンツとして『グランドジャンプ』で連載されていた『キャプテン翼ライジングサン』が移籍、なんと最新3話分が一挙掲載されている。さらには、『キャプテン翼メモリーズ』というサブキャラを主人公にしたスピンオフの連載もスタートし(第1弾の主人公は「SGGK」こと若林源三)、メッシやラウールといったサッカー界のレジェンドたちが同作を語るインタビュー企画など、記事ページも充実している。

サッカーは11人でやるものというメッセージ

キャプテン翼 ライジングサン(13)カバー

 おそらくこの時期に刊行が開始されたということは、版元としては東京オリンピックの開催で春から夏にかけてサッカー熱が高まることに期待していたのだろうが、残念ながら周知のように同大会の開催は延期。一読者としては、後ろ向きなことを考えても仕方がないので、一刻も早くコロナ禍がおさまり、文化とスポーツの世界がもとどおりになることを願いながら、同誌を今後も応援していきたいと思う(vol.2は6月4日発売予定とのこと)。

 また、翌3日には前述の『キャプテン翼 ライジングサン』の最新第13巻が発売。こちらには、連載移籍前のクライマックスの回が収録されている。同作では現在、主人公の大空翼率いるU-23日本代表は、マドリッド五輪の準々決勝でドイツ代表と戦っているのだが、強豪相手に繰り返しピンチに陥りながらも、最後の最後まで仲間を信じて諦めない「キャプテン」の姿は、数多くの読者に力を与えてくれることだろう。ネタバレになるので詳しくは書かないが、この巻のもっとも重要なある場面で、翼でもエースストライカーの日向小次郎でもない、意外なある選手が痛快なゴールを決めるのだが、この、サッカーはひとりでなく11人でやるものだという、当たり前のことだが忘れてはいけない大切なテーマが常に根底にあるからこそ、同作は長く多くの人々に愛されているのかもしれない(だからこそ、作者は主人公を、ある時期から“点取り屋”のストライカーではなく、ゲームメイカーとしてほかの選手を活かせるトップ下のミッドフィルダーに転向させたのだろう)。

 さて、この『キャプテン翼』だが、「男も女もみんなキャラが同じ顔に見える」とか、「頭と身体のバランスがおかしい」とか、何かと「絵」について否定的な意見をいわれがちな作品ではある(もっともそれは本気の批判ではなく、ファンによる冗談めいたツッコミであることが多いが……)。しかし、本作をよく読めば、高橋陽一がほかに類を見ない、そしてかなり高度な(絵的な)漫画表現に挑戦していることがわかるだろう。

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