飯田一史が注目のウェブトゥーンを考察
国産ウェブトゥーンの最高峰『剣の王国』 ポップな色使いとスクロールを活かしたアクションの魅力
yoruhashiによるウェブトゥーン『剣の王国』は2014年1月31日から2019年2月1日までcomicoにて毎週金曜日に連載され、2018年発表の第4回「次にくるマンガ大賞」Webマンガ部門で15位にランクインするなど、高い評価を受けていた。
しかし約1年間休載が続いたのち、2020年1月29日に125話をもって未完のまま連載終了。comicoと契約が切れて読めなくなっていたが――2020年3月5日、yoruhashiが『はめつのおうこく』を連載するMAGUCOMIのリニューアルに合わせて1カ月に10話ずつのリバイバル掲載が開始された(『はめつのおうこく』はフルカラー縦スクロールのウェブトゥーンではなく、横描きモノクロのマンガ)。
国産のファンタジーアクションものウェブトゥーンの最高峰『剣の王国』が再び読めることになったことを祝って、ここで改めて紹介したい。
あらすじ――追い詰められた人間たちの逆襲
3人いる魔女のうち、1番目の魔女が女王となった「剣の王国」。“出来損ない”とされてきた3番目の魔女ジルコニアは、女王が放った刺客・白兎のジョーカーに殺される。その復讐を誓ったジルコニアの弟子アルフレドがこの物語の主人公だ。
アルフレドが住む島を訪れた、冒険家たちの船に隠れて乗り込んでいた少女ドロテーアと出会い、ふたりは仇である女王のいる王都エメラルドをともにめざす。アルフレドは復讐を成し遂げ、師匠である3番目の魔女ジルコニアとの約束を果たすため、ドロテーアは突然連行された父を救うために――。
目的を果たすためならとことん冷たく打算的に振る舞うように見えるアルフレドと、そんなアルフレドに振り回され続ける、絶対に諦めないがドジでうかつなドロテーアのふたりを軸に、いわくつきの人物たちとの交渉や戦いをしながら王都への旅は続く。
『オズの魔法使い』『海底二万マイル』『ブレーメンの音楽隊』『白鯨』などさまざまな名作をモチーフに築かれた独自の世界観を舞台に、それぞれの人物が持つ道具を使役して発動できるSPELLと呼ばれる不思議な力を使ったバトルや駆け引きが展開される。
淡くポップな色使いの画面構成とスクロールを活かしたアクション描写
『剣の王国』の魅力は、ひとつは世界の謎やアルフレドやドロテーアの過去が徐々に明らかになっていくというサスペンス、張り巡らされた伏線回収の妙にある。
しかし最大の魅力は、絵だ。
緑や黄系の色を多様に用いた独特な色彩感覚で構成された画面。たとえばフキダシの中の色が緑で塗られていることがあるのだが、こういうウェブトゥーンは日本でも韓国でもほとんど見たことがない。
そんな色味の絵だが、動きの描写が加わるとますます唯一無二の読み心地になる。
ウェブトゥーンが得意とする上から下への運動・回転の描写を駆使して、リンゴが頭上からぼたぼた落ちてくる、身体が紐で縛られ吊される、意表を突いて敵の下に潜り込む、水に潜る――という動きを巧みに描く。
また、やはりウェブトゥーンが得意である、巨大なものが卑小なもの(本作序盤なら2匹の龍が主人公)を襲い来るときの、上からのしかかるような威圧感の演出や、スマホの画面に収まりきらないほどの大きさの敵が手や足を振り下ろしたときの躍動感も序盤から十二分に堪能できる。
それだけでなく、本作はスマホを横向きにして読ませる横スクロール演出にまでチャレンジしていく。これはもう、読んで体験してくださいとしか言えない、この作品ならではのマンガ表現の世界がそこにはある。