『ゴールデンカムイ』アシリパの成長で杉元との関係性に変化? 最新刊で描かれた心の揺れ動き

 アイヌが秘蔵していた金塊を巡って、激しい争いが描かれる『ゴールデンカムイ』。金塊の在りかを知るにはは囚人の体に入っている入れ墨・通称刺青人皮を揃え、暗号を解く必要がある。日露戦争帰りの若者・杉元佐一とアイヌの少女・アシリパはそれぞれの目的のために手を組み、北海道を駆け巡ることとなる。

 争いと言えど、全員が敵というわけではない。共に行動をする者もいれば、一時的に手を組む人物だって現れる。しかし最終的な目的はみんな同じ。いつ裏切る人間がいてもおかしくない中、金塊を求めて旅は続く。

 だがそんな状況下でも、杉元とアシリパは絶対的な信頼で結ばれていることを忘れてはならない。多少の意見の食い違いやすれ違いはあったものの、再会を果たし“契約更新”をしたふたりの絆は強い。杉元はアシリパを危険な目に遭わせることを酷く嫌い、彼女の手を汚させまいと奮闘する。出会った頃の「私は人殺しはしない」という彼女の信念を守り通すためにも、汚れ役は戦争帰りの自分だけで良いと強く思っているのだろう。彼女を狙う人物には容赦せず、特にアシリパに興味を示した尾形百之助には強い敵意を向けていた。遂に21巻ではロシアを脱し、樺太へ向かう杉元一派。早々に足止めを食らうも、めげるような彼らではない。歩を進め、一刻も早く金塊を手に入れたのだ。

杉元のアシリパに対する想い

 杉元もアシリパも想いは同じ――だが、そんな二人の間に、ふとしたきっかけで認識のズレが起きてしまう。杉元は彼女を守りたい気持ちが強いゆえに、こんな血なまぐさい争いに巻き込みたくないと考え始めてしまうのだ。もともと、彼はアシリパに「クマやシカを追いかけて、ヒンナヒンナ(食事に感謝する言葉)して暮らしてほしい」という願いがあった。

 まだ若い少女を思いやる気持ちは痛いほど読者に伝わり、殺しや残酷な現実は大人だけでいいと思ってしまうのは無理はない。個性的なキャラクターやコミカルなシーンに惹かれて忘れがちだが、アシリパの周りにいるのは軍人や罪を犯した囚人で、穢れを知る人物ばかり。本来なら、平和に暮らしていた少女に近づくべき人物たちではないだろう。きっと杉元は、そういった部分も気にしているのだ。

 だがアシリパも、出会ったばかりの頃とは大きく変わっている。もちろん人殺しはしておらず、彼女の信念は変わっていない。だが旅をし、杉元と離れ、また再会し……。今までとは違う景色を見てきたため、「ただのアイヌの少女」ではなくなっているのだ。彼女には平和に暮らしてほしいと願う、父親的な目線を持っている杉元。それに対して成長していくアシリパ。21巻では二人のちょっとした心の揺れ動きにぜひ注目していただきたい。

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