「とある」シリーズ新たな外伝『とある科学の未元物質』で垣間見えた、垣根帝督の人間らしさ

 鎌池和馬によるライトノベル『とある魔術の禁書目録インデックス』(電撃文庫)は、2004年刊行の第1作から巻数を重ね、15周年を迎えた。この『禁書目録』本編に加え、『とある科学の超電磁砲』をはじめとするマンガによる外伝作品も多様に展開され、「とある」シリーズとして物語世界を深めている。現在アニメが放映中の『とある科学の超電磁砲レールガン』は、御坂美琴を主人公にしたスピンオフとして人気を博し、他にも2019年にアニメ化された『とある科学の一方通行アクセラレータ』や、外伝の外伝という位置づけの『アストラル・バディ』など、現在3作品が雑誌『電撃大王』で連載中だ。

 これら一連の作品の舞台となるのは、学生が人口の8割を占め、人為的な超能力開発が実用化されている科学の街「学園都市」。『禁書目録』本編では科学技術や超能力を中心とした科学サイドと、宗教や魔術などのオカルトに基づいた魔術サイドという、2陣営の混在と対立が描かれていく。他方マンガによるスピンオフでは、このうちの科学側にクローズアップし、超能力を操る学生を主軸に据えた派生物語が生み出されている。

 そんな「とある」シリーズのラインナップに、新たな外伝が加わった。それが如月南極の作画による『とある科学の未元物質ダークマター』(以下『とあマタ』)と銘打たれた、垣根帝督かきねていとくを主人公にしたスピンオフである。垣根は学園都市の暗部組織「スクール」のリーダーを務め、「未元物質」というこの世に存在しない物質を操る能力を持つ、学園都市に7人しかいない超能力者レベル5の第二位。初登場となった『禁書目録』15巻では「俺の『未元物質』にその常識は通用しねえ」という決め台詞を吐き、チンピラホスト風の美青年がメルヘンチックな白い翼を広げて戦うギャップに満ちた姿で読者に強いインパクトを与えた。本編での登場回数こそ少ないものの、根強い人気を誇る垣根帝督を主役に据えた外伝として、本作は第1話発表時から「とある」ファンの注目を集めた。

 『とあマタ』は、本作が初出のヒロイン・ゆずりは林檎と垣根帝督を中心に、林檎を狙う学園都市の暗部と垣根の戦いが描かれていく。林檎は“暗闇の五月計画”という、学園都市第一位の超能力者・一方通行の思考パターンや演算方法の一部を植え付けた実験の生き残りの一人であった。垣根は一方通行の演算パターンを求めて林檎に接触するが、そんな彼女を狙い、警備員のはみ出し者から構成されたDAやマッドサイエンティストの木原一族、さらには林檎と同じく“暗闇の五月計画”の被験者だった少女・黒夜海鳥も動き出す。当初は自身の目的のために林檎を庇護した垣根だったが、やがて彼女を守るために闘いに身を投じてゆく。

 かように『とあマタ』は外伝らしく、「とある」シリーズの既存設定を巧みに取り入れた構成がなされている。ストーリー自体の面白さや、『禁書目録』本編とリンクした細かい描写はむろんのこと(黒夜海鳥くろよるうみどりの能力の一つの出どころが本作で明かされるのも興味深い)、『とあマタ』ならではの魅力としては、垣根帝督像の深化が挙げられるだろう。

 これまでの垣根は暗部組織の一員という顔しか見えていなかったが、そんな彼にも出席日数を心配してメールを寄越す同級生がいることが明かされ、ごく普通の学生らしい日常世界があったことが初めて語られた。さらに、林檎という少女を保護して一緒に行動するなかで、垣根にある優しさやチャーミングな一面も引き出されてゆく。学園都市第二位としての強さばかりでなく、人間くさい一面もフィーチャーされたことで、垣根帝督の魅力は深まった。そして、そんな人間らしさの描写ゆえに、彼が最終的にたどる結末の悲劇性がより一層際立つ。

関連記事