人類は感染症にどう立ち向かってきたのか? 今こそ読みたい「感染症」ブックガイド

 『ペスト』が売れている。理由はもちろん新型コロナウイルスの流行からだ。

 アルジェリアのオランという都市でネズミの死骸が目につくようになり、病で伏せる人が現れ、ついには身近な人も倒れていく。ペストが徐々に街の人々へと広がり死が蔓延していく中で都市は封鎖され、その絶望の中で抗う人々の物語。『異邦人』『シーシュポスの神話』などで知られるアルベール・カミュの1947年発表の小説だ。

 いまこの小説を読むことは、現在の世界中の都市がおかれている状況に重ね合わせる以外にはない。日本でも多くの人が集まる行事やイベントが中止になり、仕事もテレワークなど自宅勤務が続いている。また訪日外国人も昨年2月には237万人だった新規入国者が今年の2月は100万人以下と激減し(参考:2月の外国人入国者数が激減 100万人下回る 共同通信 https://this.kiji.is/608522356221166689?c=113147194022725109)、皮肉にもそれまで当たり前のように街から感じていた賑やかさに失われてから気づく有様である。

 幸福だった季節のその銅色の輝きは失われてしまった。ペストの日ざしは、あらゆる色彩を消し、あらゆる喜びを追い払ってしまったのである。

 小説のこの一文は、まさに現在の世界を覆う状況を思い浮かべずにはいられないのだ。

 今回の新型コロナの流行で関連した本はないかと自宅の本棚を漁って見つけたのが、進化生物学者ジャレド・ダイアモンドのベストセラー『銃・病原菌・鉄』だ。本書はヨーロッパとその植民地に重きを置いていたそれまでの人類史研究から、東アジアと太平洋沿岸地域を中心として人類史を解き明かした「逆転の人類史」と評される名著である。

 なかでも病原菌が人類史においてどのような役割を果たしたのかという点がとても面白い。新型コロナウイルスはコウモリ由来の可能性が高いとされているが、動物から人間に感染する動物由来の感染症では正体不明の肺炎に罹った男性が羊と性交渉したことが原因だった例があげられる。また病原菌からの視点で見ると、我々人間と同じように病原菌もまた自然淘汰の産物であり、効率良く感染することが病原菌の生き残る術であるという。

 新型コロナの感染経路は咳、くしゃみなどの飛沫感染が主だというが、感染者に咳をさせ新しい犠牲者を増やしていくのは病原菌自身が感染を広げる手段として人間の体の症状を巧みに変化させているのだという。なんと我々は新型コロナに操られているのだ。このような観点から今の日本を俯瞰してみると、また違った心構えも得られるのではないか。

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