数人の主人公を両立して描く、藤田和日郎の見事な手腕 『双亡亭壊すべし』は最高到達点か
さらに増える登場人物
そこで、もはや打つ手のない政府に代わって、双亡亭を壊すための戦いに身を投じていくことになるのが上記の4人なわけだが、7巻以降は、それに帝国陸軍少尉の黄ノ下残花と霊能者の帰黒(かえりくろ)というふたりも加わり、主人公の数は6人になる(その他にも強烈な個性を持ったサブキャラが何人も登場する)。なにゆえ現代を舞台にした物語に帝国陸軍の軍人が出ているのかについては、実際に同作を読んでいただくほかないが、この、本来は手を組むはずのないキャラクターたちが団結したときに見せる“強さ”こそが、藤田和日郎が描く漫画の最大の魅力であるといってもいいだろう(たとえば『うしおととら』では、もともと反発しあっていた主人公ふたりが、最終的には「二体で一体」といわれるまでの最強コンビになる)。
ちなみに現在、『双亡亭壊すべし』は16巻まで刊行。“お化け屋敷モノ”という古典的な怪談として始まったおどろおどろしい物語は、スピード感あふれる現代的な異能バトルと、遠い宇宙から意思を持った液状の生命体が侵略してくるというSF的展開をまじえ、(おそらくはいま)佳境に入っている。凧葉、青一、緑朗、紅、残花、そして、帰黒。生まれた時代も能力も異なる6人が本当の意味でひとつになったとき、無敵の双亡亭は跡形もなく壊されることだろう。正義が最後に必ず勝つという絶対的な安心感。それが常に根底にあるからこそ、藤田和日郎の漫画は世代を超えて、多くの人々に愛されているのだといっても過言ではない。
■島田一志(しまだ かずし)
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69
■書籍情報
『双亡亭壊すべし 16』
藤田和日郎 著
価格:454円+税
出版社:小学館
公式サイト