壇蜜が語る、初の小説執筆と自身の結婚観 「弱い人同士が出会って、もっと弱いものを築き上げてもいい」

 女優・タレント・文筆家として幅広く活躍している壇蜜が、初となる小説『はんぶんのユウジと』(文藝春秋)を発表した。5章からなる本作は一見バラバラの短編集だが、読んでいくうちに群像劇となっているのがわかる。見合い結婚で出会った夫「ユウジ」を、結婚3カ月で亡くし未亡人となった「イオリ」を中心に、ユウジの弟である「タクミ」、その同級生「イチカ」などが登場する。様々なものから“取り残された”弱い人間たちの人生を、優しく描いていく壇蜜。初めての小説執筆についてや、惹かれる人物などを語ってもらった。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント企画あり】

『ベルセルク』から学んだ作者と読者の距離

ーーご出版・ご結婚おめでとうございます。小説はどのように書き始めたんですか?

壇蜜:ありがとうございます。雑誌に載せるための短編を書くという依頼が、最初のきっかけでした(『はんぶんのユウジと』と『タクミハラハラ』は文芸誌『文學界』に掲載)。依頼があってからはじめて小説の構想を考えて、『はんぶんのユウジと』の元となるものを書いてみましたが、結局全部書き直しになりました。もともとはもっと死に近くて暗い小説だったのですが、恋の描写などを増やして親しみやすい作品にしようということになったんです。当初は男性が主人公でしたが、女性目線に変えたらいいんじゃないかと気づいて、やってみたらうまくいきました。内容は最初に書いたものを元にしていますが、良い形に落ち着いたと思います。

ーー短編同士がちょっとずつ繋がって一つの群像劇になっています。この構成は『はんぶんのユウジと』を書いている時から考えていましたか?

壇蜜:長編小説やライトノベル、漫画でも、話がちょっとずつ繋がっているものを、何巻も何年も追うようにして買っている自分に気づいたんです。とくに私、漫画の『ベルセルク』は高校生の頃から買っていて、ずいぶん付き合いが長いんです。その『ベルセルク』もやっぱりちょっとずつ話が繋がっている。それに、長年追っているうちに作者との距離が近くなっているような気がして、自分にもそんなことができたらいいなと考えていました。今回、書籍にするにあたって、バラバラだった二つの作品を新しい書き下ろしの作品と並べることで、それぞれに繋がりが生まれていきました。『はんぶんのユウジと』を書いた時はそこまで意識していませんでしたが、最終的に理想に近づいたと思います。

ーー執筆に当たって影響を受けた作品はありますか?

壇蜜:この本の“亡くなった夫の弟と恋仲になる”っていうエピソードは、西岸良平さんの『三丁目の夕日』の一話がモデルになっています。読んだ時、昔は戦争があってそういう状況にある人がいっぱいいたのかと思い巡らせ、そこに現代ではあまり見られない情緒を感じたんです。それを今の時代に、自分で形にできたのは嬉しかったですね。

「今っぽくない」人たちもいてほしい

ーー“夫の弟と恋仲になる”っていう感覚は今だとちょっと珍しいかもしれませんね。

壇蜜:出会いのきっかけが増えましたし、以前と比べると家を守る責任のある人が少なくなったのもあるんじゃないでしょうか。でもそういう「戦時中じゃないんだから」っていう関係が、平成や令和にあってもいいんじゃないかなという気持ちはありました。お見合いをさせるような、古い家を背景にしたのはそこを書きたかったからかもしれません。二人とも暮らしにあんまり不自由してないし、自立が遅れている感があります。今じゃない風に書きたかったんですよね。

ーーユウジもイオリもどこか冷めていますが、優しさも感じました。

壇蜜:二人とも親に勧められた結婚に抵抗しないで、嫌じゃなければいいかって、受け入れて二人で暮らし始める。その潔さが、優しさに繋がっている気がするんです。抵抗したり、喧嘩をしながら生きていくのを二人は選ばなかった。それもまた今っぽくなくて、私は好きなんです。きっと二人はすぐネットを見たり、自分の愚痴をブログに書いたりしないタイプだと思うんですけど、そういう人たちもいてほしいなという願いもあります。

ーー二人とも能動的に何かをせず、言われたことに対して流されるタイプですよね。

壇蜜:そうですね、弱いですよ。抵抗もできないし、誰かによってデザインされた箱庭のおもちゃみたい。季節で言うと、冬の人たちだと思います。でも、自立とか自活とか自己実現って声高に言っているような人達が、絶対に感じられないものを感じて生きていると思います。

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