『十二国記』シリーズはなぜ大ヒット作になった? 現役書店員が考察する、ファン層拡大のプロセス

 そして次のポイントは2003年のアニメ化である。ここでもまた、新たに夢中になる10代がたくさん生まれる。この時期に10代だったのが現在のアラサー世代である。

 高校生の頃アニメで夢中になった知人は、20代になって新潮文庫版を大人買いした。そうやって、複数の出版社、形態、媒体を変え続けることによって、元々のファンが自身の成長に合わせて、感慨と共に新規媒体を購入していく。

 そして、18年ぶりの新作、『十二国記 白銀の墟 玄の月』である。新作発売の告知が流れた昨年末から発売の10月にかけて、新潮社のプロモーションは念入りで、書店には大型の宣伝・告知用ポスター等が続々と届けられた。そこに『十ニ国記』と共に青春を過ごした元文学少女である現在の書店員たちの並々ならぬ情熱が注がれたのは言うまでもない。多くの書店の『十ニ国記』コーナーにたっぷりの愛が篭もった手書きPOPが踊っているのを散見した。通路を歩く人が、『十ニ国記』新刊発売告知の段階の既刊本フェアの前で足を止めて「え?新刊?本当に!?」と小躍りした。熱心なファンは、新刊発売を前に10代の頃に読んだ本をもう一度読み返していた。語り合う仲間を増やすために愛を熱烈に語る人も、わかりやすい入門の仕方を一緒に考えようとする人もいた。その熱意に押されてアニメを観始めた人も、本を片っ端から読み始めた人もいた。この爆発的な人気を知って、「読んでみようかしら」とレジで微笑みかけてくれたご婦人もいた。

 18年。その歳月待ち続けた人もいれば、途中で出会った人もいるだろう。十数年越しのプレゼントのような、そんな気分なのかもしれない。その間に子供は大人になった。多くの人生のターニングポイントを迎え、多くのことを経験した。人生の中で一番多感な時期に、『十ニ国記』と出会い、読書の興奮に胸を躍らせた記憶が、彼らの心を幸福にざわつかせ、発売日に書店に駆けつけさせたのだとしたら、なんと幸せなことだろうと思うのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

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