日本でも大麻に関する議論は始まるか? 『真面目にマリファナの話をしよう』が訴えるもの

 「もう長いことずっと非合法ドラッグとして取り扱われてきたマリファナは、もはや一部のアウトロー、フリークやヒッピーだけが手にするものではない。(中略)マリファナがタブーだった時代は、すっかり過去のことだ」(まえがきより)

と、述べるまえがきは端的に本書のあり方を示している。

 いまやアメリカの9つの州で身分証さえあれば誰でもアクセスできる、酒やタバコ、あるいはカジノと変わらない嗜好物のひとつと著者は捉え、合法化時代のマリファナ文化をルポルタージュするのが、佐久間裕美子の新著『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)だ。アメリカ在住の著者だからこそ見える「テレビなどでカンナビス(注:大麻と同義)が危険ドラッグとして語られるのを見るにつけ、世界で起きている認識のシフトから、日本がどんどん取り残されている」という、日米間に横たわる「問題認識のギャップ」が執筆の動機となっている。

 さりとて、マリファナがアメリカの日常に根ざす嗜好物にまで至る道のりは一筋縄ではなく、60年以上議論の応酬があった。だからこそ、マリファナ解禁派の市民らは民意を獲得するために、書名の通り「真面目にマリファナの話」を中央政府と論戦を交わし続けた。その戦いの道のりを本書は描く。

 そもそもアメリカの法制度において、マリファナの解禁は住民投票によって決定される。今となっては賛成多数を得られるほど、人々が大麻に好感を抱いているが、数十年前まで合衆国はどこの国よりも大麻バッシングの激しい国であるのみならず、バッシングの発信地だったという。しかも大麻批判の大半は、事実に基づかないデマであった。特におぞましいのは、人種差別と結びついていた点だ。1920年代、メキシコ移民がアメリカに大量に訪れ仕事が奪われると、労働者は移民に対して危機感を募らせていた。そんな時、移民たちが吸っていた大麻に目をつけ、いまだに大麻否定論者が副作用としてあげる「マリファナを吸うと気が狂う」という風説がどこからともなく登場した。

 この有害論も大きく影響し、30年代から今日まで続くアメリカでの大麻取り締まりが始まる。実は、これが現代日本にも大きく影を落としており、私たちが当然のように従う日本の大麻取締法は、1947年にアメリカのマリファナ政策の一環で、GHQが施行させたものだと佐久間は指摘している。アメリカの議論は、私たちと無関係ではないのだ。

 著者はマリファナのへの敵意・誤解を氷解させた、解禁派の論理を3つのレイヤーを用いて整理する。1つ目は、様々に恐ろしい副作用が喧伝された大麻を科学的に分析する科学の領域。1944年の時点で、よく知られている「大麻は酒やタバコよりも危険性は乏しい」という研究が発表されていながらなお、マリファナを社会悪とする政府見解を崩すため、所持で逮捕されるリスクを背負いながらかの有名なティモシー・リアリーら医学者たちは地下研究を重ねてきた。

 2つ目のレイヤーは、自由と人権の問題だ。ヒッピームーブメントで大麻の使用者が急増したころから、さして害のない大麻を所持していただけで逮捕する法律は疑問視されてきた。マリファナ合法化を支持する政治家や弁護士らは、政府を相手取り憲法裁判を提起し、誤った法をこそ変えようと試みる。

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