異例のヒットとなった児童書『こども六法』の意義 “こども”以外にもオススメの理由

 中1のころ、担任の教師の横暴さに憤りをおぼえ、「こいつ、絶対法律守ってねえだろ」と思って誕生日に親から六法全書を買ってもらって理論武装をし、将来は弁護士になろうと考えた。

 その後、法律よりも別のことへの関心が増したために(一応法学部は出たものの)法律とは何の関係もない仕事に就いているが、自分が思春期のころにこんな本があったら真剣に読んだだろうな、と思える一冊だ。

小学校高学年から中学生向けに法律の条文をやさしく表現

 本書では、たとえば刑法第38条「故意」に関する規定については

1項 罪を犯そうという意思がなかった場合は、罰しません。ただし、法律に特別な決まり書いてある場合は除きます。(16p)

 刑法第174条「公然わいせつ」に関する規定については

みんなの前でわいせつな行為(みだらでいやらしい行為、人の見たくない物を見せびらかす行為)をした人は、6か月以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留、科料のどれかの刑とします。(33p)

といった具合だ。

 「拘留」とか「科料」って言葉そのまま使ってるの、難しくない? と思ったかもしれないが、この本では専門用語の初出時には解説があるのでそんなことはない。

 それぞれ原文は

「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」

「公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」

だから、「子どもでもわかるように書いている」という触れ込みはウソではない。

 いわゆる児童書の「読みもの」には、社会科や理科と関係する本は無数にあるが、歴史や生物関係が多く、法律に関する本はなかなかないし、この本のように売れているものとなるとますますない。

 受験に出題される法律といえば憲法の前文や9条、25条など、限られているから「出したところで需要がない」と多くの出版社がこれまで判断してきたのかもしれない。

 しかし本来、法律は身近なもの、生活の至るところに関わってくるものである。

 それを縁遠くさせているのは、一読しただけでは頭にすっと入ってこない条文が大きな理由のひとつだ――と、誰しも考えたことがあると思う。

 誰しもが思うにもかかわらず、意外にもほとんど誰もやってこなかった「小学生でもわかるように書こう」ということを多数の法曹関係者や想定読者である子どもたちの力を借りて実践し、本にまとめた試みが本書である。

法律をわかりにくくさせている点に配慮した書き方を徹底

 小学校高学年から中学生向け、と言ったが、法学部を受験しようかなと思っている高校生や、法学部入りたての一年生、あるいは刑事ものや法廷もののミステリー小説、マンガ、ドラマなどに触れているけれども実は出てくる用語がよくわかっていない人、あるいは裁判員に選ばれてしまったがそもそも制度の仕組みも背景になっている法律もさっぱりわからない、という人にもおすすめだ。

 たとえば「親告罪って何?」とか「被告人と被告はどう違うの?」「任意規定って何?」といった基本的なところから解説してくれる。

 また、刑法や民法を第一条から順番に順番に解説するのではなく、たとえば刑罰の種類に関する条文などをトピックごとにまとめて解説し、大事なことは「むりやりエッチなことをするのは絶対ダメ!」といったようにフランクな口語で見出しにする。

 条文の一文一文が理解しづらいだけでなく、どの法律も、頭から順に読んでいっても訓練を受けていない人間にはその体系性、条文同士のつながりはよくわからないことが少なくない。

 だからこそ法律を勉強するには専門的な教育期間に通わなければならないわけだが、使う側からすれば不便である。

 本書は子どもの視点に立って、「こういう問題のときはここを読んでね」というのがざっくりわかるように書いている。

関連記事