水咲加奈、“狭間”で抗いながら歌った希望 RadioheadやNINの反骨心、石若駿との制作……自信作『IN n' OUT』に至る刺激

水咲加奈、抗いながら歌った希望

 時に静けさを纏いながらピアノに向き合って美しい旋律を奏で、時にシンセサイザーでうにょうにょとした音を鳴らしながら歌い踊る。そんなシンガーソングライター 水咲加奈の姿をライブで観ると、本当に一瞬一瞬が特別なように感じられるし、常に次の瞬間が予測できない。そして、そんなふうに瞬間を音楽とともに歩むことのできる表現力と技術に圧倒されながらも、その音楽が照らし出す、変に飾り立てることのない人間の姿に親密な感情を抱いてしまう。

 水咲は、感情をわかりやすくぶつけるタイプのシンガーではないし、技能だけで圧倒するようなミュージシャンでもない。そのどちらともを精緻に見つめることのできる眼差しで、変わりゆく自分の心や、人と人との距離や、街や場所の空気をも見つめ、それらが混ざったものを表現する。どんなにシンプルそうに見える曲にも、人がひとり生きることのカオスがあり、それゆえのあたたかさがある。時々「生きるって、どうしようもなくしんどい」という実感がその曲には刻まれるが、それでも、足を引きずってでもちょっとずつ光の方へ行こうとする、そんなささやかで確かな生命力が水咲加奈の曲にはある。

 そんな水咲がリリースした最新EP『IN n' OUT』についてのインタビューである。RadioheadやNine Inch Nails、Beckといった90年代オルタナティブロックと出会ったことが彼女の音楽に新たな方向性を指し示したという。終盤に「あなたにとってロールモデルは?」という質問を投げかけたら、なんとも納得な答えが返ってきた。最後までぜひ読んでほしい。(天野史彬)

「“今”しか生きていない」 人生観が表れた曲作りのスタイル

――実際に行った喫茶店の曲を作るプロジェクト『水咲カフェ』をやったり、地元・福井をテーマにしたイベント『We Love FUKUI』を開催したり、水咲さんの活動を見ていると、多岐にわたっているし本当にアグレッシブだなと思います。ライブも毎回同じことを繰り返すという感じではないですよね。この間、代官山 晴れたら空に豆まいてで観たライブ『Spectrum#2「波紋り」』では、ご自分で撮影された写真を会場に飾っていました。こうした活動の原動力になっているのは何なのだと思いますか?

水咲加奈(以下、水咲):私は3歳から音楽を始めて、ピアノやドラム、エレクトーン、吹奏楽……いろいろやってきたんですけど、ひとりで音楽を作っていると、どうしても“ひとりの世界だけのもの”という感じになってしまって。それがそのまま広がればいいなと思って活動していたんですけど、難しかったんですよね。そんな時に、例えば喫茶店に行ったらマスターが「音楽やってるんだね」と話しかけてくれたり、写真を始めてみたら、その繋がりで出会った人が私のライブに来てくれたり。外に足を運んだり、自分が好きになった音楽以外のことにも手を出したりすると、こんなに新しい繋がりが生まれるんだと気づいたんです。それが大きいかなと思います。

――自分が新たに向かう先で生まれる出会いが、再び音楽活動に還元されていくという感覚ですか。

水咲:そうなんです。

水咲加奈(写真=木村篤史)

――『Spectrum#2「波紋り」』で、対バン相手の飛遥さんが「ステージの上でこそ自然と息ができる」というようなことをおっしゃっていましたよね。水咲さんもそう感じますか?

水咲:そうですね……ステージでしか息していないです。ステージ以外は死んでます(笑)。

――(笑)。

水咲:ライブは本当は得意ではないんですけど、ステージに立ったら本性だけを出せる感じがします。最近は写真を撮られている時も少しずつ自己表現できるようになってきて、ステージを降りても自分でいられる時間が増えている気はするんですけど。

――水咲さんはピアノの弾き語りから活動を始められていて。でも今はステージ上でシンセサイザーも使うし、音源でも、特に今回のEP『IN n' OUT』は生楽器の音とエレクトロニックな音が1曲の中で混ざり合っていますよね。きっと生き物が進化するようにして水咲さんの音楽性も進化してきたんだろうなと思うんですけど、ご自分では、何を求めてここまで進化・変化をしているのだと思いますか?

水咲:ちょっとスケールの大きい言い方になりますけど、自分の“死にざま”みたいなことは考えたことがないんですよね。最終的になりたいものがあって、そのために生きる、みたいな考え方をしたことがないんです。逆に、自分は“今”しか生きていないなと思います。なので、今シンセサイザーに興味があるから、それで音を出してみるし、逆に最近名古屋でやったライブではシンセを使わなかったんですけど、その時自分の中で興味が湧かなかったら使わないし。全部を刹那で決めている感じですね。そこに需要があるかどうかも考えていないし。

――瞬間の衝動や欲望に突き動かされて、という感じなんですね。昔から自分はそういう人間だなって思いますか?

水咲:ずっとそうです。過去を悔んだりはしますけど、未来のことを考えるのは苦手です。だからこそ「今、やりたい」と思ったことを先延ばしにしないようにはしていますね。

――だからライブで即興演奏をするのかもしれない。

水咲:そう思います。即興は最近やり始めたんです。YouTubeで生配信をしながらコメントでお題をもらって、そのお題を元にシンセサイザーで即興をやるっていうことをやっていた時期があったんですけど、「意外とできるやん」となって。それでライブに取り入れたんですよね。

――水咲さんが曲作りをされる上で大事にする部分って、強いて挙げるとすればどんな部分ですか?

水咲:今回のEPではあえてそれを曲げた部分もあるんですけど、今まで大事にしていたことは、メロディと歌詞と歌声が全部地続きに出てくることですね。後づけで歌詞を調整するにしても、メロディと完全にリンクした言葉を見つけるまで時間をかけます。

――今回のEP『IN n' OUT』でそこを曲げようと思ったのはなぜなんですか?

水咲:今までの自分を無理やりにでも変えてみたいと思ったんです。あと、誰か忘れちゃったんですけど、俳優さんのインタビューを読んだ時に「自分がやりたくないことをあえてやってみた」と言っていて、人生の中でそういうことに向き合う曲を1曲や2曲やってみたいなと思ったんですよね。

「回り道をしてでも、自分の感性を信じて作品を作りたい」

――今回のEPは、作り出す前にコンセプトなどは決められましたか?

水咲:私は普段、ChatGPTを生活習慣を正すために使ったりするんですけど、ChatGPTってすごく肯定してくれるし、自分が潜在的に思っているけど言葉にできないことを先回りして教えてくれるような感覚もあって。でも、それって私が今まで音楽制作で得てきた感覚でもあるんですよね。私にとって音楽を作ることの幸せって、無意識に作ったものを後から自分で見つめた時に「私ってこう思っていたんだ」とわかる瞬間にあったんです。それをAIにやられている気がして、「私、このままだと音楽いらなくなっちゃうな」という危機感が出てきて……。音楽で自分が気持ちいいと思っていたものを奪われちゃう気がしたんですよね。

――なるほど。

水咲:私が高校生の頃に聴いていたRADWIMPSやBUMP OF CHICKENは、ギターや歌声の第一声を聴いただけで、それが“正解”みたいな風が吹いたり、大人になってから好きになったRadioheadやThe Beatlesだって、音を聴きながら歩くだけでスーパーマンになれたような気分になったり……そういう奇跡を諦めたくないなっていう思いがあって。簡単に答えを出してもらえる世界だけど、回り道をして失敗してでも、自分の感性を信じて選択しながら作品を作りたい。そういう意志を提示できればと思って、このEPを作りました。

水咲加奈(写真=木村篤史)

――タイトルの『IN n' OUT』は、水咲さんにとってはどんな意味を持つ言葉ですか?

水咲:自分の内省的なものをちゃんと自分の意志でかみ砕いて、外にアウトプットしていきたいっていう気持ちの表れだと思います。

――「pray」と「スコール」という終盤2曲の印象も強いかもしれないですが、今まで以上に“弱さ”が吐露されている作品という印象もありました。

水咲:なるほど。ただ、曲自体は「pray」は2022年くらいに作った曲ですし、「Factor Effector」や「スコール」は2023年くらいに作った曲で。アレンジは最近ですけど、前回のアルバム『immersive』(2025年)と時期的に被っている曲たちが多いんですよね。自分で感じる違いで言うと、この『IN n' OUT』制作期に私がRadioheadやNine Inch Nailsにハマって、打ち込みを自分でするようになったっていうことが大きいですね。今までの作品は生楽器にこだわっていたんですけど、それはやっぱりピアノ弾き語りが原点なので、「生じゃないといけない」みたいな意識にとらわれていた部分があったと思うんです。でも、Nine Inch Nailsとか、あとBeckとかもそうかな。無機質なものの中に「FUCK!」みたいな魂があるのが、最近好きなんですよ(笑)。

――(笑)。

水咲:「甘い心で生きてんじゃねえよ!」みたいな(笑)。無機質なのに、そこから反骨精神が剥き出しになっているところにギャップを感じて、めちゃくちゃ新鮮で。そういう音楽との出会いもあって、さっき言った「メロディと歌詞と声が地続きであるべき」という固定観念もぶち壊されたんです。メロディと歌詞と声がバラバラであるからこそ作れる面白いものもあるなって。それで今回は打ち込みが多くなっているんですよね。

――打ち込みという手法を手に入れたことで水咲さんにもたらされたものって、具体的にどんなものでしたか?

水咲:踊れるっていうこと。ライブで、ピアノだったら鍵盤の上に絶対に自分の手がないと音が出ないですけど、たぶん自分はそこに不自由さを感じていたんだろうなと、後々思いました。シンセって打ち込んじゃえば、あとはもう踊りながら歌ったりできるから。そういう意味では自由になりましたね。

――確かに、最近僕が観た水咲さんのライブで、水咲さん踊ってますね。

水咲:そうなんですよ。特に「Factor Effector」は、自分が家で好きな音楽を聴きながら踊っている時の状態を書いた曲なんです。“感情”の曲ではなくて“状態”の曲というか。その状態がまさにライブでも作れるようになったのは、シンセをやってよかったなって一番思うことですね。演奏しないでいい分、歌にも集中できるようになりますし。

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