水咲加奈、“狭間”で抗いながら歌った希望 RadioheadやNINの反骨心、石若駿との制作……自信作『IN n' OUT』に至る刺激

「すごく救われた」――水咲加奈にとってのロールモデル
――『immersive』収録の「あおい」や「クリスタル」に引き続き、今回も「IN n' OUT」や「Factor Effector」、「スコール」で石若駿さんがドラムやアレンジで参加されていますけど、水咲さんにとって石若さんはどんなことを伝えてくれる人ですか?
水咲:音楽って楽しいものなんだなって、石若さんに会うといつも思うんですよね。石若さんはお忙しい方ですけど、ご自身のライブが終わった後の夜9時とか10時にスタジオに来てくれて、すごく元気に「最高! ウエーイ!」って言いながら、子どもみたいに半ズボンで曲を聴いてはしゃぐんですよね(笑)。その姿を見ると「私もこうありたいな」と思います。前作でもそうだったけど、私が楽譜を共有する前にアレンジを作っちゃったり、言葉がなくても感覚的に音を出すことで「これだよね」というものを分かち合える。それはすごく楽しいですね。だから、今回はその曲がどういう曲なのかも説明せずに「石若さんの感性で作ってください」って、アレンジをお願いしました。
――石若さんから返ってきたものは、水咲さんにとってもしっくりくるものでした?
水咲:予想通りのものではなかったです。新しかったですね。「Factor Effector」はピアノの弾き語りでデモを作り込んでいて、かなり細部までこだわって作ったんですけど、石若さんから返ってきたものではそのピアノが一切使われていなくて(笑)。でも、音楽を爆音で聴きながら踊っている妖艶な姿をイメージできる曲になっていて、説明していないのに曲のことが伝わっている感じがして、嬉しかったです。
――「Factor Effector」にも「スコール」にも、歌詞に〈怪物〉という言葉が出てきますよね。水咲さんにとって〈怪物〉とは何を象徴する言葉ですか?
水咲:ちなみに「あおい」という曲でも〈バケモノ〉という歌詞が出てくるんです。なんというか……「自分って普通だな」と思う瞬間が辛いというか。自分が発した言葉が相手にとってズレたものだった時に、「傷つけてしまった。辛い」と思うんですけど、そういう時、自分が怪物のフリをすれば助かるような気がするんですよね。「どうせ私は変なヤツだから、世間とズレていても仕方がない」と思えば、それが言い訳になるような気がしていて。でも、それを嫌だと思っている自分もいるんです。ちゃんと社会に適応したいし、変だと思われたくない自分もいる。ただ、そうやって社会に溶け込んで、みんなに愛される自分でいられたとして、それをどうしてもつまらなく思ってしまう自分もいる。「だったら怪物になりたい」とその時は思ってしまう。そういう二面性を表す時に、〈怪物〉や〈バケモノ〉という言葉を使いますね。

――そういう二面性とか、いろいろなものが混ざり合った状態を水咲さんは歌われますよね。僕が『水咲カフェ』の曲たちを聴いた時に感じたのは、単純に水咲さん自身の心象を歌っている曲たちではないし、ただ喫茶店の景色を歌っている曲たちでもない。そのふたつが溶け合っているものを水咲さんは歌っているんだな、ということだったんです。境界線に広がる宇宙というか、そこにある“あわい”が水咲さんの曲になっている気がします。
水咲:そうにしかできなかったという感じですね。『水咲カフェ』もお店の説明の曲を作れれば、もしかしたらタイアップだって取りやすいのかもしれないし、感情だけにフォーカスを当てれば、感情的な表現が好きな人が聴きやすいと思うんですけど、結局どっちにも行けずに、狭間で抗っている感じがあります。伝わるのに時間がかかるものかもしれない。でも、諦めたくないという思いがあります。
――水咲さんにとってのロールモデルというか、ミュージシャンじゃなくてもいいですけど、「この人が好きで、憧れているし、尊敬している」というような人っていますか?
水咲:ああ、誰だろう……。三島由紀夫かな。『音楽』という小説が大好きなんです。かなり変態的で官能的ではあるんだけど、そこに性的なものを感じないんですよね。私には昔から、セクシーではありたいけど、性の対象としては見られたくない、という感覚があって。その小説はそれを言葉で表現してくれている感じがして、すごく救われたんですよね。

――なるほど、すごく納得しました。改めて、今回のEP『IN n' OUT』は水咲さんにとってどんな手応えのある作品になりましたか?
水咲:変なEPになったなと思います。収録曲も全部違うし、音作りにしても「ナイフ」はかなり異質な曲なんですけど、通して聴くとちゃんと全部「いい曲だ」と思える。やり切った感じはしますね。自信を持って届けられる作品ができてよかったなと思います。あと、私はよくも悪くも曲にバリエーションが出てしまうので、それをまとめるのがいつも難しいんです。それを散々いろんな人に「わかりにくい」と言われてきたし、でも統一できず、何かを捨てることもできず、ここまできた。そんな中で『IN n' OUT』は、私にとっては、なぜか統一感があるんです。バラバラなのに統一されているなと思う。
――こんな作品を作る水咲さんの背中を見て、勇気をもらう人もいるんじゃないかと思います。きっと自分の中にいろんなバラバラなものを抱えていて、それを統一できず、かと言って何かを切り捨てることができない人たちは、たくさんいると思うので。
水咲:確かに。そういう人たちの希望になれたら嬉しいです。

◾️リリース情報
水咲加奈
EP『IN n' OUT』
配信中:https://pcim.lnk.to/INnOUT
<収録曲>
1. IN n' OUT
2. Factor Effector
3. ナイフ
4. pray
5. スコール





















