中嶋ユキノ、浜田省吾と10年で築いた特別な信頼関係 『Traveling Heart』に詰め込んだ人生と音楽の旅路
音楽に対してまっすぐで、誠実ーー浜田省吾への感謝と尊敬
ーー「夕日のひと滴」で〈おしゃれな言葉で歌いたいのに〉というところがありますが、そういうことでしょうか(笑)。この「いつかキミと海辺の町で」の〈今日は僕が片付けるよ〉は、7曲目の「洗い物担当くん」の前振りのようです(笑)。この曲は中嶋さんならではの日常感が歌われていますね。
中嶋:これは実は両親のエピソードから生まれた曲で、実家に帰って両親と3人で食事をしていた時に、父が自分の食器を置いたまま「ご馳走様」ってリビングに行こうとしたら、母が「自分で食べた食器ぐらいシンクに運んでちょうだい!」って怒ったんです。父も私もびっくりして。多分母は前々から思っていたんだと思います。で、これ曲になる! と思ってバーっと詞を書きました。それ以後、父はシンクに食器を運ぶようになり、日曜日だけ“洗い物担当くん”になっています(笑)。この曲はライブで何回かやっていて、SNSで「あの曲リリースしてください!」と何人もの方からコメントがありました。ライブで聴いて共感してくださったのかな。
ーー見えない家事への苛立ち、わかります(笑)。「柊の詩」は一転してロマンチックでドラマチック。
中嶋:この歌は、メロディと歌詞を書いて仮歌を乗せて浜田さんに聴いていただいたんですけど、数日後、違う歌詞がメールで送られて来ました(笑)。元々の歌詞も恋愛ソングでその点は変わらないんですけど、主人公がミュージシャンに変わっていて。柊ってだいたい11月ぐらいに点灯式とかで飾られて、クリスマスがやってくるんだなと誰もが思うシンボル。この歌詞の女性は、柊に彼との思い出があるんですよね。アレンジは、ピアノとストリングスが主体になっているんですが、Dメロでは雰囲気がガラリと変わります。ミュージカルソングのようなドラマチックな曲になって、とても思い入れのある歌になりました。
ーー「好きで好きで」は2022年、「夏のせい」は2021年の配信シングル曲で、この2曲が(2026 Version)なんですね。新録したのは何か理由があったんでしょうか。
中嶋:「好きで好きで」は最初に配信で出した時は打ち込み系だったんですけど、このアルバムは全体を通して生音にこだわったものにしたかったので、打ち込みの音数を少なくしてアコースティックギターを録り直して、よりシンプルなサウンドにしました。「夏のせい」は、コロナ真っ最中の時に配信リリースした曲で、レコーディングスタジオにもなるべく一人二人で入ってくださいみたいな、そういう時期で。ギターの渡辺裕太さんには家で録音してもらって、あとは宗本康兵さんが家で打ち込んでくれて、そのオケで私は一人ボーカルブースで歌って。本当に少人数で作ったのが配信バージョンです。今回は、生のバンドサウンドにしよう、ホーンも入れて華やかにしようと。この2曲はアレンジも変わったし、ボーカルレコーディングをやり直そうと思って新しいオケで歌ってみたんですけど全然よくなくて。ライブで結構歌ってきている曲なので改めて歌い直すと気合が入り過ぎてしまって、ちょっと違う。なので、配信バージョンの歌のまま、オケだけ変えてるんです。
ーーそうなんですね、今の技術ならできることですけど、新録ならまず歌をと思いそうですが、歌だけが元のテイクというのは面白いですね。何が違ったんでしょう。
中嶋:自分でもびっくりしましけど、その時の声質だったり、歌った時の気持ちだったりが、特別にある2曲なんですね。「夏のせい」は、20代の頃に書いた曲なんですけど、それにDメロを付け足したんです。そこはコロナ禍でしか書けなかった部分なので、ここを歌うと「あの時はみんなマスクをして、音楽することが当たり前じゃなかった」という当時を思い出しますね。
ーー「消えないニキビ」も会えない孤独感を歌った曲でしょうか。消えないのはニキビではなくて、というのが中嶋さんらしいと思います。
中嶋:嬉しいお言葉ありがとうございます。この曲はコロナ禍前に書いたんですけど、ライブツアーで仙台に行った時に、本番を終えてホテルに帰って全く眠れなかったんです。そのまま朝を迎えて、ふと思いたって書いた曲です。その時にこういう実体験があったわけではないんですけど、旅で生まれたという点ではこのアルバムにふさわしいかなと思っています。
ーー「終わりのない旅」はタイトル通り旅の歌ですが、日常との対比といったものがテーマでしょうか。
中嶋:これもツアー中に書いた曲で、大きいトランクとギターを持って満員電車に乗って東京駅に行かなきゃならなくて。その時に「すみません!」と言いながら乗るんですけど、ふと周りを見渡した時に、ネクタイをしっかりしめてピシっとスーツを着た方や、眠そうな顔をしながらスマホを見ている方、イヤホンをして目を瞑りながら満員電車に耐えている方、いろんな方の日常が電車の中に詰まってる。でもドアが開いた瞬間、皆さんそれぞれの日常に駆け出していくんですよね。そういう方の日常に寄りそった歌を書きたいと思ってこの曲を作りました。
ーー最後の「そよ風のように」も浜田さんとの曲。
中嶋:この曲は、2022年に曲作りをしている時にピアノを弾いていたら、AメロからBメロが自然と出てきて、それをiPhoneのボイスメモに残していて。これいい曲になりそうなんだけど、この続きどうしたらいいんだろうというのが3年ぐらい続いて、2025年に春の曲にしようと決めてから後を書いていったんです。〈花びらを川に流して願う幸せ〉と歌っていますが、桜は散って地面に落ちてしまうじゃないですか。あんなに「綺麗だね」と見てもらえていたのに、最後には人に踏まれてしまうことに儚さを感じて、地面に花びらが落ちる前に7枚拾って、それを川に投げ込んで、すべて着水すると願いが叶うというジンクスを自分で作ったんです。これを歌詞の中に込めました。
ーー素敵なおまじないというか儀式ですね。流行っちゃったらどうしましょう(笑)。叶った願いもあるんですか。
中嶋:あると思います。願い事は言っちゃうと叶わないというから秘密ですが……(笑)、今も毎年やっています。
ーードラマチックな13曲が揃い、まさに人生の旅をしているような作品になりました、この作品を通じて伝えたいこと表現したいことはなんでしょう。
中嶋:それぞれ別の主人公のように見えて、一人の主人公が13曲に渡ってこころの旅をしているような感覚ですね。過去を振り返えらないとか、前だけ見ようとか、未来を考えても仕方ないとか、そんな言葉もあると思うんですけど、過去を振り返ったり、未来を見つめたり、どっちも素敵なことだと私は思っていて。この作品を通じて、皆さんの人生の一瞬一瞬の大事さを感じていただけたら嬉しいです。
ーー浜田さんのプロデュースを受けての10年、振り返っていかがですか。
中嶋:今回のアルバムは共作も多いので、本当に思い入れが強い作品になりました。私から見て浜田さんは、音楽に対してまっすぐで、誠実で、一つ一つの曲に対して言葉やメロディを磨いていくことにとても長けている方。特に言葉は、自分の作品のように向き合ってくださいます。10年経った今も、沢山のことを学ばせていただき、とても感謝しています。
ーーそういう信頼関係もうかがえる作品ですね。10年を振り返って一番思い出深いことはなんでしょう。
中嶋:一番というと、コロナ禍を越えてやった弾き語りライブから見えた光景ですかね。みなさんマスクをしていらして、一緒に歌うこともできず手拍子や笑うのも控えてるような雰囲気で。でもそれを経て、みんなで一緒に声出せるって楽しいことなんだな、ライブってすごい!と改めて感じました。またツアーが始まりますが、そういう気持ちは一層強くなっているかもしれません。今回のツアーは過去最多の16カ所行かせていただくので、今までの感謝の気持ちを込めて、いつも応援して下さっている方や、初めての方にも楽しんでいただけるものにしたいと思います。
■リリース情報
4th ALBUM『Traveling Heart』
2026年9月2日(水)リリース
Illustration:タカヤユリエ
【収録曲】
1. こころトラベル
2. カンガルーファイター
3. Can’t stop this feeling!
4. あとほんの少しだけ
5. 夕日のひと滴
6. いつかキミと海辺の町で
7. 洗い物担当くん
8. 柊の詩
9. 好きで好きで(2026 Version)
10. 夏のせい(2026 Version)
11. 消えないニキビ
12. 終わりのない旅
13. そよ風のように
【Blu-ray収録曲】
1. カンガルーファイター
2. そばにいるから
3. HAPPINESS
4. Can’t stop this feeling!
5. そよ風のように
【価格】
(初回生産限定盤 CD+Blu-ray)税込¥4,070 (品番:SECL3340-1)
(通常盤 CD only)税込¥3,300 (品番:SECL3342)
発売元:Sony Music Labels
【購入特典】
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