川口大輔が生み出した22年越しのアルバム、JUJU・土岐麻子らとの絆 プロデューサーとして駆け抜けた25年を語る

 JUJU、CHEMISTRY、土岐麻子から、由紀さおり、ToshIまで、枚挙に暇がないほど数々のアーティストのプロデュース/作詞作曲/編曲などを手掛けてきた音楽プロデューサー、川口大輔。シンガー/ソングライターとしても、これまでに2枚のアルバムと1枚のEPをリリースしているが、最後のアルバム『Sunshine After Monsoon』がリリースされたのは2004年。もう22年も前のことである。その間、音楽プロデューサーとして飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を繰り広げていた氏が、22年の時を経て、ついに自身のアルバム『Elsewhere』を完成させた。

 本作を作るに至るまでの経緯や、あまりに多くの音楽エッセンスが詰め込まれた本作の内容、裏方として思うことなど、たっぷり話を聞いた。稀代の音楽家である氏だが、実のところとても人間臭く、繊細で優しい人だということがこのインタビューからもよくわかるだろう。(川口真紀)

逃げ腰だった自身を動かした、盟友の言葉と時間

――ご自身のアルバムとしては2004年の『Sunshine After Monsoon』以来、22年ぶりとなります。今回、22年ぶりにアルバムを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

川口大輔(以下、川口):2004年にアルバムという形で自分の中にあるものを一度形にしたあと、「次、どうしよう」っていう気持ちになったんですね。自分は何がやりたいのかなって考えたときに、もちろん自分の作品も作りたいけれど、同時に他アーティストへの楽曲提供、作曲とかプロデュース業の方をもっと極めたいなと思ったんです。

 当時僕は編曲とかプロデュースワークは本格的にはやっておらず作曲がメインだったので、音を“トータルで作れる人”になりたいなと。それで、この何十年かはプロデュースとかそっちの方にひたすら向かってたんですけど、色んなアーティストとの仕事を通して「コミュニケーションってこういう感じなんだな」っていうことをすごく学んで。今のこの感情があったら、あの時のアルバムはどうだったんだろうな、あの時とはまったく違うものになってたんだろうな、と思ったんです。そこから徐々に(自分の作品を)やってみようかなと思うようになりました。

――けれど、そこからもだいぶ時間がかかったんですね。

川口:表に立つ人の苦労を散々見てきたし、すべての責任を背負ってステージに立つということに簡単に手を出していいのかなみたいな気持ちもあって。あと、10年くらい前にミッドエイジクライシスみたいものになったんですよ。自分はこれからどうしたいんだろうみたいな気持ちがあったというか。そんな中で土岐麻子ちゃんが「うじうじしてないでさっさと作れや」と言ってくれたりもしていたんですが、それでも僕は逃げ続けて。そしてコロナ禍に入り、沖縄に部屋も借り、そういうことを諸々経た上で、どんなに自分で言い訳をしたり、住む場所を変えてみたとしても、自分の感情からは逃げれないんだなっていうことに50歳を前にしてようやく気づきました。それでやっと重い腰を上げた感じです。

――「もう、これは逃げられないんだな、作んなきゃな」と思ったのはいつ頃だったんですか?

川口:2年前ぐらいですかね。2年前に福島の郡山でライブをやらせてもらったんですよ。そこで20年ぶりぐらいに、いわゆる自分のライブっていうのをやった時に、上手に歌えてるかとか、そういうことはさておき、自分が表現したいことは提供曲以外にもめちゃくちゃあるなと思ったんですね。自分が発する声で人が踊ったりするんだ、なるほどな、とか思ったんです。そのライブを企画してくださった方が元々ソニーにいた方で、「自分の作品を作ったらいいんじゃないの?」みたいなことを言ってくださって。僕は基本逃げ腰なので、「えー、僕がですか?」とか言ってたんですけど、40歳ぐらいの時に一度やろうとしたことをまたこのタイミングで逃しちゃうと、もう一生できないと思ったし、それこそどんどん声だって加齢とともに今とは違う声にもなっていくし。それはそれで悪いこととは思わないけれど、でもポップスを歌うという意味では、今ここら辺で重い腰を上げとかないとなっていうのはありましたね。

――CHEMISTRY「君をさがしてた~The Wedding Song~」(2001年)で作家デビューをしてから25周年という意味合いもあったのですか?

川口:それはもう、完全に後付けです(笑)。こういう「25周年!」っていう肩書きがないと僕は言い訳をして先延ばしにしてしまう人間なので、レーベルの方とか、周りの皆さんが僕のために準備をしてくれた鎧ですね。背中を一押ししていただいた言葉だったので、本当に感謝してます。

君をさがしてた〜The Wedding Song〜

JUJU、土岐麻子との共演に見る友情と人生

――紆余曲折を経て、ついにニューアルバム『Elsewhere』が完成しましたが、どういうアルバムにしたいと思って制作に臨みましたか?

川口:僕って、たとえば今日みたいに人とお会いして話すときも「ワー!」ってたくさん喋っちゃうんですよ。もう、止まらずにたくさん喋っちゃうけれど、あとで思い返すと何かを覆い隠すみたいに喋ってるなって感じることがあるんです。だから今回自分の作品を作ると決意した時に、一度凪の状態にして、自分の卑屈な部分や今日泣きたいんだよねみたいな感情ときちんと向き合う作品にしようと思って制作しました。

――なるほど。本当にパーソナルというか、川口さんの内面が出たアルバムなんですね。

川口:出ちゃいましたね(笑)。

――たとえばJUJUさんをフィーチャーした「Shuffle feat. JUJU」も、長年の友人でもある彼女に向けたような、友達への思いをつづった曲になってますしね。

川口:そうですね。出会いがあれば別れがあるみたいな話ってよくありますけど、正直、僕はそれに関してあんまりピンときてなくて。出会ったら永遠じゃん、イエーイ! って思ってたような、基本ポジティブなところがあるんです。でも、実際そんなことはなくて。人は死ぬし、あんなに仲良かったのに連絡が取れなくなったみたいなことが本当にある。そういう状況の中でも残るのがフレンドシップだったり、昔から一緒に歩んできて、ずっと同じ道を歩いてるわけではないけれど、時々目配せをしながら「うちら間違ってないよね」っていうような相手がいたりすることだなと思って。それは自分の中ですごく大事な感情だなと思ったんですね。そんなことを歌うとなったら、一緒にやるのはJUJUしかいないなと思ったんです。

川口大輔 - Shuffle feat. JUJU (Official Audio)

――そういった感情はメロディから想起するのですか?

川口:そうですね。今回のアルバムの曲は全部メロディが先にできていて、そこから溢れ出てくる感情を書いてます。この曲はラブソングっていうよりは、フレンドシップの曲。この曲が持っている瞬発力とかだるさとか、明るすぎて泣きたくなるような気持ちって、つまり自分の人生においては何だろう? っていうのを逆算しながら書いていきました。

――「Shuffle」というタイトルに込めた意味を教えてください。

川口:最初はストレートに「You Are My Friend」とか「Friends Forever」とかも考えてたんですけど、じゃあこの曲を誰かに聴かせようと思った時に、「『You Are My Friend』聴いて」とか「『Friends Forever』聴いて」じゃないなって思ったんです。人間と人間の関係を「You Are My Friend」みたいに言い切るような環境じゃないところにこそ、フレンドシップっていうものが存在すると思っていて。「Shuffle」っていうのは楽曲でも使っているリズムの名称で、仮タイトルで最初つけてたんですよ。友達同士って普段は違う方向を向いていても、ある時重なったりするじゃないですか。いつもは薄い単色でもシャッフルしたらすごく濃い色になったり、様々なものがない交ぜになって揺れ動いたり、「Shuffle」って意外とこの曲に合うなと思ったんです。友達への思いをこの単語に託した感じですね。

――もうひとりの盟友である土岐麻子さんも、今回絶対に参加してもらおうと思っていたのですか?

川口:そうですね。決めてました。

――土岐さんとの場合、どういう曲をやりたいと思っていましたか?

川口:「プルメリア feat. 土岐麻子」の骨子ができたタイミングで、これはラブソングだなと思ったんですね。昨日今日出会った2人の歌というよりは、色んなものを失って、別々のところで生きてきた2人がこのぐらいの年齢になって出会って、「人生って何なんだろう」と向き合うような歌にしたくて。その上で、男女デュエットって色んなタイプがあるじゃないですか。R&Bのデュエットは、擬似的にリアルさとか、生々しさを楽しんだり。ただ、この曲に関しては、そうじゃなくて、客観的に淡々と女優さんみたいに演じられるシンガーがいいなと。さらにリズムがタタタタタタってすごく短い音符の曲なんですけど、僕、世界で一番スタッカートが上手に歌える人を知ってまして。

――それが土岐さんだと。

川口:そうです(笑)。あと僕、5年前ぐらいから沖縄に部屋を借りて住んでるんですけれど、そこの風景を知ってる人がいいなと思って。那覇から1時間ぐらいの場所なんですけど、すごく静かで、鉄塔が見えて、海も見えて、ペンキが剥げたようなコンクリートの建物がたくさん建っている、この景色を共有できる人。で、さらにスタッカートがすごく上手で、すごく客観的なんだけれど、情感もめちゃめちゃ込められてっていう人となると、土岐さんしかいなかったわけです。

川口大輔 - プルメリア feat. 土岐麻子 (Official Audio)

――土岐さんの歌声も本当にキュートだし、弾けるスタッカートのリズムや目まぐるしい転調、前向きな歌詞、どこを切っても最高な曲ですね。

川口:ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。この曲は他には存在しない曲にしたいなと思っていました。こういう世界観は音楽じゃないところ、たとえば短編の映画とかにはあると思うんですけど、それはきっと少し気だるいBGMの中で、退廃的な2人がいる、みたいな描写になってるんじゃないかな。僕はよりポップに、今度こそ素直に生きていきたいっていう感情をストリングスの音色に込めて歌ってみたかったんです。

――小学校の同級生である土岐さんとラブソングを歌うことに照れはなかったのですか?

川口:それはもう、消去法で。僕は多分、この曲を誰と歌っても照れるから。だったら逆にすごい近い距離感の人とやるのが正解なのかなと。

――あとはもう、女優になりきってもらうというか。

川口:そうですね。完全に女優になりきっていただきました(笑)。

――「プルメリア」は花の名前だそうですが、これをタイトルとしたのはなぜですか?

川口:この曲は仮タイトルで“室内楽”を意味する“チェンバー”ってつけてて、それこそ「Shuffle」同様に、これも「チェンバー」でいいかなと思ってたんです。2人の室内楽みたいな感じで。でもこの曲、〈夏がはじまる風の匂いがして〉っていう歌詞で始まるんですけど、沖縄の僕の家の近くって、夏が始まる頃にプルメリアの花が咲き出すんですね。東京ではあまり見ない花ですけど、沖縄ではプルメリアが咲き出したら、「ここから今年も暑い夏が始まるんだな」っていう象徴のような花なんです。その後台風の季節がやってきて、秋がきて、ゆっくり冬になっていく。沖縄の夏の景色の中で僕は君と生きているっていう、その瞬間を象徴するものが僕にとってはプルメリアだなと思ったんです。

――なるほど。だから沖縄の川口さんの家を知ってる人がよかったんですね。

川口:そうですね。

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