市川由紀乃、闘病の苦難を乗り越えて向き直す人生と音楽 中森明菜や矢沢永吉から学んだこと

市川由紀乃、苦難を乗り越えて向き直す音楽

=LOVEとのコラボもーー“永遠のアイドル”中森明菜への想い

ーー今年4月に放送された『うたコン』(NHK総合)での=LOVEさんとのコラボ、素敵でしたよ。

市川:ありがとうございます(笑)。今輝いているアイドルの皆さんとご一緒する機会なんてあまりないので、とても嬉しかったです。すごいなって思うところもたくさんありましたよ。舞台裏などでいろいろお話をさせていただいたんですが、人間性に触れるとさらに「なんて可愛い方々なんだろう!」って気持ちになり、そこから私の推しになりました(笑)。

ーー推しですか!

市川:可愛さとか、踊りながら歌うことのかっこよさとか、その人の人柄に触れるとやっぱりファンになってしまいますよね。

ーーその推しである=LOVEと一緒に歌われたのが、由紀乃さんも大好きな中森明菜さんの楽曲でした。

市川:明菜さんはもう、私にとって永遠のアイドルです。自分のお小遣いで初めて買ったレコードが明菜さんの「少女A」だったんですね。その当時は、テレビで歌う時は笑顔でフリフリの可愛らしい衣装を着て歌われている方が多かったように思いますけど、私は「少女A」を歌う明菜さんのちょっと挑発的な眼差しとか、世界観を一瞬で変える歌声に、子供ながらに釘付けになったんです。それから明菜さんのレコードとかを聴くようになり、明菜さんのすごさなどを知ってさらに好きになりました。

ーー歌唱に限らず、明菜さんの表現の仕方や世界観など、由紀乃さん自身に影響を与えている部分もありますか?

市川:明菜さんは、楽曲によって歌う時の表情とか声も違うじゃないですか。あとはインパクトのある振りが必ずどこかにあったりして。「難破船」のようなしっとりとした歌はとにかく歌の世界にどっぷり入ってらっしゃって、特に所作とかはなくても、歌だけで心を鷲掴みにされる。歌うと一瞬で空気を変えてしまうところなどは、本当に勉強になります。自分もこれからの歌手人生、たとえばコンサートでいろんな歌をメドレーなどで聴いていただくときに、曲ごとにお客様の心のスイッチが切り替わるというか、思わずハッとして身を乗り出してしまうような歌声も届けられたなっていう気持ちは常にありますね。

ーー個人的には、ちあきなおみさんの「夜へ急ぐ人」を歌われている由紀乃さんを拝見して、思わず身を乗り出しました。

市川:ありがとうございます。あの構成の演出をしてくださった先生が「この曲はちょっと…って言われるかなと思っていた」とおっしゃっていたんですが、私はあの選曲を見た時、逆に嬉しくて。この歌を市川由紀乃に歌わせたいと思っていただいたこと、市川由紀乃だったらどういう風に歌うんだろうと思っていただけたことが嬉しくて、本番のステージに向けてひたすら勉強しました。だからそう言ってくださって、とても嬉しいです。

市川由紀乃「ちりぬるを」Music Video

ーー今回の「ちりぬるを」の制作もそうだと思いますが、チームとしての信頼関係や絆のようなものがないと成り立たない部分も大きいのかなと思います。

市川:ありがとうございます。本当に最高のチームワークだと思います。もちろんいろんなスタッフさんもそうですが、楽曲を手がけてくださる幸耕平先生、松井五郎先生、佐藤和豊先生。この3人の先生方のチームワークは最強だと思っているんです。それこそ「花わずらい」からずっとこの3人の先生なんですけど、それぞれの先生方がボールでいうパスを曲から詞、アレンジと繋いで行って、最後にその思いがこもったボールを受け取った自分がどう表現するかという感じなんですね。一番大変なところではありますが、そこまでに先生方が作ってくださる空気感が、もう本当に穏やかでめちゃくちゃ楽しいんですよ。

ーーもう少しヒリヒリした空気感を想像していましたが、真逆なんですね。

市川:今回の楽曲の時も、佐藤先生が「朧」の編曲賞(第67回 日本レコード大賞)を受賞された直後にオケ録りだったのでスタジオでみんなでお祝いしたり、歌入れの時は松井五郎先生の誕生日だったりして、ケーキでお祝いしたりしました。幸先生はいつも、とにかくチームが大事だとおっしゃっていて。レコード会社、事務所、楽曲を作る作家の先生方、担当してくださるスタッフの方、ディレクターさん、ファンの皆さんも含めてチーム。いかにチームワークよく楽曲を作れるかってことが大切だってことをお話しされているんですが、それはいつも感じますね。

ーーそんな素敵な、そしてかけがえのないチームが走り出してまもなく、由紀乃さんはご病気で活動を休止されました。卵巣がんということでしたが、改めて当時のことをおうかがいしてもいいですか。

市川:はい、もちろんです。最初はなかなか疲れが取れなかったり、腰痛があったり、たまに鼻血が出たりすることもあって、40代前半の頃とは明らかに違うんだけど、これは更年期に入るからなのかなと思っていたんです。女性だったら乗り越えていかなきゃいけないものなのかなと思いながらいろんなお仕事の現場に行くんですが、先輩方とか歌手仲間とか、年齢が近い人同士だとやっぱり体のことを話す機会が多くなりますよね。病院の話とか、どんなサプリメントがいいとか。そんな中で由紀さおりさんに体調のことを話したら「私が信頼する先生がいるから、ここの病院で一度検査を受けて」って言ってくださったんです。先輩がそこまで言ってくださるならこれはちゃんと行動に移して検査を受けなければいけないと思い、病院で診てもらったら卵巣腫瘍の疑いということでした。舞台の稽古などもありましたが、お仕事は全部ストップして手術をしてくださいと言われ、病理検査の結果次第で今後どういう治療をしていくか決めましょうということでした。目の前が真っ暗になったというか、それこそ夢を見てるんじゃないかっていう感覚でしたね。

ーー由紀さおりさんのお言葉がなければ、この舞台が終わったら行こうって先延ばしにされていたかもしれないですね。

市川:思ってました。がんのステージは1でしたが、「大丈夫、大丈夫」って言い聞かせて何ヶ月も経っていたらステージは上がっていたでしょうし、今こうしてお話できていなかったと思うんですよね。本当は毎年検査を受けたりしなければいけなかったんですけど、病院に行って何か見つかったら嫌だなとか、ここで仕事の歩みを止めたくないとか、そうやって後回しにしてきちゃったんですよね。そこは、反省すべきところでした。

ーーそういう経験があったからこそ、今は定期検診を呼びかけたりしながらいろんな活動に繋げていらっしゃるんですよね。

市川:いつもと違うなっていう体のサインが出ていたらすぐにお医者様に行くっていうことの大切さであったり、抗がん剤治療をこれからされる方とか今なさっている方がどのタイミングでウィッグとかを用意したらいいのかとか、自分が経験したからこそのお話をいろいろと発信させていただいています。私の場合はちょっと早めにウィッグも用意していたんですね。今はネットでも安くていいものが買えますし、実際につけてみて合わなかったら返品できたり、レンタルさせてもらえるところとかもあったりするんです。人によると思いますが「自分の場合は治療が終わって1年半でこのぐらい髪が伸びましたよ」っていうことを発信したりすることで、同じ病気で今頑張っていらっしゃる方に「あぁ、この治療が終わって1年半経ったらこのぐらいまた髪が伸びるんだ」って、同じ経験をした人間だからこそ伝えられることがあるのかなと思うんです。

ーー手術の直後や抗がん剤治療の真っ最中などはそこまで考えられなかったかもしれませんが、また好きな歌を歌うんだというお気持ちも、回復や復帰へのモチベーションになったんじゃないかと思います。歌を歌うということ、今後の人生など、当時はどんなふうに考えていらっしゃったのでしょうか。

市川:手術が終わった時は、復帰に向けて前向きだったんです。でも卵巣がんという診断を受け、抗がん剤治療をやりましょうってなった時に、私はこの歌の道に戻ってくることはできないかもしれないなって思いましたね。本来なら自分が支えてあげなければいけない母が私よりも元気にサポートしてくれていたので、これはちゃんと元気になった姿を親に見てもらわなきゃいけないっていう気持ちも日に日に強くはなっていきましたけど、開腹手術をしたので、お腹に力を入れると痛くて声の音圧が戻らないんですね。治療が終わった後も時間があるとカラオケボックスやスタジオに行って練習するんですが、オリジナル曲が普通に歌えなかったんですよ。その時に、もう戻ってはいけないんじゃないかって思いました。コンサートとなると皆さんがお金を払って歌を聴きに来てくださるのに、お金をいただけるような歌が歌えない自分が「歌手です」っていうこと自体が失礼だし、名乗ってはいけないなって思ったんですよね。

ーーそこまで思われたんですね。

市川:歌えない時間もあって、歌いたいっていう気持ちももちろんあって、でも声が出ないもどかしさもありました。今まで普通にできたことができなくなるって、なんだか自分自身が自分を許せないっていう気持ちが強くなっていっちゃうんですよね。だけど、そこで支えてくれたのはやっぱりファンの皆さんでした。いつ復帰できるかわからない私に、皆さんが「待ってるよ」っていうお手紙やお守り、お札、ここで祈願してきましたっていう報告とか、千羽鶴とか、そういうものを常に届けてくださっていたんです。応援してくださっている皆さんのためにも、この世界にきちんと戻らなきゃいけない。それが皆さんに対するご恩返しでもあるし、お仕事の面でもたくさんの方にご迷惑をおかけしたので、私はまず復帰するっていうことをしなければいけないんだって思えるようになったんです。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる