矢野顕子が『生きものたちへ』でたどり着いたポップスの真髄 ソロデビュー50年目の現在地、自然体の美学

1976年、アルバム『JAPANESE GIRL』での衝撃的なソロデビューから50年。大きなアニバーサリーを迎えた矢野顕子の最新アルバム『生きものたちへ』。年末恒例の『さとがえるコンサート』のツアーを共にする中で「バックメンバーではなくバンド“The YANOAKIKO”になった」という小原礼、林立夫、佐橋佳幸の3人に加えて、2曲のアレンジには北村蕗が参加している。
先行リリースされた「海男と瑠璃亜 feat. 細野晴臣」ではデビュー以前から数々のシーンで共演してきた細野晴臣をフィーチャー。さらに、宇宙飛行士・野口聡一ファミリーとの親交から生まれた「YOU ARE SPECIAL TO ME feat. 松たか子」では松たか子をフィーチャーするなど、ジャンルも時代も成層圏(!?)も超えていく彼女の“50年目の現在地”が凝縮された8曲。そんなアルバムの誕生ストーリーについて、矢野顕子に聞いた。(渡辺祐)
野口聡一、松たか子、佐橋佳幸……縁が繋いだ楽曲たち
──まずは、50周年、おめでとうございます。でも、ご本人はあんまりそういうことは意識しないというのは、以前からよくおっしゃっていましたね。
矢野顕子(以下、矢野):ありがとうございます。よくおわかりですね(笑)。
──このアルバム自体も“50周年”ということは意識せずスタートしているんですか?
矢野:そうですね。そこは周りがタイミングをはかってくれているわけですけど、私自身は「50周年だから」という気はなくて。しかも、私の場合、アルバムを作るとなっても、“The YANOAKIKO”とやる限り、日本にいる時にレコーディングをしていくというスタイルなるので、実際には去年(2025年)の夏にはレコーディングを始めていましたし、その頃には曲もほぼ揃っていましたね。

──じっくりと時間を使って作ってきたアルバムですね。
矢野:その割には8曲しか入ってないですけど(笑)。ただ、8曲ではあるけれど、それは“必要充分”っていうイメージですね。八面体みたいなもので、パッと転がしてどの面が出ても、このアルバムを代表しているっていう感じ。50年ということでいえば、それはもう厳しい締め切りが迫ってきた時代もありましたが、今は「曲がたまったらリリース」っていうスタンス。コップに水を少しずつ入れていったら、「あれ? もうすぐいっぱいかな?」っていうような感じ。ひとりの音楽家としては自然なことだと思ってます。
──自然に作る、ということでは、曲作りも日々の中に溶け込んでいる感じですか。
矢野:はっきりしているのは、ライブがあれば新曲を書きたいって思います。でも、昔から癖のようなもので、自分の中で詞だけとか曲だけとか、ちょこちょこした断片があって、それを自然にまとめるっていう感じ。アルバムの曲の数合わせ的になんとか仕上げるとか、そういうことには魅力を感じないっていうか。なので8曲入りというのは、今の矢野顕子の自然体だし、達成感は充分。だからこそ全曲が可愛い。
──その8曲のクレジットを見てみると「Inspired by Soichi Noguchi Family」という、宇宙飛行士の野口聡一さんのご家族との交流から生まれたナンバーが2曲ありますね。
矢野:2023年に野口聡一さんに宇宙から詞を送ってもらったアルバム『君に会いたいんだ、とても』でご一緒してから、ご家族にもお話をたくさん聞いたんですね。2023年のアルバムは“宇宙に行く人”の言葉が綴られていたわけですが、その命がけの行為をする夫、父親を“待っている人”の思いがたくさん見えてきて。その家族の視線で作ったのが「THREE ROCKETS」と「YOU ARE SPECIAL TO ME feat. 松たか子」。そして「うちゅうから」という曲は、野口さんの娘さんが小さいときに書いた作文をそのまま歌詞にしています。もちろん一曲一曲は、それぞれの歌、それぞれのサウンドとして作っていますけれど、『君に会いたいんだ、とても』からつながっている、大袈裟にいえば“野口ファミリー宇宙プロジェクト”です。
──以前からあちこちで“宇宙好き”を表明してきた矢野さんですが、その宇宙への興味が“人へと巡ってきた感じですね。
矢野:そうですね。アメリカでは宇宙飛行士が書いた本がたくさんありますけれど、日本では個人的なことにまで踏み込んだような本とか、そういうのはあまりない気がしていて。単純に知りたいって思ったことから始まって、そこに興味を持ってみたら、これだけ曲が書けました(笑)。
──その一曲である「YOU ARE SPECIAL TO ME feat. 松たか子」は松たか子さんがボーカルでフィーチャーされています。
矢野:これはまず曲ができていて、レコーディングをしているうちに「この2番のところを、違う声の人が歌ってくれたらいいなぁ」と思って。それで「あ、松さんがいたじゃないか」と思いつきまして。歌ってくれたらいいなぁと思ったら、巡り巡って歌ってもらうことができました。
──歌詞が野口ファミリーからのインスパイアで、しかもフィーチャリングがバンドメンバーである佐橋佳幸さんのご家族であるという。
矢野:パートナー採用(笑)。いや、それより何より、なんといっても松さんの声です。私とは対極の、誰にでも好かれる声。日本で松さんの声が嫌いだっていう人はいないだろうと思いますね。



















