中田裕二、築き上げた美学の現在地 椿屋四重奏時代の楽曲から新曲まで飛び出したビルボードライブツアー

 中田裕二がおよそ2年ぶりとなる3都市ビルボードライブツアー『中田裕二 ビルボードライブツアー2026 THE BLUE SEAGULLS』を開催した。椿屋四重奏を経て、ソロアーティストとしてもコンスタントに作品を発表し、全国ツアーを重ねてきた中田。艶を帯びた歌声、70〜80年代の歌謡曲/ニューミュージックに根差したメロディセンス、そしてファンク、ソウル、ジャズを自在に取り込んだサウンドメイクは、長年にわたり独自の美学を磨き上げてきた。

 今回のステージには、小松シゲル(Dr/NONA REEVES)、千ヶ崎 学(Ba)、カトウタロウ(Gt)、sugarbeans(Key)という気心知れた辣腕ミュージシャンが集結。中田を含む総勢5名によるバンド編成で、ビルボードライブという空間にふさわしい濃密な夜を作り上げた。

 大阪、横浜を経て迎えた東京公演。筆者が観たのは、6月27日にビルボードライブ東京で行われた1stステージである。定刻を迎え、ジャジーなBGMが流れるなか、まずはバンドメンバーがステージに姿を現す。小松がタイトなドラムフレーズを繰り出し、演奏がゆっくりと立ち上がると、客席内の階段を下りながら中田が登場。大きな歓声に迎えられた彼が最初に届けたのは、2024年のアルバム『ARCHAIC SMILE』収録の「ビターネス」だ。伸びやかなビブラートを伴う歌声は、洗練されたメロディのなかに都会的な哀愁を漂わせる。サビ終わりで中田が「Tokyo!」と叫ぶと、客席からは再び大きな歓声が上がり、自然発生的なハンドクラップが広がっていった。

 続く「ゼロ」では、紫の照明の下、ゆったりとしたファンキーなリズムが妖しいムードを作り出す。中田は狂おしく官能的なメロディを歌い上げ、間奏では中田とカトウによるツインギターが息の合ったハーモニーを響かせる。客席も体を揺らしながら、そのグルーヴに身を委ねていた。

「久々のビルボードライブツアーへようこそ。平日のお忙しいなか、集まってくださって誠にありがとうございます。ビルボードライブの雰囲気にふさわしい、選りすぐりの名曲を集めてきたので、この六本木の夜にふさわしいライブにしたいと思っております」

 最初のMCでそう挨拶すると、続く椿屋四重奏時代の楽曲「共犯」では中田がギターを置き、ハンドマイクで歌う。引きずるように重たいグルーヴと、ひねりの効いたコード進行がスリリングな空気を作り出し、その隙間を縫うように、中田のボーカルはラップとメロディのあわいを行き来する。sugarbeansとカトウが担うスキャットパートに、オーディエンスも自然と声を重ねていった。

 シャッフルのリズムが心地好い「sunday monday」では、千ヶ崎がエレキベースからウッドベースに持ち替え、ランニングベースで楽曲にジャジーな推進力を与える。中田の歌は伸びやかで、しなやかで、どこかシアトリカルでもある。続く「わが身ひとつ」は、ピアノと歌から静かに始まり、スウィングするリズムとともにさらに濃密なジャズの空間へ。昭和歌謡のケレン味をオーセンティックなジャズでコーティングしたような佇まいが、この日のムードを象徴していた。

 中盤のMCでは、今回のツアーのために用意されたオリジナルカクテル「オレンジホライゾン」の話題に。中田が好きだという『金曜ロードショー』(日本テレビ系)の夕暮れの波止場を思わせる色合いから名づけたというそのドリンクは、どこかレトロな雰囲気も漂わせる。やがてステージ上のメンバーにもノンアルコール版の「オレンジホライゾン」が配られ、会場全体で乾杯。ビルボードライブならではの親密で和やかな空気が広がった。

 「実はアルバムがもう、ほぼ完成しまして」と中田。「それを記念して今回、新曲を持ってきました。このドリンクにぴったりのタイトルです」と紹介された楽曲で、スポットライトを浴びた彼の歌声は、入り組んだコード進行の上を漂うように響く。切ないメロディを情感たっぷりに歌い上げるその姿に、カトウのコーラスがさりげなく寄り添い、まだ音源化されていない楽曲でありながら強い余韻を残した。

 続く「白日」では、中田がアコースティックギターを、カトウがガットギターを手にし、千ヶ崎は再びウッドベースへ。曲に入る前、中田はギターをつまびきながら「愛の讃歌」をワンコーラス朗々と歌い上げる。そこから間髪入れずに「白日」へと移行すると、静止したミラーボールに反射した光がバックスクリーンに広がり、会場全体が星空のようなロマンティックな空間へと変わっていった。

 そんな空気を一転させたのは「正体」。ミドルテンポのファンクグルーヴが、抑制を効かせながらじんわりと体を温めていく。そこから畳み掛けるように「テンション」へ。カトウの切れ味鋭いギター、小松のタイトなドラム、sugarbeansの転がるようなエレピ、そしてメロディに寄り添いながら、時に楽曲を力強く引っ張っていく千ヶ崎のベースライン。メンバー同士が目を合わせ、笑顔でアイコンタクトを取りながら演奏する姿からは、このバンドの充実ぶりがはっきりと伝わってきた。

 ライブ終盤には、もうひとつの新曲も披露。パワフルでエネルギッシュなジャズファンクは、スリリングで洗練されていながら、どこか泥臭さも感じさせる。続けて今夜2曲目の椿屋四重奏時代の楽曲「思惑と罠」へ突入すると、イントロが鳴った瞬間に客席から大きな歓声が上がった。渦巻くようなグルーヴと一糸乱れぬアンサンブル。その中心で、小松と千ヶ崎のリズム隊がバンド全体を鋭く、しなやかに駆動させていく。さらに「UNDO」では、中田が全身の力を振り絞るように、体を大きくしならせながら熱唱した。

 「ビルボードライブは大好きな場所。そこでこうやってステージに立たせてもらえるのはとても光栄です。最初の頃は、ちょっと背伸びしていたように思いますが、あれから……背は伸びてないんだけど(笑)、だいぶ似合ってきたんじゃないかと」。そうおどけながらも、自身の歩みをしみじみと確かめる中田。そして「最後はこのバンド名とツアータイトルにもなったきっかけの曲を」と告げ、「海猫」をしっとりと歌い上げた。

 鳴り止まないアンコールに応えて再びステージに登場した中田は、「最後はみなさん、立って踊りませんか?」と呼びかける。披露されたのは「THE OPERATION」。演奏が始まると同時にステージ背後の大きなカーテンが開き、六本木の景色が目の前に広がっていく。ワウギター、オクターブを活かしたベース、唸るオルガン、力強く踏み鳴らされるキック。ミラーボールも回り出し、ビルボードライブ東京は一瞬にして熱狂的なダンスフロアへと姿を変えた。

 都会の夜に似合う哀愁、歌謡曲の色気、ジャズやファンクの身体性、そして気心知れたバンドが生み出す祝祭感。そのすべてがビルボードライブという空間で艶やかに結晶していた。完成間近だという新作への期待も含め、中田裕二というアーティストの現在地を鮮やかに示す一夜だった。

Lafleche

ラフレシェは、カナダ・モントリオールを拠点に活動し、レギュラー・イベントにおいて毎週2000人以上の集客を誇る新進気鋭のテクノ/…

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