大橋ちっぽけ「嘘偽りない自分の姿を届けることこそが喜び」 今歌う本当の音楽と意志、3rdアルバム『aritei』を語る

WATWING・八村倫太郎との再会「今後も一緒に作れたらいいな」

――WATWINGの八村倫太郎さんとコラボした「All I Want」は、今作のなかでも異色のサウンドになっていて。八村さんのラップ的な歌がすごくハマってますね。

大橋:嬉しいです。コライトは自分自身の作品としてはやったことがなくて。自分が大事にしているもののバランスが崩れるんじゃないかなという不安感もあって、なかなかトライできなかったんです。八村くんとは楽曲提供で知り合って、プライベートでも一緒にスタジオに入ってみたり、ごはんに行かせていただいたりとかする仲で。すごく共感するところがあったんです。彼とだったら、自分が大事にしている感覚も共有できるし、彼が作るものがたぶん好きになれるんだろうなという確信もあったので、オファーをさせていただいたところ、快諾してくれて。トラックのパターンをいくつか作ったなかから一緒にひとつ選んで、僕がギターを持って、一緒にスタジオに入りました。

――そうだったんですね。バンド的な躍動感が出ているサウンドで。

大橋:めちゃめちゃロックな感じになりました。これもお互いに好きな音楽で、海外のポップパンクみたいなスケールの大きいものをやろうというような話になって。歌詞は、お互いの恋愛観を反映させました。どこか叶わない恋愛というか、愛情をまっすぐ届けるのがとにかく好きというか、そういう部分が共通していたんです。だから、「とにかく君が大好きだ」という思いはまっすぐ伝える歌詞にすること、でもどこか翻弄されてしまって届きそうで届けられない感じをポップに落とし込むことができたらかっこいいよねと。そこからお互いが歌詞を書いて持ち寄って、「ここは八村くんの歌詞にしよう」とか話しながら、進めていきました。

――音楽的な共通感覚があるからこそ、ですね。

大橋:まず、好きなアーティストがとても似ていたというのがあって。八村くんはHIPHOPがすごく好きで、洋楽も聴くし、日本のヒップホップも好きで。海外のインディーポップ、インディーロック系のアーティストも好きで、僕も大好きでお互いにライブに行ったりとかしていて、「こういう曲いいよね」とか「この曲、知ってますか?」というやりとりもありましたし。ここまで好きなものが似ていて、いいと思えるものが一緒だったら、きっとお互いにすごく納得できる作品が作れるだろうなという思いは、ずっとあったんです。まだまだやりたいことがあるという話もしていたので、この一作にとどまらず、今後も一緒に作れたらいいなと僕としては思っています。

大橋ちっぽけ「All I Want feat. 八村倫太郎 from WATWING」

――スタジアムロック的なスケール感もある曲ですが、このアルバムを作っている時に、どんなものに刺激を受けていたのかなとも気になるところで。アーティスト活動を始めた2018年当時のポップス観で思い描いていた音像と、20年代の半ばになった今のポップス観というのは、また違ってくる部分もあるのかなと。

大橋:正直に言えば好きなものというのは変わらなくて、ずっと変わらず聴き続けている音楽はあるんですけど。僕がデビューした当時はインディーズのものとして扱われていたサウンドとかも、今はもうトレンドとして受け入れられて、海外のチャートの上位にいるものもあって。それは、特にここ数年は感じています。僕自身としては、昔からジャンルにとらわれない曲作りというのはすごく大切にしていると思います。デビューアルバムの時から「自分はこういうイメージだ」ということをあんまり決めずに曲を作っている部分もあって。だから、どんなものを作ったとしても「トレンドじゃない」というような切り捨て方はされないんじゃないかなという感覚はあって。

――そうだと思います。

大橋:どれも自分が間違いなく好きなことであるから、ちょっと2000年代っぽい曲もあるし、トレンドっぽい音もある。今回で言うと、「一体いつから」は『学園アイドルマスター』の楽曲のセルフカバーなんですけど、サウンド的には、いつもの僕とはちょっと違う感じで、かつ提供させていただいた当時もアレンジを相談しながら作ったんですよね。今までやってこなかったものだけど、すごくかっこよくて、好きな音が作れた感覚もあったんです。だから、挑戦したものとして自分のこのアルバムのなかに入れることは、歴史という意味でも自分にとって意味があることだなと思って。

月村手毬とは「すごく通ずるところがある」――提供からセルフカバーへの道のり

――「一体いつから」は、具体的にどうやって作っていったんでしょうか。

大橋:「月村手毬というひとりのアーティストに対して提供するならどういう曲を書くのか、という視点で楽曲を作ってほしい」と言っていただいて。作品のテーマや彼女がどんなキャラクターかを研究するなかで、自分自身とすごく通ずるところがあるように思えたんですよね。ステージで人前に立って歌うということへの葛藤とか、本当の自分をどうしても押し込めてしまう感じとか。でも、それも含めて“すべてが自分自身である”というテーマを大切にしなきゃいけないことだなと思って。だから、提供曲ではあるんだけど、届けたい思いが自分の言葉でちゃんと乗っている曲になったというか。だからこそセルフカバーをして、今回アルバムにぜひ入れたいなと思えたんです。

 「一体いつから」が提供曲として発表されて、まだクレジットが公開されていない時に、ファンの方々がどのアーティストが提供したのかという予想をXでしていたのを見たんですけど、当然誰も僕の名前をあげていなくて(笑)。そんななかでこの曲をたくさんの方が受け入れてくれたことが嬉しかったですし、予想できないようなサウンドに仕上がっていたんだなとは思えて。ちゃんと自己表現ができたからこそ愛せる楽曲に仕上がったなと思っています。

――前半にはラブソングが多いというお話で、特に印象に残ったのは「コールドスリープ、愛」でした。冷凍庫をひとつの舞台装置として使った曲ですが、どういうきっかけで生まれたんですか?

大橋:これは実体験と言ってしまえば実体験なんですけど……お別れの瞬間、一緒に過ごす最後の日って、本当に何の変哲もない一日ではあるんだけれども、すごく焼き付くんですよね。今まで当たり前だったものが変わっていくなかで、その子が好きだったアイスとかがいつも通り冷凍庫に残っていて、「買ってしまったな」みたいな。アイスって消費期限がないから、何年も持ってしまうものもあって。永遠性じゃないけれど、このままここにアイスがあれば、その子といた時の日常の一部がずっと留まり続ける。そうやってコールドスリープさせておきたい、永遠に醒めないまま留めておきたいという感覚を歌っている曲になりました。タイトルは、いちばん最後につけたと思います。“コールドスリープ”って和製英語らしいんですけど、そこも含めて日本語のポップスとして出すという意味でも合っている気もしましたし。大好きなGalileo Galileiのメンバーに演奏に参加していただいて、サウンドも狙いながら作れたので、いろんなところにこだわりが持てた、すごくお気に入りの一曲です。

大橋ちっぽけ 「コールドスリープ、愛」Music Video

――恋愛ソングもいろんな種類がありますが、出会いがあって別れがあるというきれいな時系列をなぞるというよりも、いろんな場面、いろんな距離感が散りばめられた作品になっていますよね。

大橋:後悔であっても、あるいは「君とずっと一緒にいたい」というポジティブな感情にしても、自分のなかで大事にしている価値観は変わっていないと思います。僕自身、「大橋ちっぽけ」という名前にしているくらいなので、自分に自信がないし、自分に対してすごく謙遜してしまう。それは、恋愛に対しても思うところではあるんです。このテーマが一貫しているからこそ、どんな曲であったとしても、自然と受け入れてもらえるんじゃないかな、と。アルバムとしての流れで聴いても、違和感はないと思えています。

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