大江千里が取り組む人生を豊かにする“宿題” 愛犬ぴーすの喪失、どん底からの再帰で辿り着いた音楽

大江千里、人生の宿題とは?

「日々の“気づき”や“学習”は今も絶えない」ーー大江千里にとっての人生の“宿題”

ーー5曲目の「Pure Scars(愛しい破壊跡)」には、先ほどお話しされていた「かさぶた=傷跡」というキーワードが含まれています。僕はこの曲を聴いたとき、大江さんのブルックリンのお部屋の、椅子やテーブル、クッションなどに残るぴーすちゃんの爪痕や痕跡を見つめ、回想している曲のようにも感じられました。背後に聴こえるサイレンの音もとても印象的です。

大江:その素敵な解釈、ぜひいただきます(笑)。本当にその通りで、部屋のあちこちにあるぴーすの形跡や、去年のクリスマスツリーのもみの木のかけらが出てきたりする。そうした愛しい傷跡(Scars)で部屋が飾られているんですよね。この曲では、常に今まさにここで生きている“生の空気”をそのまま録音したかった。だから、街のノイズやサイレンをトリオの先の“第四の楽器”として積極的に参加させています。聴く人が例えば部屋の中で、外から聴こえてくるサイレンや道路工事の音と録音されてるブルックリンのノイズとどっちがどっち?という風に自分自身の物語として重ね合わせられるような「パーソナル・シネマティック・ジャズ」を目指しました。 

ーーまた、13曲目の「Then & Now(あの頃と今)」では、楽曲の中に語りが入っていて、ハッとさせられました。

大江:あれは全体の選曲が終わって、一回目のミックスを終えて自宅に帰ってきたときに、急に思いついて追加したものです。大切な友人に「東京で君の声を録って、すぐに送ってください!」と頼んで、快く了解してくれて送ってくれた音源を、トラックにパッチワークのようにはめ込みました。今の時代、BTSなどの活躍によって、世界における音楽のあり方がガラッと変わりましたよね。「変化を楽しむ」現代に「Then & Now」という言葉は、まさにアイコニックなサインです。日本語にしたのには理由があります。自分が今、アメリカにいるからこそ、日本語の美しさや響き、その良さをより強く感じることがあります。その日本語の響きを、複合的にミニマムなエレピと結びつけて、ステジオの熱気演奏の合間に差し込みたい。結果としては静かな今未来へ向かって起こりつつある自分自身のムーブメントを示唆するような役目も込めて、あの語りを入れました。 

ーーお話を伺っていると、ピースちゃんとの別れという深い喪失を経て、大江さんの中で完全に新しいフェーズ、まさに“三代目大江千里”としての新しい時代が始まっているのを感じます。

大江:かつて食材に異常なまでに気を付けたり、60歳を過ぎてから自分の体や心に対してそこまでやるかというくらい慎重に、ある種ガチガチになってこだわって生活していた時期がありました。今は、どちらかというとだらっといられる状態が増えて、逆に自分の中の本気の部分、一番正直なところが前面にムキっと出てきています。一番ストレスフリーな、リスナーフレンドリーな、そして何よりこれって僕が僕に向けたライフフレンドリーな音楽の作り方に向かってるように思います。年齢を重ねる中で、肉体的な部分は変化していくかもしれないけれど、逆に日々の「気づき」や「学習」は今も絶えずあります。この小さなことを感じられるプロセスこそが、大人の、人生を豊かにするための学びの宿題だと気づきつつあります。だからこその『HOMEWORK』なんです。「千里はまだまだ、格好悪くても、傷つきながらもこうやって走っているんだな」と、同世代の人たちにクスッと笑ってもらえたり、どこかでそっかって共感してもらえたら無我夢中になれます。 

ーー7月からは、このニューアルバムを携えたライブツアーが始まります。タイトルの『ふたつの宿題~黒画用紙ではりつめて』に込めた思いを教えてください。

大江:ファンの方はすぐにわかってくださったと思いますが、「ふたつの宿題」の歌詞にもある学園祭で黒画用紙に写真を貼り詰めた、あの瑞々しい甘酸っぱい記憶が僕の青春時代の根っこにあって、あのシーンが65歳になった今、また違ったテイストで心に迫ってくるんです。「ふたつの宿題を、もう一度黒画用紙に貼り付けるとしたら、今の自分ならどう表現するか」というコンセプトをスタッフに提案したら、「それ、すごくいいですね」と言ってくれて、あれよあれよという間に話が進み、ツアースケジュールも決まり、もうすぐ初日(7月11日)です(笑)。 

ーーその中でも“特別公演”と銘打った7月19日のサントリーホールでのライブはどんな内容になりそうですか?

大江:素敵なホールでの、僕にとっても今しか体験できない特別なステージになります。今回は自分の中で気持ちがシフトチェンジしているので、いい意味で自由で「なんでもあり」の精神で臨みます。サントリーホールは、僕の後ろ側にも客席があり、360度お客さんに囲まれる素晴らしい空間です。その状況で、一応セットリストはありますが、一体何が飛び出すか自分でもわからない(笑)。音楽の神様がその場でいかに背中を押して演奏させてくれるか、僕もその場所のちっちゃな素材の一部になるくらいの気持ちで、来てくださった皆さんの想いにそれぞれ色が足されるような、そんな時間を共有したい。皆さんに「ああ、きてよかった」とそして「人生の宿題」を笑顔で持って帰っていただけるような、そんなライブにできたら最高ですね。 

■リリース情報

大江千里

大江千里『HOMEWORK』
発売日:6月24日
品番:MHCL-3159
価格:3,850円(税込)
購入:https://lgp.lnk.to/x2SeIL
特設サイト:https://www.110107.com/HOMEWORK

■公演情報
大江千里ソロコンサート2026年夏「ふたつの宿題~黒画用紙ではりつめて~」
7月7日(火)自由学園明日館 開演18:30
7月11日(土)北九州市立響ホール 開演13:00
7月14日(火)広島市南区民文化センター 開演18:30
7月18日(土)大阪市中央公会堂 大集会堂 開演14:00
7月19日(日)サントリーホール 開演18:30
7月20日(月・祝)千葉・青葉の森公園芸術文化ホール 開演14:00
7月25日(土)新潟市音楽文化会館 開演14:00
7月29日(水)ヨコスカ・ベイサイド・ポケット(横須賀芸術劇場 小ホール) 開演18:30
7月30日(木)埼玉会館 小ホール 開演18:30
8月1日(土)富山・オーバード・ホール 中ホール 開演14:00
8月2日(日)愛知県芸術劇場 コンサートホール 開演12:30
8月3日(月)八ヶ岳高原音楽堂 開演15:00
8月7日(金)アクリエひめじ 中ホール 開演18:30
8月8日(土)ルネサンス クラシックス 芦屋ルナ・ホール 開演13:30
8月9日(日)岐阜・サラマンカホール 開演18:30
8月11日(火・祝)倉敷市芸文館 開演13:00
詳細:https://classics-festival.com/rc/performance/oe-senri-2026-summer/

■大江千里 | ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/SenriOe/

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