新作なのに古典らしいーー『あかね噺』落語監修・林家木久彦が語る、桑田佳祐アニメ主題歌の魅力
2022年から『週刊少年ジャンプ』で連載されている『あかね噺』(原作:末永裕樹・作画:馬上鷹将)。落語家の道を断たれた父の無念を晴らすため、娘の桜咲朱音が落語の世界に挑む姿を描いた本作はこの春アニメ化され、こちらも大きな話題を集めた。さらに注目すべきは、桑田佳祐が書き下ろしたオープニング主題歌「人誑し / ひとたらし」、エンディング主題歌「AKANE On My Mind〜饅頭こわい」。この2曲が収録されたシングル『人誑し / ひとたらし』は2026/7/6付オリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。『あかね噺』のストーリーや世界観に寄り添いつつ、桑田自身が新たに掲げた「NEW 70'S」ともリンクした2曲は、今の桑田佳祐の充実ぶりをはっきりと証明している。
リアルサウンドでは、『あかね噺』の原作、アニメで落語監修を務める真打・林家木久彦にインタビュー。『あかね噺』の制作秘話、そして、桑田が手がけた「人誑し / ひとたらし」「AKANE On My Mind〜饅頭こわい」の魅力について語ってもらった。(森朋之)
「人誑し / ひとたらし」を聴くたびに鼓舞される

——TVアニメ『あかね噺』第1期が6月20日に最終回を迎えました。林家木久彦さんは原作、アニメの落語監修を担当されましたが、ここまでの手ごたえはいかがでしょう?
林家木久彦(以下、木久彦):第2期の制作も発表されたので、まだマラソンが続いているような気持ちですね。既にアフレコは始まっておりますし、糸がピンと張りつめている状態といいますか。とは言え、まずは第1期の最終回を迎えられた感慨深さもかなりあるんですよ。原作の監修のお話をいただいたのが2021年の暮れで、翌年の2022年2月から連載が始まって。その後アニメ化が決まって、渡辺歩監督との打ち合わせ、声優のオーディション、落語の稽古などがあったわけですけど、放送スタートの何日か前に完成版を見させてもらったときに「ここまで来たか」とグッとくるものがあったんです。放送が始まってからも、寄席に来てくださる70代くらいのお客さんから「録画して見てるよ」と言ってもらったり、落語家の仲間からも「面白いね」と声をかけてもらったりして。あっと言う間の2カ月半でしたし、勝って兜の緒を締めよじゃないですけど、慢心せず次に向かっていきたいです。僕としては、『あかね噺』がきっかけで寄席に足を運んでくださった方に「落語って、思ったほど難しくないんだな」と思ってほしいんですよね。
——第1期のハイライトは、朱音が学生落語選手権で披露した「寿限無」。桜咲朱音役の声優・永瀬アンナさんの演技、素晴らしかったですね。

木久彦:アンナさんがいちばん苦戦したのが「寿限無」だったんです。「つる」「子ほめ」などはすぐにフィットしたんですけど、「寿限無」はあまり上手くいかなくて。「寿限無」で大会に勝つというストーリーだし、もしかしたら気負ってるところがあるのかなと思って、しばらく「寿限無」をほっといてもらったんですよ。その後「転失気(てんしき)」や「饅頭こわい」などを覚えてもらって、収録が近づいてから「寿限無」を稽古してみたら、本人も掴めた感覚があったみたいで。たぶんこの期間に落語の筋肉が付いたんでしょうね。収録はかなり時間がかかりましたけど、最後の最後、僕も監督も音響監督の小沼則義さんも含めて、満場一致で「いただきました」というテイクが出て。もちろん彼女自身の才能や努力あってのものですが、すごい達成感がありました。
——桑田佳祐さんが手がけたオープニング主題歌「人誑し / ひとたらし」、エンディング主題歌「AKANE On My Mind〜饅頭こわい」も大きな話題を集めています。
木久彦:みなさんもそうだと思うんですが、まったく予想してなかったし、衝撃を受けました。渡辺監督も素晴らしい監督だし、さらに桑田さんが参加されるとなればまさに鬼に金棒だなと。桑田さんと同じ作品にクレジットされるわけだから、「しっかり仕事しないといけないな」と気合いが入りました。
——桑田さんご自身も落語が好きで、2016年にはNHK『SONGS』で波乗亭米祐(なみのりていべいすけ)という噺家に扮し、創作小噺を披露したことも。
木久彦:そうですよね。「桑田佳祐のやさしい夜遊び」(TOKYO FM/JFN系)でも、ときどき三平師匠(初代・林家三平)のことを話していらっしゃったりするじゃないですか。桑田さんの世代は小さい頃から落語や演芸が身近にあって、たぶんそれが血肉になってるんでしょうね。山下達郎さん、さだまさしさんもそうですけど、音楽畑の方で、落語好きな方もけっこう多いんですよ。ラップの方のなかにも「落語を聞いて韻の参考にしていた」という人がいらっしゃったり。
——落語と音楽、かなり共通項がありそうですよね。「人誑し / ひとたらし」を初めて聴いたときの印象はどうでしたか?
木久彦:まず、すごく疾走感がある曲だなと感じました。ギターをかき鳴らす音が聴こえて「何が始まるんだ?」という感覚だったり、何かが近づいてくるような印象もあって。渡辺監督が作ってくださった映像と一緒になったときに、「全部がハマったな」と思いました。桑田さん独特の歌い回しも素晴らしいし、聴くたびに気持ちがアガるといいますか、鼓舞されるような感じもあるんですよ。もちろん、朱音を応援する歌ではあるんですが、自分が高座に上がるときに聴くと「よし」という気持ちになれるので。あと、ずっと前から知ってたような感覚があるんですよ、この曲は。新作なのに古典らしいとでも言いますか。
——70年代のグループサウンズを現代的にアップデートさせたサウンドですよね。
木久彦:そのあたりは落語にも通じてるかもしれないですね。古典と呼ばれている演目ももともとは新作だったわけで、時を経て、いろんな作品に応用されているんです。たとえば『ドラえもん』の“ジャイアンリサイタル”は古典落語の「寝床」(主人公の大家が、下手くそな義太夫を近所の人や店の人間に無理やり聴かせる)を参考にしていたと言われてますし、マンガや映画などで“この話、なんか知ってるな”と思うときは落語由来のことが多いんですよね。
——その構造は確かに「人誑し / ひとたらし」にも通じていますね。木久彦さんご自身も、古典を今の時代に伝えるための工夫をされているんですか?
木久彦:僕は古典と新作を分けて考えていなくて、大きく“落語”として捉えています。お侍や花魁が出てくれば江戸時代のお話だなとわかりますけど、たとえば親子の会話劇や友達同士のおしゃべりなどは、時代にはあまり左右されない。そのままやっても面白がってもらえるんですよ。そもそも僕、古典落語という言い方があまり好きじゃないんです。古典っていうと国語の古文みたいなイメージがあるし、「古い言葉を知らないと楽しめないのかな」と壁が出来てしまう。それを取っ払いたいんですよね。
——なるほど。桑田さんご自身も、古い曲も今の曲もフラットに楽しんでいる印象があります。
木久彦:海外の楽曲をオマージュされている曲もありますよね。時代が変わっても人間の行いはそんなに変わらないし、「面白い」「いいな」という感覚も実は違わない気がしていて。それは音楽も落語も同じじゃないかなと。

歌詞に登場する落語の演目、一節を解説
——「人誑し / ひとたらし」の歌詞には落語に関連する言葉も使われています。まずは〈『浮世床』なら艶っぽくね〉。
木久彦:「浮世床」は古典落語のタイトルですね。昔は床屋の待合室がコミュニティーの場所だったんですよ。退屈しのぎに集まってはどうでもいい話をしてたみたいなんですけど、それをおもしろおかしくしたのが「浮世床」なんです。将棋をしている人がいたり、文字を読めない人が本を読んでいたりするんですけど、そのなかに半次という人がいて、こいつが大いびきをかいている。居眠りをしている半次を起こそうというので叩き起こすと「ちょっと寝不足なんだ」と言う。「何かあったのかい?」と聞くと「芝居小屋へ出かけると、そばの席に色っぽい年増の女がいてさ」とのろけ話をはじめる。そっからすったもんだがあって「その女が、俺の布団にスッと入ってきて」「うわー、夢みてえな話だな。で?」「おめえらが起こしたんだよ」という話なんです。
——全部、夢の話だったと。〈半鐘(はんしょう)はいけないよ オジャンになる〉も落語に出てくる一節だとか。
木久彦:「火焔太鼓」のサゲ(オチ)ですね。うだつの上がらない古道具屋が火焔太鼓という名のボロ太鼓を仕入れる。女房に「そんな汚い太鼓が売れるわけないだろ」と呆れられるんだけど、たまたま通りかった殿様がその太鼓の音を気に入って、三百両で売れる。調子に乗った古道具屋が「次は半鐘を買ってくるよ」というと、女房に「よしなよ、おジャンになる」とたしなめられるんです。半鐘は火事を知らせる釣鐘で叩くと“ジャンジャンジャン”と音がする。それと“おジャンになる(ダメになる)”を掛けてるというわけですけど、歌詞のなかでは“調子に乗っちゃいけないよ”という意味合いで使われてるような気がします。ちなみに〈ピンチもありゃ/チャンスも来る/君に首ったけさ〉にある〈首ったけ〉も落語の演目で、吉原を舞台にした噺です。
——「人誑し / ひとたらし」という曲名についてはどんな印象がありますか?
木久彦:すごいタイトルですよね。“人誑し”という漢字を初めて知ったんですけど、“ごんべん”に“狂”って、言葉で狂わせるみたいな意味合いがあって。「あいつは人たらしだね」って良くない言い方かもしれないけど、じつは誉め言葉でもあると思うんですよね。朱音にも人たらしなところがあるし、作品にぴったりだなと。
——ミュージシャンや落語家もそうですけど、舞台に立つ人は少なからず“人たらし”な気がします。木久彦さん、「人誑し / ひとたらし」をカラオケで歌ってるそうですね。
木久彦:この曲、“入り”が難しいんですよ。桑田さんの曲は普段からよく歌わせてもらってるんですけど、できるだけ物まねしないように歌いたいなと思ってるんです。ところが「人誑し / ひとたらし」の頭の部分、〈女流名人論破して〉は桑田さんっぽく歌ったほうが上手くいくことに最近気づきまして。……って、これは何の講座ですか(笑)。
——エンディング主題歌の「AKANE On My Mind〜饅頭こわい」についてはどうですか?
木久彦:タイトルに“饅頭こわい”が入ってますからね。そこまで歌詞とリンクしているわけではないと思うんですけど、チルアウトな感じというか、“今日もお疲れ様”みたいな雰囲気があって好きですね。第1期の最終回で、あかねの顔がドーンと出て、「AKANE On My Mind〜饅頭こわい」が流れたときもすごくホッとしました。爽やかな海辺の映像もいいですよね。ちょっと「稲村ジェーン」みたいな雰囲気だなと。
——ちなみに落語家の皆さんにとって「饅頭こわい」はどんな演目なんですか?
木久彦:「饅頭こわい」を高座にかけるプレイヤーはあまりいないんですよ。僕も生で聴いたことは5〜6回くらいしかなくて。僕自身もあまりわかってなかったので、永瀬さんの稽古も同期の落語家(柳家吉緑さん)にお願いしました。ついでに僕も教わって、最近ちょこちょこやるようになりました。曲のほうもカラオケで歌いたいと思います(笑)。じつは僕、本名が“けいすけ”なんですよ。僕が生まれる前年、1990年の長者番付(歌手部門)の1位が桑田さんで、両親が「“けいすけ”がいいんじゃないか」と思ったらしくて。字画を見てもらって違う漢字になったんですけど、後になって僕も「誰もが知ってるスターの名前なんだ」と知りまして。幼稚園の頃に「奇跡(きせき)の地球(ほし)」(桑田佳祐&Mr. Children)、小学生の頃は「TSUNAMI」「HOTEL PACIFIC」「波乗りジョニー」などがヒットしていて。このタイミングで『あかね噺』でご一緒させていただけるなんて、35年越しの伏線回収ですよね(笑)。
——桑田さんは現在“NEW 70'S”を打ち出しています。音楽人としての桑田さんの血肉になっている70年代のカルチャー、そして、桑田さんご自身が70代に突入したことを重ねたワードですが、この言葉についてどう思われますか?
木久彦:パワフルですよね。ひと昔前の70代はご隠居というイメージでしたけど、今は全然違っていて。僕が弟子入りしたとき、師匠の林家木久扇は72歳だったんです。今は88歳なんですが、眼光も鋭いし、ピリッとしてるんですよ。落語協会の会長の柳家さん喬師匠も70代後半ですし、この業界、70代の噺家はまだまだ現役なんです。色気のある方、渋い方もいるし、近所のおじさんみたいな人もいますけど(笑)、みなさんそれぞれの魅力がおありで。僕みたいな30代はまだまだガキ。真打になったからと言って、まだ何者でもないですから。
——70代以上の師匠たちがご活躍なのは刺激になるのでは?
木久彦:そうですね。「この方のここを真似したい」「これはやってみよう」ということもあるし、あとは皆さん、総じて世間のことに明るいんですよね。「おまえが関わってる落語のマンガ、今度アニメになるんだろ?」と声をかけてもらうこともあるし、うちの師匠もNetflixでいろんな映画を観て、鑑賞日記をつけてるんですよ。もちろん、これまで生きてこられた道筋も血肉になっているし、新しいことも貪欲に取り入れていて。僕が師匠から言われたのは「何でも面白がってやるんだよ」ということなんですよ。師匠自身がそれを続けてるのに、35歳の自分がやらないのは怠惰でしかないぞと身が引き締まりますね。
——桑田さんは7月から12月にかけて全国アリーナツアー『桑田佳祐 夏祭りツアー 2026』を開催します。
木久彦:ずっとトップで居続けて、お茶の間を楽しませ続けてるって、本当にすごいですよね。うちの師匠、高座に上がる前は鏡に向かって「大丈夫、君がいちばんおもしろいから」って言い聞かせてるんですけど、ずっとそういう気持ちで向き合えることもすごいし、強靭な人だなと。桑田さんも当たり前のようにずっと居続けていますけど、それは当たり前じゃなくて。今回ご一緒させてもらって、そのことを改めて思い知らされました。
——『あかね噺』の第2期も楽しみです! 第1期の盛り上がりを受け、木久彦さんにかかるプレッシャーもさらに大きくなりそうですが……。
木久彦:僕は大丈夫です。がんばるのは永瀬さんをはじめとする声優陣のみなさん、スタッフのみなさんなので。最初にもお話しした通り、みなさんに喜んでいただけているし、これからも楽しみながらやっていきたいと思ってます。
■リリース情報
『人誑し / ひとたらし』
6月24日(水)リリース
※アナログ盤:7月8日(水)リリース
特設サイト:https://southernallstars.jp/feature/kuwata2026
<収録楽曲>
1. 人誑し / ひとたらし(テレビ朝日系TVアニメ『あかね噺』オープニング主題歌)
2. AKANE On My Mind~饅頭こわい(テレビ朝日系TVアニメ『あかね噺』エンディング主題歌)
3. 南谷ミュージック・シティー
4. みたらし慕情 / 演歌編(カンロTVCMソング)
5. 飴とミラーボール / ディスコ・ヴァージョン(カンロTVCMソング)
6. 飴ちゃんマン / ロック編(カンロTVCMソング)
7. 聖なるカンロ飴 / ドゥーワップ・ヴァージョン(カンロTVCMソング)
■公演情報
『桑田佳祐 夏祭りツアー 2026 supported by カンロ』
<日程・会場>
2026年
7月8日(水)開場17:30開演18:30
7月9日(木)開場17:30開演18:30
石川県産業展示館4号館
7月14日(火)開場17:30開演18:30
7月15日(水)開場17:30開演18:30
あなぶきアリーナ香川
7月21日(火)開場17:30開演18:30
7月22日(水)開場17:30開演18:30
広島グリーンアリーナ
7月29日(水)開場17:30開演18:30
7月31日(金)開場17:30開演18:30
8月1日(土)開場16:00開演17:00
TOYOTA ARENA TOKYO
8月7日(金)開場17:00開演18:00
8月8日(土)開場16:00開演17:00
三重県営サンアリーナ
8月13日(木)開場17:30開演18:30
8月14日(金)開場17:30開演18:30
グランメッセ熊本
8月19日(水)開場17:30開演18:30
8月20日(木)開場17:30開演18:30
GLION ARENA KOBE
8月27日(木)開場17:30開演18:30
8月28日(金)開場17:30開演18:30
北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
9月2日(水)開場17:00開演18:30
9月3日(木)開場17:00開演18:30
Kアリーナ横浜
9月9日(水)開場17:30開演18:30
9月11日(金)開場17:30開演18:30
9月12日(土)開場15:30開演16:30
宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
追加公演
12月16日(水)
12月17日(木)
愛知・クロコくんホール(日本ガイシホール)
12月22日(火)
12月23日(水)
大阪・大阪城ホール
12月28日(月)
12月30日(水)
12月31日(木)
神奈川・横浜アリーナ
※追加公演およびチケット受付の詳細は2026年秋頃に発表予定
特設サイト:https://southernallstars.jp/feature/kuwata2026live
■タイアップ情報
TVアニメ『あかね噺』
他各配信プラットフォームにて配信中
テレビ朝日系全国24局ネット“IMAnimation”枠・BS朝日ほかにて、2027年1月より第2期放送
公式サイト:https://akane-banashi.com/
■関連リンク
林家木久彦 オフィシャルサイト:https://kikuhiko.com/
サザンオールスターズ オフィシャルサイト:https://southernallstars.jp
サザンオールスターズ公式 YouTube channel:https://www.youtube.com/@SouthernAllStarsch
桑田佳祐公式YouTube channel:https://www.youtube.com/@KUWATAKEISUKEch
サザンオールスターズ公式Facebook:https://www.facebook.com/sas.taishita/
サザンオールスターズ公式X(旧Twitter):https://x.com/sasfannet
サザンオールスターズ公式Instagram:https://www.instagram.com/southernallstars_official/
サザンオールスターズ公式TikTok:https://www.tiktok.com/@taishitaofficial




















