鈴木真海子「“とりとめのなさ”こそが今の自分」 休養期間を経て、再び音楽へと向かうまで

鈴木真海子、再び音楽へ向かうまで

「この経験さえも、後で振り返った時に人生の“見どころ”だったと思えればいいな」

鈴木真海子インタビュー写真(撮影=まくらあさみ)

──そんな中で完成したのが、今回の新曲「とりとめのないこと」ですね。歌詞もサウンドも、本当に真海子さんにしか作れない作品だなと思いました。

鈴木:この曲のトラックは、実はずっと前にDJ FUMIYAさんからいただいていたものなんです。ただ、その時は特に手をつけていなくて。その後、「今までどんなビートをもらってたっけな」と聴き返していた時に、このトラックを聴いて「あ、今の自分の感覚にすごく近いかも」と感じました。そこから少しずつ言葉を書き始めていって。書いているうちに、本当にいろんな考えや感情が出てきて、「ああ、これ、とりとめないな」って思ったんですよね。でも、その“とりとめのなさ”こそが今の自分なんだろうなと思って、そのまま曲にしました。

──冒頭の〈星の上〉〈ビルの上〉〈海の上〉という風景描写から一気に引き込まれました。人がたくさんいる場所と、広くて誰もいない場所が交互に出てくるのが印象的です。

鈴木:落ち込んでいる時期って、結局ずっと自分のことばかり考えているんですよね。例えばYouTubeを見ていても、自分の状態に関係のあるものだけがやたら目に入ってくるし、どんどんそこに引っ張られていく。その時に、「ああ、自分のことしか考えられていないんだな」って思ったんです。だから最初の4行は、全部自分視点なんですよ。「宇宙にいたらこんな感じかな」とか、「海の上だったらこうかな」とか、頭の中で視点がどんどん切り替わっていく。そういう感覚をそのまま書いたら、ああいう始まりになりました。

──そのあとに続くパートは、深夜の意識と無意識の間を漂っているような感覚がありました。個人的には、ソフィア・コッポラ監督の作品が内包している空虚さというか。自分が存在しているのか、していないのかわからなくなるような感覚にも通じるなと思いました。

鈴木:ああ、確かに。嬉しいです。そこはシンプルに本当に眠れなかったので(笑)。

──〈聞いてないことたくさん/意味あることつまんない〉や、〈正常も異常もわかんない/別に一緒なんじゃない〉というフレーズもすごく印象的でした。

鈴木:ものすごく大きなことを考えたかと思えば、今度はすごく細かいことを考えたりする。「生きてる意味なんてないじゃん」と思ったかと思えば、「いや、別に意味なんてなくても生きてるだけでいいじゃん」となったり。

 そうやって行ったり来たりしているうちに、老若男女、みんな頑張って生きていることに改めて気づいて。しかも今って比較されることも多いし、流行り廃りもすごく早い。その中でみんな本当によくやっているなって思ったんですよね。それで、「意味あること」とか「意味ないこと」とか、結局何なんだろうって考えていたことを書き留めていました。

 そこからさらに、自分の状態や周りの人たちを見ていて、「何が普通で、何が普通じゃないんだろう」と考えるようにもなって。正常とか異常とか、そういう線引き自体がよくわからなくなっていった気持ちを言葉にしました。

鈴木真海子インタビュー写真(撮影=まくらあさみ)

──なるほど。そうした言葉が並ぶ一方で、〈見どころを作る人生〉というフレーズには救われる気持ちになりました。

鈴木:そこも、やっぱり休養中に考えていたことですね。「この経験さえも、後で振り返った時に人生の“見どころ”だったと思えればいいな」と。

──あえて主語をはっきりさせていないからこそ、いろんな受け取り方ができるとも思いました。

鈴木:そうですね。いろいろな取り方をしてもらえたら嬉しいです。

──例えばサビの〈待っていたのは見かねた夕暮れ〉という表現もすごく素敵だなと思いました。僕はここ、夕暮れが自分のことを待っていてくれて、去っていった人のことを考えながらずっと同じ場所にとどまっている「私」に、「もう今日は終わりにしなよ」と言ってくれているように感じたんです。

鈴木:まさにそうです。

──〈去ってったのは優しいからね だってその方が簡単で傷つかないもんね〉という一節も刺さります。

鈴木:ちょっとやさぐれた部分も出していますね(笑)。それは人でも物でも、どんな現象でもいいんですけど、何かが去っていくことにも、そこに優しさがあるのかもしれないというか。

──〈髪は伸びるし電球は切れる〉のあたりは、諸行無常感がありました。

鈴木:生活は続くので。ずっとそこにとどまっていても、いろんなことが起きるし、いつかは楽になる時も来る。そういうこともありますよね、という感じです。

──〈知ろうとするから遠ざかってくことを知る〉という一節も、真理だなと。

鈴木:何事にもそうだなと思っていて。たとえば憧れの人がいたとして、その人のことを知れば知るほど、マイナスの部分も見えてきて幻滅することがあるかもしれない。

──人のことを知りたい、物事を知りたいという好奇心はある。でもそれが時に、「この人はこういう人なんじゃないか」と決めつけることにもつながってしまう。

鈴木:私もそう思います。たとえば最初に「この人、苦手かも」と思ったとしても、その印象だけで決めつけてしまうのはもったいないですよね。次に会った時にすごく楽しかったら、「ごめんなさい」って思うし(笑)。競争や比較も、もちろんしてしまうことはあると思います。でも、自分の感覚が一番大事だということは忘れたくないんです。

鈴木真海子インタビュー写真(撮影=まくらあさみ)

──それは難しいことでもありますよね。強い意志がないと、なかなかできない。

鈴木:そうなんですよね。ジャッジメントした方が楽だったりもするんです。自分のこともカテゴライズした方が楽だし、目標も見えやすい。でも、それがどれくらい自分の幸せにつながっているのか。自分が満たされている感覚を見極めるのは、すごく難しいことだと思います。

 自分自身のこともそうで、自分を知ろうと思っていろいろ考えたり、調子の波をグラフ化したりしてみても、結局わからないんですよ。ホルモンの影響もあるかもしれないし、自分でコントロールできるものばかりじゃない。だから完璧に知ろうとし始めると、逆にどんどんわからなくなる。

──落ち込むパターンを考えてみても、結局それは天気だったり、いろんな偶然だったり、さまざまな要素が絡んでいて、自分ではわからないことも多いですよね。偶然の積み重ねの中で生きていて、それを自分で選んでいると思っているだけかもしれない。

鈴木:そうなんですよね。未来なんて本当にわからない。自分が休むことになるとも思っていなかったし、またこうしてインタビューさせてもらえるとも思っていなかったし、ライブをまた楽しいと思えるようになるなんて、その時は想像もしていませんでした。

 最終的にはフィーリングとか直感、バイブスが一番いいんじゃないかなと思ったんです。あんまり深く考えない方がいいのかもしれない。そういう“適当さ”にも通じるラインなのかなと思います。

──メロディも、マイナーなのかメジャーなのかわからないような、すごくフラットな感じがあって。それが曲全体の感覚と合っているなと思いました。

鈴木:嬉しいです。今回はトラックが先にあって、そこにトップラインを乗せていきました。鼻歌で作ったんですけど、歌詞とメロディがわりと同時に出てきた感じでした。キーはそんなに高くなくて、ぼーっとしていても歌える感じにしたかったのかもしれません。ソロではあまりなかったタイプの曲ですね。

──途中で声にだんだんエフェクトがかかって、宇宙人みたいになっていくところも面白かったです。

鈴木:あれはエンジニアの松田直さんがやってくれたのかな。でも、だんだん声が飛んでいくようなアレンジはFUMIYAさんが考えてくれていたと思います。お2人の力が大きいですね。

──この曲のほかにも制作は進めているんですか?

鈴木:はい。ちょこちょこ録っています。Pistachio Studioで制作することが多いんですけど、バンドメンバーでもあり、トラックメイカーでもあるTiMTくんが、療養中の私のことを思いながら作ってくれた“海っぽい曲”も録りました。

 ほかにも、かなりラップ寄りの曲もありますし、ピアノやギターで作った曲をryo takahashiくんがアレンジしてくれているものもあります。まだ形になっていないものも含めて、種はいろいろありますね。

日記みたいな感覚で曲を出していきたい

鈴木真海子インタビュー写真(撮影=まくらあさみ)

──ところで、最近はどんな音楽を聴いていますか?

鈴木:1年くらいあまり音楽を聴けていなかったので、今はそれを取り返すように聴いている感じです。最近は日本語ラップが面白いなと思っていて、Farmhouseさんをよく聴いています。あとは古いラテン音楽をいろいろ聴いたり、トロンボーンのような管楽器が入っているものを聴いたりしていますね。

──映画も観ていますか?

鈴木:観ていますし、また映画館にも行くようになりました。最近は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と『センチメンタル・バリュー』を観ました。『センチメンタル・バリュー』はめちゃくちゃ泣きましたね。軽い気持ちで観に行ったら、すごく良くて。

 あとは『マーティ・シュプリーム』も観ましたし、『ウェポンズ』も観ました。『ウェポンズ』はめっちゃ好きでした。『They Will Kill You』も観ましたし、『爆弾』はNetflixで観ました。最近は、ちょっとバカっぽいというか、『キル・ビル』みたいに、強すぎて「ありえないでしょ」ってなる映画も好きです。日本のホラーとは違うタイプのホラーが、今の気分かもしれません。

 それから『ユートピアの力』という映画が面白いらしいと聞いて、気になっています。ようやく日本でも上映が決定した『Backrooms』も、絶対面白いと思っています。

──音楽も映画も、またいろいろインプットできる状態になっているんですね。最後に、今後の予定をお聞かせください。

鈴木:毎月シングルをリリースしたいなと思っています。今は気軽にやっていきたい気持ちがあるので。「まとまりないじゃん」っていう意見もあるかもしれないですけど、そこはちょっと無視させていただいて(笑)。その時にどうしたいのかを、日記みたいな感覚で出していきたいです。

 ライブも、年内にワンマンを考えていますし、楽しみにしていてほしいです。

鈴木真海子「とりとめのないこと」ジャケット写真
「とりとめのないこと」

■リリース情報
Digital Single「とりとめのないこと」
2026年6月26日(金)配信リリース
https://orcd.co/toritomenonaikoto_kiitene

■関連リンク
Website:suzukimamiko.com
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Pistachio Studio:pistachiostudio.net

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