The Novembersが鳴らす21年目の美学 熱狂とカタルシスの90分を駆け抜けた『合奏する、エンジン』ツアー
最新EP『合奏する、エンジン』を携えた、久しぶりの全国ツアーを開催中のThe Novembers。アンコールを含めて全17曲90分というセットは、遊びもなく中弛みもない、全曲にしっかり集中させる理想的な尺であった。このバンドの演奏クオリティは本当に高い。アクシデントやミスも味だからと誤魔化すことのない、凄まじい精度にずっと圧倒されていた。ただ、完璧ゆえに人間味に欠けるかと言えばまったくそうではなくて、結成20周年を超えて21年目に入った今の、4人の人間模様が生々しく噴き出していたのだった。
長年の定番だったSE「雨に唄えば」もないまま、静かに暗転し、ブルーのライトに包まれるオープニング。まるで深い海の中に引き込まれていくようだ。メランコリックな歌モノから始まるステージは、叙情派ニューウェイヴ、シーケンスの走るインダストリアル、そして最新アルバムから加速するロックンロールへと次々切り替わっていく。いわゆる普通のギターロックに始まり、オリジナルの進化を遂げたバンドの歴史を見せていく構成なのかと思っていたが、驚いたのは、続いて「Ghost Rider」「Xeno」と爆音のハイライトが始まったことだ。通常これらの曲はライブ後半、終了間際にプレイされることが多く、小林祐介(Vo/Gt)も「Xeno」を終えたあとに、「ここからはアンコールの気持ちで。もうやりきったんで(笑)」と冗談を飛ばしていたくらいなので、まずは開始6曲で第1部終了ということだろう。
この2年半、いいことも悪いことも、すごく意味のある経験ばかりしてきた。それを曲にして演奏できるのは音楽家冥利に尽きる。ここからは隣の人を思いながら、思い思いに自分の時間を過ごしてください――。そんなMCのあとに始まったのは「HERO」。最新EPの1曲目である。その後も「The Singing Engines」「遥か彼方」「合奏 -Hold me Hold me Hold me-」とEPの曲順そのままの演奏が続く。なるほど、第1部が終わったあとの第2部は、まさに『合奏する、エンジン』がテーマなのだった。
浮遊するエフェクティヴなギターやきらきらした上モノに対して、小細工なしのパワフルなドラミングをぶつけていく吉木諒祐(Dr)は、間違いなくThe Novembersの支柱である。彼の生ドラムがとにかく頼もしいのが「HERO」で、このビートがなければバンドはもっとアンニュイなネオアコ風になっていただろうとしみじみ思う。ベースの高松浩史(Ba)は基本歌心の強いプレイヤーで、ほとんどの曲で動きまくるメロディを弾いているが、その彼が猛烈なダウンピッキングで攻めるのが「The Singing Engines」。普段寡黙に見える高松が前に出ていき観客を煽る瞬間も、これまた特別にゾクゾクするものだ。
「遥か彼方」では、ギターを置いてハンドマイクになった小林の独壇場。甘く個人的なラブソングのようでいて、命の儚さ、この世界の不条理までを描く詩情、それを伝えるパフォーマーとしての一挙手一投足は近年ますます頼もしいものになっている。また、「合奏 -Hold me Hold me Hold me-」で際立つのはケンゴマツモト(Gt)のソロパートだ。普段は大量のエフェクターを使い分けているのに、この曲だけはエレキギターの生音をそのままぶつけ、主旋律を追いかけるようなメロディで余韻を広げていくのだ。
第2部の開始前に小林が「隣の人を思いながら」と言った意味がよくわかった。バンドのイメージとほんの少しズレているもの=それぞれの個性を尊重し合いながら、曲ごとに見せ場を作っていく“合奏”。EP形態だからできたことだろうが、この4曲はThe Novembersの4人が「偶然」とか「たまたま」ではなく「一緒にいることを努力し合ってきた」ことを伝えるドキュメントになっている。それは極東のロックバンドの話に限らず、きな臭くなる一方の世界に放つ真摯なメッセージにもなっているのだ。少しズレているところ、どうしても気が合わないところのある隣人と、どうしたら一緒にいられるか。自分たちの美学を徹底的に磨き上げていったのがこれまでの20年ならば、その先に世界が見えているのが21年目の今となる。
かくして第2部終了。別に転換も休憩もないのだが、高松作曲の「Cashmere」から始まる第3部はさらにパワフルに、ダイナミックに、深い海の中から始まったステージを天国にまで引き上げていくような流れだった。特に「BAD DREAM」、「Hamletmachine」から「Morning Sun」へと続く後半は鳥肌もの。終始クオリティの高い、不安要素がまるでない演奏の中に、どうにかなってしまいそうなスリルと興奮、絶頂に近いカタルシスが次々と現れる。
本当にスリリングなものと、そもそも土台が不安定なものはまったく違う。やたら元気で明るい集団と、それぞれ意思を持ってよい方向に向かおうとするバンドもまるで違うものだ。もちろんThe Novembersにはダークな曲、物悲しい曲も多いが、それは人生を悲観する恨み節では決してない。よりよいものに到達するため、小林の言葉を借りるなら「いい未来で会いましょう」と誓い合うために、新曲が生まれライブが行われる。ひとつの作品とひとつのツアーにここまで強烈な意味を感じたのは初めてのことだった。長年の思いがまたひとつ更新される。つまり、The Novembersは、今が一番いい状態である。