矢沢永吉、ゆず、ano、Aooo、原口沙輔、スーパー登山部……注目新譜6作をレビュー
New Releases In Focus
毎週発表される新譜の中から注目作品をレビューしていく連載「New Releases In Focus」。今回は矢沢永吉「BORDER」、ゆず「ニュービギニング」、ano「貸しっぱなしデスティニー」、Aooo「ポラリス」、原口沙輔「イ三」、スーパー登山部「Breathe」の6作品をピックアップした。(編集部)
矢沢永吉「BORDER」
ゴージャズでグルーヴィー。男の色香をたっぷりと漂わせながら、震えるような淋しさや痛みも滲む。矢沢永吉の新曲「BORDER」は、デビュー50周年を迎えてもなお、自らのピークを更新し続ける“YAZAWA”の現在地を示したロックチューンだ。切ない情感を感じさせるストリングスから始まり、キック、ベース、シンセのシンプルで奥深いサウンドへと移行。芳醇にしていぶし銀なボーカルがゆったり広がるなか、鋭利なギターサウンドがギラリとした光を放つ。作詞は矢沢と同じく50周年を迎えた森雪之丞。〈俺と越えてくれるか BORDER/愛しあうのは 罪じゃ ないさ〉など、濃密なリズム感と映像的な表現を併せ持ったリリックのセンスは流石の一言だ。(森)
ゆず「ニュービギニング」
『DayDay.』(日本テレビ系)テーマソングであるゆずの新曲「ニュービギニング」は、明るくて朗らかなメロディがすべてのリスナーの心と身体をゆったりと解いてくれるミディアムチューン。現実逃避でも見て見ぬふりでもなく、それぞれの現状としっかり向き合ったうえで〈何度でも「これから」「ここから」/始めよう〉というフレーズが手渡される、珠玉のエナジーソングだ。ソウルフルな雰囲気をまとったサウンドメイク、特に全編を包み込むようなストリングスが印象的なアレンジを手がけているのはトオミヨウ。古き良きグッドミュージックの意匠と現代的なポップセンスが絶妙に絡み合う温故知新な音像も、この曲の魅力だろう。『DayDay.』のMCを務める南海キャンディーズ・山里亮太、武田真一アナウンサー、後呂有紗アナウンサーがコーラスで参加。(森)
ano「貸しっぱなしデスティニー」
映画『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』の主題歌として制作された「貸しっぱなしデスティニー」は、作品の世界観やストーリーと密接にリンクしていると同時に、anoの際立った個性や時代を超えるメッセージ性を内包した楽曲だ。ヘヴィロック経由のバンドサウンドと激烈なデスボイスで始まり、スカのビートを挿入しつつキュートかつキッチュな歌声が真っ直ぐに突き刺さる。そして、疾走感に貫かれたビートとともに放たれるサビでは、“大切な君との何気ない日常”に対する思いをストレートに描く。激しさ、強さ、優しさ、切なさ、愛らしさなど、複雑で生々しい感情の渦をリアルに歌い上げるanoの真骨頂だと思う。(森)
Aooo「ポラリス」
すりぃ(Gt)、やまもとひかる(Ba)、ツミキ(Dr)というソロでも活動している面々と、元・赤い公園の石野理子(Vo)によるロックバンド。技術も遊び心もあるメンバーなので楽曲は幅広く、2ndアルバム『Rooom』には驚くほど熱量の高いオルタナティブ系ナンバーも多数。ただ、この「ポラリス」は世界的モバイルゲーム『ブロスタ』とのコラボで、作詞曲を担当したツミキはわりと王道のポップス/ギターロックを意識したのだろう。オープニングの印象的なギターリフ、てらいのないメロディ、繰り返しの多い歌詞など、初めて聴く曲なのに昔から愛されてきた邦ロックのスタンダードのように響く。生ドラムと並走するダンスビートが現代性をアピールしている。(石井)
原口沙輔「イ三」
2003年生まれ、シンガーソングライター、プロデューサー、フィンガードラマー、ボカロPなど数々の肩書きを持つ奇才・原口沙輔の3rdアルバム『イ三』からタイトル曲。「いさん」と読む。影響を受けたという坂本龍一を思わせるピアノから始まるが、これはいわゆる現代音楽に分類していいのだろうか。決して難解ではなく、メロディはわりと聴きやすいJ-POP、無駄のない構成はミニマルミュージック。アンビエント〜ノイズと渋谷系を繋ぐ感性はCorneliusのようであり、問いを繰り返す歌詞は哲学そのもの。音数は少ないのに奥行きがどこまでも深い、一滴の水の向こうに大海の存在をはっきり知らせてしまう音楽である。すごいものがきた。(石井)
スーパー登山部「Breathe」
2023年結成の5人組バンド。別にふざけているわけではなく、実際に登山をライフワークとしながら山荘でのライブを繰り返すなど、山と音楽を結びつけた活動を続けてきた。この曲は1stアルバム『スーパー登山部』収録曲のひとつで、澄み切った空気、遮るもののない景色の美しさ、容易ではなかった山道を登り切った喜びみたいなものが溢れ出す世界観には、バンドの本気度がしっかり刻まれている。ボーカル・Hina(Vo)の歌声は透明で美しいが、幻想的とか幽玄と評されるタイプではなく、どことなく人懐っこいため、メンバーのコーラスが絡んでくる後半になると、チームであることの楽しさがいっそう強調される。これもバンドおよび登山部の醍醐味。(石井)