lyrical school解散に寄せて ラップの導入にとどまらない功績、“アイドルを再設計”した15年間をつやちゃんが紐解く
lyrical school、先鋭的ゆえにぶつかった時代の壁
一方でそのアプローチは、時代が進むとともに逆説的な難しさも帯びていきました。2020年代に入ると、自己言及やジャンル横断、文脈的な意味生成といった要素は、もはや特異な試みではなく、アイドル表現の前提となっていったからです。かつてリリスクが持っていた批評性が、環境や表現の側に自然と組み込まれていった。その結果、リリスク的アプローチは広く浸透しながら、マーケットにおいては差異としての機能を徐々に失っていったのではないでしょうか。結果的に、“新たな実験を維持するためのコスト”と“それを支える市場規模”の乖離が、時間をかけて拡大していった。実験を更新し続けるにはリソースが必要だが、それを回収できる構造にはなりきらなかった。冷静に見てしまうと、この不均衡が長期化したとき、プロジェクトとしての持続は難しくなったのだと思います。
ただし、それをもって失敗とみなすのは早計です。リリスクは、「どこまでアイドルという枠組みを拡張できるのか」という問いに対し、最後まで手を緩めることなく応答し続けたグループでした。その軌跡は、単なる活動の積み重ねではなく、ひとつの到達を示す記録と言えます。リリスクは売れる回路から逸脱したのではなく、逸脱し続けることを引き受けたグループだった。そしてその選択は、決して容易な道ではなかったでしょう。実際、男性メンバーが加入した「LS8」においては、あまりに挑戦的な試みに対して、当初「どのように受け止めればいいか分からない」といったような反応もありました。それでもなお、やり続けた。更新し続けること、自分たちの現在地を引き受け続けること――その積み重ねの先にしか見えない景色が、確かにあったのだと思います。
つまり、そうした変化の中で、彼女ら彼らの役割はひとつのかたちで完結したのでしょう。やるべき実験をやり切ったこと、引き受けるべき問いを最後まで手放さなかったこと。その事実そのものが、大きな達成です。もちろん、メンバーも語っていた通り、そこには悔しさもあります。解散ライブの会場に集った多くの人たちがずっと考えていたこと、そこで共有されていた前提――それは端的に言ってしまえば、「良いものを作ればいつか届く」という夢だったのではないでしょうか。事実、リリスクのクリエイティブ主義は、多くのアーティストやクリエイターに刺激を与えてきました。楽曲には、若き頃のtofubeatsから始まり、BoseやSHINCO(スチャダラパー)、かせきさいだぁ、Mellow Yellow、Ryohu(KANDYTOWN)、PES(RIP SLYME)、valknee、Rachel(chelmico)、そしてKMに至るまで、ここには挙げきれないほどのヒップホップシーンの実力派たちが参加してきました。『カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル』にて、MVがサイバー部門銅賞を受賞した「RUN and RUN」やパンデミック下のリモートライブの例を挙げるまでもなく、数々のアイデアに満ちた映像作品も枚挙に暇がありません。そもそもアートスクールに出自を持つ面々が集まり構成したチームという点も含めて、リリスクは常にクリエイターの視線を集める存在でした。
けれども、「良いものを作ればいつか届く」という夢はもう、過去の幻想となってしまったのかもしれません。2020年代も後半に突入した今、リリスクの解散で見えたのは、“評価されること”と“広く届くこと”は別物であるという厳しい現実です。どれだけクリエイティブが優れていても、それだけでは届き切らない現実が、はっきりと浮き彫りになりました。
リーダー minanが体現した“自分自身を誇れる在り方”
4月19日の解散ライブでは、メンバーそれぞれに感情のこもったMCが印象的でした。普段ステージ上ではあまり多くを語らないグループだけに、余計に胸に来るものがあり、中でも、リーダーのminanが最後に私たちに届けてくれた言葉は、その後も多くの人が何度も反芻しているのではないでしょうか。彼女は、「リリスクをやったことで、自分を好きになることができた」と話したのです。これをアイドルが言うことに、大きな感動を覚えました。なぜならそれは、リリスクというプロジェクトが何をやっていたのかを、ひとことで言い切ってしまった瞬間だったからです。
これまで述べてきた通り、リリスクがやってきたことは、楽曲の中で自分たちを定義する/現在地を言葉にする/アイドルとしての在り方を更新し続ける、という挑戦的なプロセスでした。これは言い換えると、「自分とは何か」という答えを外から与えられるのではなく、自らの手で作り続けるということです。だからこそ、minanの「リリスクをやったことで、自分を好きになることができた」という言葉は、シンプルに見えてとても重いものでした。
アイドルという存在が、しばしば“他者からどう見られるか”を軸に組み立てられる中で、「自分を好きになることができた」と言い切ること。それは、視線に応えることを超えて、自分自身に納得できる地点にたどり着いたという意味を持っているように思います。実際、私がインタビューという形でこれまで何度かminanと対話させてもらった中でも、その変化ははっきりと感じられました。「LS5」というスキルフルなグループを率いていた当時ですら、彼女はどこか自信のなさをにじませ、謙虚な発言に終始していました。しかし「LS8」でプレイングマネージャーとしてメンバーを引っ張っていく過程で、そのマインドは確実に変わっていった。そうした積み重ねの中でも、minanは自分自身を誇りに思い、これまで以上に肯定できるようになっていったのだと思います。
だからこそ、リリスクが最後にたどり着いた場所は、評価や人気といった他者からの視線の延長線上にあるものではなかったのでしょう。むしろ、その先で、自分たちのあり方に納得できるかどうかという地点にあったのだと思います。
リリスクは解散しました。多くの人がそこに託した夢も、ここでひとつの区切りを迎えました。けれども、残された楽曲はこれからも鳴り続け、“アイドルとしてどう生きるか”を問い続けるような態度は、これからも私たちが迷ったときに立ち返る、ひとつの基準であり続けるのだと思います。
■リリース情報
lyrical school『lyrical school 2010-2026』
2026年6月3日(水)リリース
配信中:https://jvcmusic.lnk.to/lyricalschool2010-2026
<収録曲>
01. DAYONE
02. ルービックキューブ(tengal6)
03. プチャヘンザ!(tengal6)
04. そりゃ夏だ!
05. おいでよ
06. リボンをきゅっと
07. PARADE
08. ひとりぼっちのラビリンス
09. brand new day
10. FRESH!!!
11. PRIDE
12. ゆめであいたいね
13. ワンダーグラウンド
14. RUN and RUN
15. サマーファンデーション
16. マジックアワー
17. 夏休みのbaby
18. つれてってよ
19. パジャマパーティー
20. シャープペンシル feat. SUSHI BOYS
21. Tokyo Burning
22. LAST DANCE
23. 大人になっても
24. OK!
25. TIME MACHINE
26. Fantasy
27. THE LIGHT
28. NEW WORLD
29. DRIVE ME CRAZY
30. Ultimate Anthem
31. 朝の光
32. GOODBYE
33. 朝の光(ryuya remix)