GRAPEVINE、一瞬の沈黙すら生んだ圧巻の演奏 “縛りのない”自由なステージで見せたこだわりと未来への兆し

GRAPEVINE『SPRING TOUR』東京公演レポ

 シンプルに『SPRING TOUR』と名付けられた全国5カ所6公演。東京ではLINE CUBE SHIBUYAで4月28、29日の2日間行われた。29日、冒頭で田中和将(Vo/Gt)が言ったように作品のリリースなどを伴わない「特に縛りのない」ツアーだけに、新旧の曲を面白く組み合わせたセットリストでバンドの持ち味を存分に発揮するライブとなったのだが、バンドの持ち味などといった言葉には収まらないものを感じさせるライブだった。

 とは言え、幕開けはそんな気配なぞ微塵も感じさせず、2ndアルバム『Lifetime』からの「いけすかない」でオーディエンスを煽り、「SUN」をリラックスした雰囲気で聴かせて安定のスタート。歌いながら田中は「渋谷〜!」と呼びかけ、最新作『あのみちから遠くはなれて』からのトーキング・ブルース・ナンバー「天使ちゃん」を続けて、オーディエンスの体温を上げた。

GRAPEVINE ライブ写真

 「ここで喋るのか?」などととぼけたMCを挟んで、最近の3部作からのシングル曲を畳み掛ける。シンセで軽妙さを加えた「雀の子」、亀井亨(Dr)がシャープなドラムソロからドッシリしたイントロに繋いだ「ねずみ浄土」は田中がフェイクたっぷりの歌を聴かせ、5人がバラバラなようでいて一つにまとまる絶妙な演奏に引き込んだ。そして最新作の「どあほう」はスピード感のある演奏で盛り上げる。ふりかえればコロナ禍の尋常ではない日常が影響したとも思える捻れた緊張感を含んだこれらの曲も今では身体に馴染んでいるのだが、デビューミニアルバムからの「退屈の花」とすんなり繋がって、変わらないようでいてさまざまに変化してきたバンドの29年の足跡を俯瞰させた。

GRAPEVINE ライブ写真
西川弘剛(Gt)・田中和将(Vo/Gt)
GRAPEVINE ライブ写真
亀井亨(Dr)

 時間軸を大きく揺らすような流れはこの後も続き、「光について」から「猫行灯」、金延幸子のカバーである「青い魚」から「ドスとF」と、『LIFETIME』と最新作を並べていく展開。目下のGRAPEVINE史上でもっとも好セールスだった『LIFETIME』にはライブで定番となっている曲が多いのだが、その作品の中では演奏する機会の少ない「青い魚」を選ぶあたり、このライブへのバンドのこだわりが感じさせる。ベーシスト・根岸孝旨をプロデュースに迎えて進むべき方向性を定めた重要作品であることも確かだが、同時に彼ら自身のロックバンドとしてのこだわりを再確認してもいた作品だ。このライブを根岸が見守っていたが、それは前日にリイシューが発表された4作目『Circulator』までを根岸がプロデュースしていることも関係していたようだ。

GRAPEVINE ライブ写真
金戸覚
GRAPEVINE ライブ写真
高野勲

 この中盤の流れが素晴らしかった。安定感のある「光について」から落ち着いた演奏ながら最近の彼ららしい緊張感のある演奏の「猫行灯」に繋ぎ、その間奏ではスリリングなジャムセッションを展開してライブならではの時間をたっぷり楽しませた。いや、楽しんでいたのは彼ら自身のほうだったかもしれない。そのセッションの気分を保ったままソウルフルな「411」が続き、70年代的サイケをGRAPEVINE流に表現したような「青い魚」から今日的なサイケデリアに引き込んだ「ドスとF」、そして抑制の効いた歌と演奏が瞬きを忘れさせるほどステージに集中させた「Gifted」。これは本当に圧巻だった。シンセでSEを加えギターソロも乗せたイントロから、ライブらしいグルーヴのボトムとなる低音が体の芯に響き、凄みを漂わせた田中のボーカルは呪詛さながらに聴くものを逃さない。この曲はアルバム『新しい果実』の先行シングルとして2021年にリリースされたが、その時から異彩を放っていた。シンガロングするようなパートもないし、すんなり喜怒哀楽を呼び起こすものでもない。ライブでは多少カラフルになっているが、モノトーンめいた緊張感のある長いイントロから、“この曲と向き合うことができますか?”と問いかけているような印象を私は受ける。この日は、まさにその問いを正面からぶつけてきたように感じる演奏で、“いい曲”とか“名曲”といった言葉で安易に伝えようとしてはいけないような、“凄み”を発散する曲になっていた。オーディエンスはそれを感じ取っていたのだろう。演奏が終わった途端、場内は一瞬静まり返り、誰もが拍手も歓声も忘れたかのような沈黙が訪れた。こんな瞬間をライブで味わうことは滅多にない。

 終演後に、この曲の手応えを田中に聞いたら「この時期の空気にハマったんじゃないかな」と言っていた。この曲が生まれた2021年は前述したようにコロナ禍で先の見えない閉塞感に世界が息を潜めていた。今は東欧や中東で続く迷路のような戦いが世界を困惑させている。具体的にそうしたことを描いた曲ではないが、何層にも重なった絵の具のどこかに、そうした色が混じっているのだろう。それを私たちは無意識のうちに見ていたのだ。“神様が匙投げた”世界に私たちは生きている。それを肌で感じた私たちは一瞬だが沈黙するしかなかった。

 そんな空気を動かすように、一息入れた田中が「てな感じで」と軽い調子で話しかけ、「楽しんでいただけてますか。突き落とされたと思ったら、アゲさせていただきます」と笑いを誘った。後半はGRAPEVINEならではのアゲナンバーを揃えた。フランクなイントロになったロックチューン「HOPE(軽め)」のエンディングはThe Beatlesの「Hey Jude」を引用し、ニール・ヤングに触発された西川弘剛(Gt)が曲を書いた「my love, my guy」のラストは“keep on rockin in the free world”と聞こえた。そして「アモーレたちよ」と呼びかけた平成の歌姫へのオマージュを込めた「実はもう熟れ」と捻りの効いた曲を並べた後は、コアファンには人気の高い「ジュブナイル」をバンドらしいアンサブルで聴かせ、「CORE」は重量感のある幻想的な演奏に大きな拍手が送られた。そして本編の締めは「望みの彼方」。新たな気づきを示唆するような3曲が最後を飾ったのは、出口なしに思える世界にも未来はあると示しているようにも思えた。

GRAPEVINE ライブ写真

 アンコールは、本編で翻弄した気持ちをリセットするように「1997」「スロウ」「Arma」とライブでは定番となっている曲を続けてダイナミックな開放感でホールを満たした。こうした定番曲ならば力みなくとも隙のない演奏で高揚させそうなものだが、敢えての画竜点睛とでも言ったらいいのだろうか、きっちり作り上げ切らない面白さといったものを最後に見せてくれた気がする。そうすることで次の色の置き場所を考えているのだろうか。『Circulator』リニューアル版での再発と再現ツアーを告知して「今年はやるで、フジロックも出る」と田中は意欲を示した。冒頭に言った通り「縛りのない」ツアーだけに自分たちを俯瞰するようなセットリストになっていたが、それは思いのほか未来へと続くものになっていた。マイペースというしかない活動を29年続けてきた彼らが進む未来に付き合うのが更に楽しみになってきた。

■リリース情報
Blu-ray / DVD:『GRAPEVINE LIVE 2001 “NAKED FILM” and MORE』
発売日 7月1日(水)
Blu-ray:6,380円(税込)/ DVD:5,830円(税込)
https://record.ponycanyon.co.jp/tags/grapevine-25th/

『Circulator+NAKED SONGS』
発売日 7月1日(水)
CD2枚組 3,850円(税込)
https://record.ponycanyon.co.jp/tags/grapevine-25th/

特装盤BOX(通販限定)
CD+映像作品セット(受注限定生産)
9,900円(税込)
https://record.ponycanyon.co.jp/tags/grapevine-25th/

■ライブ情報
『GRAPEVINE IN A LIFETIME CIRCULATOR tour』
8月1日(土)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
8月2日(日)広島クラブクアトロ
8月8日(土)熊本B.9 V1
8月9日(日)福岡DRUM LOGOS
8月11日(火・祝)松山W studio RED
8月22日(土)京都磔磔
8月23日(日)Live House 浜松 窓枠
8月29日(土)金沢EIGHT HALL
8月30日(日)長野CLUB JUNK BOX
9月6日(日)札幌ペニーレーン24
9月12日(土)新潟LOTS
9月13日(日)仙台Rensa
9月18日(金)東京EX THEATER ROPPONGI
9月19日(土)東京EX THEATER ROPPONGI
9月22日(火・祝)大阪 なんばHatch
9月23日(水・祝)名古屋ダイアモンドホール
https://lit.link/GRAPEVINE

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