歌心りえ×松井五郎、「冬ソナ」から続く20年の絆 日常の尊さ、「しあわせのまわり道」に込めた“人生”を語る

歌心りえが、2ndアルバム『UTA』と『KOKORO』を、それぞれビクターとエイベックスから4月22日に同時リリースした。
両作のリード曲として収録されるのは、松井五郎作詞の新曲「しあわせのまわり道」。September時代から親交を重ねてきた松井が、数々のヒット曲を生み出してきた作詞家としての視点と、長年彼女を見守ってきた眼差しの両方を注ぎ込みながら、“幸せとは何か”をあらためて問い直す一曲だ。そこに描かれているのは、劇的な物語ではなく、喧嘩やすれ違いも含んだ不完全な日常の尊さ。しかも本楽曲は、『UTA』と『KOKORO』で異なる歌い方によって収録されており、同じ言葉、同じメロディが異なる表情を見せている。
今回の対談では、そんな楽曲が生まれるまでのプロセスから、言葉の響きと歌い方の関係、そして歌に宿る人生の時間についてまで、じっくりと語ってもらった。(黒田隆憲)
松井五郎が託した幸せのかたち、生々しさを宿す“歌手”への脱皮
──まずは、お互いの印象についてお聞かせいただけますか?
松井五郎(以下、松井):彼女とは、Septemberでデビューした頃からの付き合いなんです。「冬のソナタ~最初から今まで」(韓国ドラマ『冬のソナタ』主題歌)の日本語詞を書く仕事が最初の出会いでした。2004年だから、もうずいぶん前ですよね。その後も詞を書かせてもらったり、逆に歌を手伝ってもらったりしながら、長く付き合ってきました。だから、彼女がいろいろな経験を重ねて、こうしてまた多くの人の前で歌っている姿を見ると、本当に我が子のような気持ちになるんです。もちろんプロですから、いい時もあれば大変な時もある。そのあたりも見てきたので、こうしてまた彼女に作品を書けるのは本当に嬉しいことでしたね。
歌心りえ(以下、歌心):2004年に「冬のソナタ」の日本語詞を書いていただいて以来、本当に長く見守ってくださったのが松井さんなんです。作詞についてアドバイスをいただく機会もありましたし、折に触れて活動を支えていただいてきました。松井さんの歌詞を読むと、3分、4分、5分の中にひとつの映画があるような感覚を覚えるというか。情景がありありと見えてくるんですよね。そういう言葉を書いてくださる方なので、またご一緒できたらこんなに嬉しいことはないなと思っていました。

──実際に制作が始まってからは、どんなお話をされたんですか?
歌心:制作に入る前、直接お会いしていろいろお話しする機会をいただきました。私に対する世の中のイメージは、バラードやしっとりした歌を歌う“歌心りえ”で定着しているから、そこは壊したいよね、とその時に松井さんがおっしゃってくださって。私も同じようなことを考えていたところだったので、びっくりしました。ただ、その時に「歌い出しを“バカ野郎”から始めるのはどう?」と提案されたんですよ(笑)。
松井:(笑)。
歌心:「それは斬新すぎます!」と返しつつ、今の生活のことや、そこに至るまでのことをいろいろお話しさせていただきました。
松井:ずっと彼女を見てきて思っていたのは、声がきれいで歌が上手いことが、逆にリスクにもなり得るんじゃないか、ということだったんです。最近よく思うんですが、シンガーソングライターと、いわゆる“歌手”は違う。歌手は、他人が書いた物語を役になって歌う人なんですよ。

──なるほど。
松井:だからこそ彼女には、その歌の主人公の生々しさがちゃんと出るかどうかをいつも考えていました。レコーディングでも「もっと下手に歌ってみて」とよく言っていたと思います。今回はソロとして初めて一緒に作る曲でしたし、この数年をどう生きてきたのか、どんな生活をしてきたのか。そういう彼女自身から自然に出てくるものを歌にしたらどうなるんだろう、と思ったんです。
歌心:実際に「しあわせのまわり道」の歌詞が届いた時、〈古着屋〉という言葉も入っていて、「ああ、私のことをいろいろ想像して書いてくださったんだな」と思って、やっぱり松井さんでよかったなと思いました。
松井:そこは、僕が彼女の生活圏のようなものを思い浮かべたんです。銀座や新宿のような都心ではなくて、たとえば小さな路地や老舗のお店がたくさんあって、一本曲がると丸い月が見えるような、生活の匂いを感じさせる街。そういう場所で生きてきた人だと思うんですよね。それを今回の舞台にしようと思いました。
彼女自身を歌詞にする時、「頑張っていれば必ず光が見えてくる」みたいなサクセスストーリーに寄せることもできるとは思うんです。でも僕は、それよりも、朝起きて、顔を洗って、水を飲んで、というような普通のことの中にある実感を伝えたかった。
歌心:サビが〈それがどこにあるか〉と始まるのもいいですよね。タイトルに〈幸せ〉という言葉があるから、〈それ〉が幸せのことだとわかりますし、“幸せを探すそのこと自体が幸せなんだ”というふうに受け取れる。
それに、幸せの形は聴いてくださる方それぞれにあると思うんです。もしかしたら、忘れていたものを思い出すことなのかもしれないし、これから先の未来に思い描くものなのかもしれない。あるいは過去にあったものを、あらためて見つめ直すこともあるかもしれない。そういうふうに、聴いてくださる方が何かを思い返したり、「こういうふうにしていきたいな」と感じたり、そっと寄り添ってくれる歌だなと思いました。
松井:人によっては、苦労している時のほうが、むしろ幸せと感じるかもしれないですよね。でも、それを探したり求めたりしている、その過程こそが幸せなんじゃないか。そういう歌になったんじゃないかなと思っています。
──歌詞には〈喧嘩もしたり/迷子にもなった〉〈ひとりで泣いた/キッチンの隅〉など、関係性の迷いや不完全さも描かれています。
歌心:きっとみんなそうだと思うんです。人間同士ですし、ずっと何の摩擦もなく過ごすほうが少ないんじゃないかなって。そういうことがあるからこそ、一つひとつを乗り越えたり、お互いに消化し合ったりしながら、関係って少しずつ変わっていくのではないかと。
私自身は、怒ることはあっても、いわゆる“喧嘩”はあまりしないんです。私だけがわっとイライラしていて、主人はどーんとしていて、それがまたイライラする、みたいなこともあるんですけど(笑)。でも、そういうのも含めて、その二人ならではのバランスというか。それがちょうどよかったりもするんですよね。
松井:この歌詞の大切な部分は、〈でもあなたはちゃんと/知っててくれた〉というところだと思うんです。上手くいかない二人って、結局お互いが見えていないことが多い。
歌心:ずっと一緒に過ごしていく相手なら、自分のことを知っていてほしいし、こちらも気づいてあげたいと思いますよね。
松井:生活って、本当に些細なことの積み重ねですよね。たとえば靴下を脱ぎっぱなしにするとか、食べ方とか、暮らしてみて初めて気になることってたくさんある。付き合っている時は気にならなかったのに、一緒に生活し始めると引っかかることが出てくる。そういう他愛ないことを「この人はこういう人なんだな」と受け止めて、少しずつ二人の“普通”にしていけるかどうかが、長く続くためのコツなのではないかなと。大きな出来事で壊れるというより、むしろそういう小さなことの積み重ねで上手くいかなくなる気がしますね。
──この曲は、同時リリースされる2枚のアルバム『UTA』と『KOKORO』に、それぞれ歌い方を変えて収録されていますね。
歌心:両方のアルバムのリード曲にするのであれば、それぞれをきちんと別のバージョンとして歌って、お客さんに届けたほうがいいと思ったんです。「UTA ver.」のほうをレコーディングの際、ちょうどこれから歌うというタイミングで松井さんからお電話をいただいて、この歌の雰囲気について改めてお話ししてくださいました。その時に、自分の生活に根ざした曲ではあるけれど、“私そのもの”というよりは、もう少し凛とした大人の女性が歌う感じ、しゃんとしていて少しかっこいい女性のイメージでいこうと思ったんです。
「KOKORO ver.」のほうは、二人で見た夕日だったり、いろんなことを思い出しながら、ふっと微笑んでいるようなイメージです。実際、少し微笑むような気持ちで柔らかく歌ってみました。

──この曲は「いい夫婦の日」の応援ソングにも決まりましたね。
歌心:「いい夫婦の日」と言われると、“いい夫婦でいなきゃいけない”みたいに背負ってしまいそうな感じもあるんですけど(笑)、そこはあまり気負わず、自然体でいいのかなと思っています。
松井:夫婦の形もいろいろありますからね。しょっちゅう喧嘩しているのに、なぜかすごくいい夫婦に見える人たちもいれば、ほとんど会話がないのに、二人のあいだにちゃんと空気がある夫婦もいる。“いい夫婦”の形が決まっているわけではないんじゃないかと思うんです。100人いれば100通りの“いい夫婦”がいる。ある人から見たらひどい夫婦に見えても、当人同士にとってはそれが自然で心地いいこともあるわけですから。
歌心:本当にそうですね。
──MVの感想も聞かせていただけますか?
歌心:監督さんがこの曲を何度も聴いて、いろいろ想像をふくらませながら作ってくださったのが伝わってきました。私が歌うシーンは、昼間の明るい時間帯と、少し夕暮れ時の二つの雰囲気で撮らせていただきました。皆さんがこの曲の世界観にしっかり連れていってくださった気がしていて、すごくいい作品になったなと思っています。



















