時速36km、『ONE PIECE』主題歌と共振したバンドの核心 ゼロ年代の文化を継承して描き出す“未来”

時速36kmが憧れる“ゼロ年代の空気”

ーー『ONE PIECE』の主題歌として書き下ろされた新曲、「その未来」がリリースされます。
仲川:『ONE PIECE』が大好きでほとんど最初に触れた漫画だったところもあって、作りたい曲のイメージがいっぱいありました。その中で絶対外しちゃ嫌だなと思ったのは、たとえば7歳の時の俺が『ONE PIECE』のアニメを見て、エンディングとしてこいつが流れた時に最高! と思えるかどうか。で、その感じを具体的に紐解いていくと、やっぱり『ONE PIECE』はロックバンドが似合う漫画だと思うんですよ。だからロックバンドとしての音、というのは外せないなと思いました。あと、俺がその当時好きだったもの、『ONE PIECE』を通して触れていたものというのは、やっぱりゼロ年代の空気だと思ったんですよね。
ーーゼロ年代のサウンドと言われて浮かぶのは?
オギノ:ニコタッチ(NICO Touches the Walls)、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、バンプ。
仲川:ART-SCHOOLもそうだし、ストレイテナー、LOST IN TIMEも。
オギノ:色んな名前が挙がったよね。ヤバいのだとクラッシュ・イン・アントワープ。
仲川:本当にあの頃に聴いていたやつ全部という感じかも。「その未来」を作る上で1個あったのは、奇を衒いたくないということ。そして奇を衒わないっていうのは我々においてどういうことかというと、今挙げたような真ん中で好きだったゼロ年代のあの感じを出すということ。自然とそこに帰結しましたね。

ーードラムはズシンと重たいサウンドだけど、同時に疾走感がありますね。
松本:仲川からデモが送られてきた時点で、基本のビートは時速でよく叩くようなちょっと跳ねた感じのビートになっていたんですけど。展開によって目まぐるしく変わるような感じにしようと思いました。たとえば1サビが終わった後の2Aのところは露骨に手数が減って、フロアタムを叩いてずっしりしたベースとドラムになるんですよね。ただ、そうやって全体を通していろんな展開が入ってくるんですけど、1個芯が通っているような感じの曲というのはイメージしてましたね。
ーーギターやベースではどんなことを意識しましたか?
石井:ちょっとメタ的な視点になっちゃうんですけど、この曲をタイアップに使っていただけると考えた時に、今までやってきたことの総決算にしたいと思って。ここで初出しです、みたいなことはあんまりしないようにしました。今後自分がギターを弾く上での指針になるようなサウンドで、でもやりたいことはちゃんとやることを意識してましたね。
オギノ:細かいことで言うと、たぶんこの手の疾走感がある曲だとジャズベースでドライブさせて、オーソドックスにかっこいい歪んでいるベースの方がいいかなって最初は思ったんですよ。ただ、下世話な話かもしれないですけど、僕らの楽曲にアニメのタイアップがつくのはこれが初めてなので、恐らくすぐにサブスクのトップに踊り出て、しばらくそこに君臨し続ける曲になるだろうと思ったんですよね。そうなった時に、普通の考え方の音を落とし込んでいいんだっけ? とちょっと思ったんですよ。
ーーなるほど。
オギノ:なので今まで僕が一度も出したことのない音でやりましたね。今僕が言ったようなジャズベースでスムースにちょっとドンシャリでやる、というのとは真逆で録りました。普段使っているベースでミドルに寄せて、ゴリゴリにやって、その上でちゃんとボーカルを立たせつつ、それがいない瞬間では前に出る。曲としては今までの自分たちを継承しなきゃいけないけど、音としては新しいことをやらなきゃいけないと考えました。

ーーオギノさんの頭の中では、シーンや社会の動きに対する駆け引きが繰り広げられているのかなと思いました。
オギノ:そうですね。他3人があんまりそういうことをしないので、必然的に僕がそうなっていると言いますか(笑)。これはバンドをやる秘訣にも直結すると思うんですけど、結局音楽なんて自己満足でやろうとすれば、会社が終わった後に友達とスタジオに入るという素敵な側面があると思うんです。でも、それこそ今回のようにタイアップがついて、レコーディングをちゃんとやるとなった時につきまとうのは、やっぱりお金のこととかシーンのこととか、影響力のことだと思うんですよね。僕はそこに対して目を背けたくもないですし、目を背けてないということを隠す必要もないというか。かっこつけたことを言いたいわけじゃないから、そういうことも意識してやっていきたいです。
ーー「ハロー」の再録も収録されます。以前『ワンピース』の作者・尾田栄一郎も好きな曲に挙げていたことで話題になりましたし、ファンからしたら運命的な2曲になると思います。
オギノ:「ハロー」は一番聴かれてる人気の曲で、ファンの皆さんに思い入れがあると思ったので、編曲で言うとほぼ改変してないです。シンプルに今の僕たちのプレイングとスキルでアップグレードしたらどうなるんだろう、と思って録りました。

ーーリリースされてから6年近く経っています。当時の時速と今の時速、何が一番変わったと思いますか?
オギノ:なんだろうなあ。何が一番変わったかな?
松本:「ハロー」を録った時もそうだけどさ、インディーズ感をこれ以上出さないようにしようみたいなとこは気をつけてなかった? もっと上のステージを見据えなきゃいけないという話をしていた気がします。
オギノ:そうだね。今までやってきたことをやってもしょうがない、というのはみんな思っていて。当時はコロナもあったので4人とも結構がむしゃらで、配信ライブをやらなきゃとか、ライブハウスが使えなくなったからスタジオで練習してとにかく曲を出すとか、先のことなんて全く考えてなかったんですけど。今は4人とも中長期の未来設計を頭の中で持ちながらバンド活動してるという、もしかしたらそこが一番違うことかもしれないです。

ーーそれはこのバンドの調子の良さを感じていたり、自信がついてきたからですか?
オギノ:それは結構仲川に僕らが言っていたことかもしんないっすね。やっぱボーカルで曲を作っているということは、(このバンドの)大黒柱なので。しっかりして!ってここ3、4年くらいずっと言い続けてました。
仲川:元々俺はしっかりしてないし、音楽においては自分が楽しけりゃいいみたいなのがずっとあって。それが今もないとは言い切れないんですけど、だんだん変わっていったのは、やっぱりZepp Shinjukuでやったのがきっかけかな。Zeppって自分が憧れてたバンドがやっていたステージの規模だよなと思った時に、俺これでいいんか? と思ったんですよ。あと、去年の年始ぐらいに我々は結構な喧嘩をしまして。今思えば次のステージに進むための成長痛のようなものなんですけど、これからどうする? みたいな話がどんどん発展していって、もうやめるとかやめないとか、こいついんだったら嫌だとか、そういうところまでいったんですよね。もし何個か世界線があったら、ほとんどの世界線でこのバンドは終わっていたかもしれない。でも、結局手を取り合う道を選んだわけだし、その手を取らせたのは俺だって考えた時に、「ボーカルなんだからさ」みたいな言葉の意味が嫌でも腑に落ちてしまったというか。5年後、10年後にこのバンドがどうなっているのかとか、バンドを生き残らせるためにはどうするのか、みたいな視点が加わったところはあるかもしれないです。



















