バッド・バニー初来日公演を完全レポート 地元を愛してやまない世界の友人が証明した、“音楽は言葉の壁を超える”ということ
2月に開催された『第68回グラミー賞』での「最優秀アルバム部門」獲得を含む大健闘に、歴代4位の視聴者数を記録したスーパーボウル・ハーフタイムショーの歴史的パフォーマンス。2020年代におけるポップシーンの最重要人物であるバッド・バニーが、かつてないほどの勢いを胸に、ついにこの日本へとやってきた。
2026年3月7日、TIPSTAR DOME CHIBA。今回の来日公演は、Spotifyが主催する『Billions Club Live』の一環として行われたもので、過去にはエド・シーラン、マイリー・サイラス、ザ・ウィークエンドといったトップアーティストが出演し、世界各地で公演を行ってきた。「Billions」とあるように、本シリーズの主旨は、Spotifyで10億再生を突破した特大級のヒット曲の数々とアーティスト自身の快挙を祝うことにある。本稿執筆時点でバッド・バニーが持つ「Billions」は29曲に及び、まだまだ増えている真っ最中だ。会場には、10億再生を突破した楽曲に贈られるプレートが壁一面にびっしりと並べられており、その破格の成功ぶりを改めて証明していた。
現在は、最新作『Debí Tirar Más Fotos』に伴うワールドツアー中のバッド・バニーだが、今回はあくまで『Billions Club Live』での来日ということで、「Billions」のみに絞った特別なセットリストによる公演となった。会場には、招待されたSpotifyのトップリスナーと、BLACKPINKのLISAや村上隆といったVIPゲストによる、総勢約2,300人のオーディエンスが集結。
だが、現在の活躍ぶりを見れば、これがいかにプレミアムな公演なのかが分かるだろう。貴重な瞬間を噛み締めるかのように、集まった観客たちは、次々と放たれる怒涛のメガヒットに対して、喜びと興奮に満ちた大合唱と大量の「Benito!」コール(バッド・バニーの本名/ベニート・アントニオ・マルティネス・オカシオ)で応えた。
バッド・バニーがついにステージへ、観客に向け続けたまっすぐな眼差し
定刻を少し過ぎた頃、照明が暗転し、尺八の音色をバックに次々とダンサーがステージへとやってくる。いったい、どのようにこの日のステージを始めるのだろう、と興味津々の観客たちの目の前に現れたのは、スーツ姿の日本人男性だった。意外な展開も相まって一身に注目を集めた彼は、一呼吸置いてマイクに向けて思いっきり叫ぶ。
「Acho, PR es otra cosa!!」(なあ、プエルトリコはレベルが違うんだぜ!)
粋なサプライズに驚いていると、すぐさま「EoO」の強靭なレゲトンのビートが投下され、ステージからは大量のレーザーと炎が放たれる。一瞬でピークに突入したかと思えば、この日の主役であるバッド・バニーがついに現れ、ダンサーと華麗にステップを刻みながら、見事なフロウで会場全体を掌握する。この一瞬だけでも「今日はとんでもないことになるぞ」と確信するには充分だった。
バッド・バニー本人がもたらすスター性はもちろんだが、音の破壊力にも圧倒される。今やラテン界きってのスーパープロデューサーとなったタイニー(現在開催中のWBCの公式サントラも担当。同作で藤井 風とのコラボも実現した)らが手掛けたトラックのフロアキラーぶりといったら相当なもので、鋭利なビートと地を這いながらうねるベースラインが直接腰へと突き刺さるかのように響き、有無を言わさず揺らしていく。初めて聴いた時にも度肝を抜かれた楽曲だったが、実際のフロアで大音量で浴びた瞬間の興奮といったら、まさしく“レベルが違う”。
さらに、「Me Porto Bonito」や「No Me Conoce - Remix」(JHAYCO, J Balvin & Bad Bunny名義)、「Efecto」と新旧のヒット曲が次々と放たれ、上質なメロディとともに、会場全体に包容力に満ちた至高の歌声が響く。バッド・バニーといえばキャリアの初期からアグレッシブなダンスチューンと、うっとりするようなロマンティックな楽曲の両面でファンを魅了してきたアーティストだが、ライブの序盤からその魅力を存分に味わわせてくれる。大合唱で応える観客に、バッド・バニー本人も「¡Se siente la energía! ¡Se siente el efecto de estar por primera vez en Japón!(エネルギーを感じるよ!ついに日本に来たんだって実感してる!)」と喜びを噛み締めているように見えた。
そうして踊りながらパフォーマンスを楽しんでいると、どの楽曲でも常に目の前にいる観客一人ひとりに語りかけるように歌うバッド・バニーの姿が目に留まる。近年のポップアーティストのライブでは、あらかじめ決められたフォーメーションに基づいてパフォーマンスが続くことが珍しくない(観客よりもモニター用のカメラを意識する場面も多い)。だが、この日のバッド・バニーは花道からほとんど戻ることなく、まるでこの場にいる全員とコミュニケーションをしようとしているかのように忙しなく動き回りながら、まっすぐな眼差しで歌い続けていた。
Jowell & Randyがサプライズ登場 歴史に裏打ちされたレゲトンの凄み
近年の躍進も相まって、日本国内から客観的に見ていると、バッド・バニーといえば何かとコンシャスな文脈で語られることが多く、ある意味では敷居の高さを感じさせるようなアーティストとして捉えられているように感じられることが少なくない。だが、(長らくインターネット越しに活躍する姿を見つめていた)筆者個人としては、それ以上に「情熱的で、誰よりも地元・プエルトリコを愛してやまない、みんなの友だち」という感覚を抱いていた。言語も文化も異なる国で真摯に歌い続けるその姿は、そうした印象を裏付けるには十分すぎるほどだった。
コミュニケーションと言えば、踊ることもその一つだ。続く「Neverita」、さらに原曲をアップリフティングな4つ打ちのビートへとリミックスした「Si Veo a Tu Mamá」から最新作の人気曲「Tití Me Preguntó」へと繋ぐ流れでは、フロアの貪欲なダンスの渇望を満たし、アグレッシブに踊るダンサーとともに、さらなる一体感を生み出していく(「Si Veo~」では、ステージ上の全員で肩を組んで歌うという微笑ましい場面も)。
なかでも屈指の盛り上がりを生んだのは、2020年の出世作『YHLQMDLG』に収録されたキラーチューン「Safaera」だ。サプライズで登場したゼロ年代のレジェンドデュオ Jowell & Randyがステージに合流すると、観客が驚く間もなく、寸分の狂いもない見事なマイクリレーでフロアを盛大にブチ上げる。ここではバッド・バニーもクルーの一員となって縦横無尽にステージを駆け抜け、まるでクラブのピークタイムを5分間に圧縮したかのような壮絶なトラックを乗り回しながら、マイクを片手にありったけのガソリンを注ぐ。まだまだ寒さの残る季節ではあるが、これまで味わったことのないような圧倒的なエネルギーを浴びて、思わずコートを投げ出して踊り狂いたくなってしまう。歴史に裏打ちされたレゲトンの凄みを見せつけたレジェンドは、スペイン語と日本語の両方で観客への感謝を告げ、鮮やかにステージから立ち去っていった。