SHE'S、今新たな地平へ! 3年ぶり対バンツアー最終公演レポ――NELKEと通ずる信念、奏でた調和の音楽
SHE'Sが3年ぶりに対バンツアー『SHE'S UNION TOUR 2026』を開催した。“UNION”=“団結/調和”をテーマに掲げ不定期で行われてきた同ツアー。今回は名古屋はレトロリロン、大阪はねぐせ。、東京にNELKEというアップカミングな次世代が揃い、加えてレトロリロンとNELKEは鍵盤のメンバーも擁するというSHE'Sとの共通点もあり、それらが見どころになった印象だ。ここではツアーファイナルの3月2日、Zepp Shinjuku (TOKYO)公演をレポートする。
今、ライブシーンで存在感を高めるNELKE。シンガーソングライターだったRIRIKO(Vo/Gt)をサポートする形でそれぞれの活動を行っていたメンバーが集まり、いわばセカンドキャリアとしてスタートした経緯を持つバンドだ。SHE'Sの井上竜馬(Vo/Pf)がMCで話していたが、諦めずに音楽を作り続ける姿勢に共感したことや昨年の新宿LOFTのイベント『ATTACK FROM LIVEHOUSE』を経て今回の対バンに繋がったのだという。
メンバー登場時の歓声の大きさに期待値の高さを見せたNELKE。ストリングスのSEにRIRIKOの柔らかな声が乗る「裂いて」を1曲目にセットし、続けて「花図鑑」と、繊細さとソリッドが共存するバンドの持ち味を提示する。すかさずダークポップとエレクトロスウィングを生バンドで解釈したニュアンスの「punk town」でギアアップし、ツインギターが鋭角に交差する「バイバイアクター」や「ステレオタイプヒロイック」では、一期一会のオーディエンスに何か痕跡を残すべく、RIRIKOがパフォーマンスの枠を超えた危なっかしくも見えるアクションでフロアを煽る。ピアノがクラシカルかつボカロ曲的でもある「カレンデュラ」までほぼノンストップで走り抜き、現在進行形の日本のロック/ポップとRIRIKOのジャンルをはみ出すキャラクターのアンバランスから目が離せなくなる。
一転、ピアノ伴奏の歌い出しでそれまでの景色を変える「忘れないよ」。楽しい思い出とも違う、生きていくうえで忘れたくない記憶が荒い息混じりのボーカルに乗っていく。そこから前置きなくSHE'Sの「追い風」のカバーへ。彼らなりのライブアレンジで鳴らし、イントロでフロアが少し湧き立った。1番のみの演奏だったが、あたたかいリアクションを受けてピアノロックナンバー「春か未来」へといい流れを作った。大人になってから結成したがゆえに先輩と言えるバンドがいないなか、SHE'Sとの出会いと音楽はNELKEに大きな影響を与えている――そう語るRIRIKO。「挫折を経験したことのある人の歌」と、ラストにこのバンドを始めた意義が詰まった「Incarnation」を演奏し、〈花は散ったとて 咲ける〉というフレーズが、諦めきれない何かを抱えた人すべてに届くように響いた。
エモーショナルかつテクニカルな側面も持つ、いわば邦ロック最前線的なNELKEのライブを受けて、SHE'Sの楽曲がどう響くのだろう? という新鮮な心持ちで登場を待つ。いつものSEに乗って現れたメンバーの様子はいつもと変わりないが、スターターの「Raided」から選び抜いた音と演奏のすべてが非常にタイトだ。前回がホールでの管弦楽との『Sinfonia “Chronicle” #4』だったこととの対比もあるが、ライブハウスのソリッドな音像とメンバー4人の楽器の抜き差しが明確に見えることも楽曲のスリルを加速。特に、抑制は効きつつもフックのある広瀬臣吾(Ba)のベースフレーズを目と耳で追えるのもこの距離感の醍醐味だし、ケレン味たっぷりの井上のパフォーマンスもエナジーに満ちている。
何度もライブで披露されてきた「Masquerade」も、服部栞汰(Gt)のアコギカッティングの粒度の細かさに瞠目したし、早くもシンガロングが起きている。曲間すらも曲であるかのように、どんどん演奏を繰り出していくバンドの筋力。お馴染みのSEに「本家がきた!」とばかりにフロアが色めく「追い風」では、井上のピアノリフが存在感を示す。サビで井上がフロアにマイクを向けると序盤と思えないほど大きな声が集まった。冒頭の2曲にも連なるイメージの「Ugly」は、この曲で歌われている唾棄すべき対象がリアルに浮かぶほどで、それは井上の感情が乗っている証拠だろう。シニシズムじゃなく真っ当な怒りが呼び起こされたのち、どんな状況下でも決して失われない記憶について歌われる「If」が続くことで、喜怒哀楽の芯にある部分に触れた気持ちになる。井上のボーカルは絶好調で、「If」のロングトーンはこの歌の純度に強さの翼を与えていた。
NELKEの「追い風」カバーにメンバー一同感銘を受けたようで、井上は「(曲を)あげる」と笑わせつつ、真面目な話としては前出の新宿LOFTでの対バン以前から「Incarnation」をサブスクのお気に入りに登録していたのだという。NELKEはSHE'Sを先輩扱いするものの、井上自身は「音楽に対するスタンスが共通していればいい」と言う。しかし、真面目なトーンから、NELKEの楽曲がさまざまなアニメのテーマにハマりそうだと話は脱線していく。
そして、サラッと「新曲やります」とだけ告げて、アメリカンロックとポップソウルの滋味を足して2で割り切れない、そんな絶妙な黄金比の「Good Life」を披露。従来にない新鮮さがバンドの好況や井上のソングライティングの上向きさを予感させた。いつかの時代のアメリカやバンドでの旅するイメージが続く「ミッドナイトワゴン」に、あまりにもいい繋がりを生み出す。この曲もライブで定番のイメージだが、服部のアコギリフが生み出すグルーヴ、木村雅人(Dr)の抑えたキックや、曲が進行していくなかでドラマ性を生み出すタッチの変化にリンクするように上がった照明の演出も素晴らしかった。その明度のなかで響く「Letter」にこれまでにない温かさを感じたのは、バンドのストーリーとして聴こえる流れだったからかもしれない。バンドらしさが明快に表現されたエモ/ギターロックチューン「Kick Out」では、井上のレスポールがクランチな厚みを、服部のフルアコが瑞々しさを表す。「1時間ほどのセットリストにバンドの全方位を詰め込む勢いじゃないか?」と思う間もなく「Dance With Me」まで投入し、フロアのクラップもシンガロングもどんどんボリュームアップしていく。ハンドマイクでの自由度もそうだが、この曲でピアノを弾く井上はジェリー・リー・ルイスのごとき、ロックンロールのスタイルだった。
束の間、「で、アニメの話やねんけど――」と感動的なムードをぶち壊し(?)にくる井上。今度はNELKEの複雑な楽曲構造に話がおよび、SHE'Sメンバーには「無理」という結論に。音楽が大好きでライブが楽しそう、その共通点があれば十分なのだ。本編ラストはNELKEがラストに「Incarnation」を演奏したことともリンクするように、SHE'Sからも楽曲を通してメッセージが送られる。「『ただ続けることに意味はあるのか?』、そう言われたら終わりですけど、意味があるんじゃないのかと思う」――そんな言葉が添えられた「Your Song」は、これまで井上個人のヘヴィネスを纏っていた印象から、バンドから風を送られている実感に変化していた。〈たった1人だとしても/僕らの好きな歌を 口ずさんでいこう〉。このフレーズがこの日にハマりすぎているのもそうだし、過去最高に開かれたトーンで響いたのだ。
アンコールに迎えられたメンバーは、『UNION TOUR』恒例のゲストバンドとのコラボを行う。RIRIKOを招き入れて、井上が独断で決めたという「Happy Ending」を交互にボーカルを取って披露してくれたのだが、ほかのボーカリストが歌うことで、井上が書く洋楽的なメロディがより際立っていく。ラストに選ばれた、音像でも演奏でも開けた空を響かせる「Blue Thermal」が今のSHE'Sに溢れる前向さを象徴していた。
なお、3月4日にリリースされた「Good Life」はドラマ『ぴーすおぶせーふ』(日本テレビ系)オープニングへの書き下ろし新曲。4月にビルボードライブ横浜とビルボードライブ大阪で開催される『SHE'S in Billboard Live』に加えて、15周年記念公演『SHE'S 15h Anniversary "She'll be fine"』も行われ、東京は10年前にメジャーデビューを発表した会場である渋谷クラブクアトロ、大阪は大阪城音楽堂で開催する。
■SHE'S セットリスト
01. Raided
02. Masquerade
03. 追い風
04. Ugly
05. If
06. Good Life
07. ミッドナイトワゴン
08. Letter
09. Kick Out
10. Dance With Me
11. Your Song
EN01. Happy Ending
EN02. Blue Thermal