「なきごとであり続けることを選びたい」ーー水上えみり、新体制となって守り抜く居場所 創意工夫から生まれる“革命”とは
なきごとの新曲「甘々吟味」は、どう足掻いても不安がつきまとう人生に、先行きが見えない今この時代に、楽しむこと・創造することこそが最大の“革命”だということを思い出させてくれる1曲だ。口当たりは甘い、けれど後味のように残るほろ苦さーーGlico「ポッキー」CMキャンペーンソングとして書き下ろされた「甘々吟味」は、まさに〈ビタースイート〉な人生と向き合い、受け入れ、それでも前へ進んで行こうと我々に投げかける。そんな新曲を、今のなきごとから聴けることは心から嬉しい。
2025年はなきごとにとって大きな転機となった。1st EP『マジックアワー』でメジャーデビューを果たし、ドラマ・アニメへのタイアップ曲を次々書き下ろしていった一方、「ポッキー」のテレビCM(「ポッキーの革命」篇)にも出演、夏には全国ツアーも開催して各地に充実したなきごとの音楽を届けていった。そんな矢先、二人三脚で歩んできたギタリストの岡田安未が2025年末をもって卒業することを発表。2026年から、新体制なきごととして再出発することになった。そして、(水上&岡田体制で制作された曲ではあるが)新体制後の第一弾となる新曲「甘々吟味」が1月にリリースされたという流れである。
本稿は、そんな折に1月に行ったインタビューだが、後ろ向きな言葉ではなく、何よりも今こそなきごとでありたい、なきごとのリスナーに応えたいという迷いのない確信を、水上えみり(Vo/Gt)自身の言葉で聞くことができた。新体制としての心境、何度も考えて向き合ったという「甘々吟味」の制作、そして、なきごととは何を届けるバンドなのか。じっくり語ってくれた水上の想いに、そっと心を委ねて読んでほしい。(信太卓実)
「言い続けてきた言葉を嘘にしてしまうのが嫌だった」
ーー昨年末に岡田さんが卒業されて、新体制でのなきごとが動き出しましたが、率直にどんな心境ですか。
水上えみり(以下、水上):新体制としての準備を着々と進めているところなんですけど、いい意味で今までやってこなかったことができる気がしていて。“真面目にふざける”というか、こういうの面白いかなって思ったアイデアを「やってみてもいいんじゃない?」ぐらいの温度感じゃなくて、「それ面白いね! やってみようよ!」と言って、チームで話し合いながらポジティブに形にすることができそうだなと思ってます。
ーーすでにアイデアもあるんでしょうか。
水上:ライブで『リズム天国』みたいなことがしたいなって考えていたりとか(笑)。“初心にかえる”じゃないですけど、よりよくしていくために肩の力を抜きながら好きなことと向き合って、初めてバンドをやった高校生の時と近いような感覚になってきています。
ーーいいですね。岡田さんの卒業発表時の公式コメント(※)でも丁寧に述べられていましたけど、なきごとが水上さんのソロ体制になることを受け止めた時はどんな気持ちでした?
水上:嘘がないように赤裸々に書いたので、本当にその通りという感じです。人生の3分の1ぐらいを岡田と一緒に過ごしたがゆえに、寂しさは強くあったんですけど…………でも、人生って混ざり合ってるように見えて、ただ重なってるだけだなって私は思っているんです。だから「こっちの道に行ってみるね」「じゃあ私はあっちの道でやるね」みたいな感覚なのかなって。まあ猫みたいな人だったんで(笑)、理由がどうあれ、いつかはこういう日も来るだろうなとは思っていました。岡田もこれからのなきごとがどうなっていくのか楽しみだってポジティブに書いてくれたからこそ、やっぱり今は前を向いて進んでいくことが大切かなって。
ーー水上さんのコメントに「いつかこういう日も来るかも、のいつかが来た」と書かれていましたけど、それでも続けられるなきごとでありたいと思えたのは、どうしてなんでしょう?
水上:1回解散しようかなとも考えたんですけど、改めて、自分がなきごとで作ってきた楽曲がとても好きだなってことも思い直して。その曲たちが過去のものになって、どんどん埃が被っていってしまうことが嫌だなと思ったのはすごく大きいですね。あとは今のチームが解散して、私1人でまた誰か新しいチームを見つけるっていう発想もなくて。それもなきごとを継続してきた大きな理由だったんだなって気づきました。作ってきたものが好きで、支えてくれてるチームがいて。音楽を続けるならなきごとじゃないと意味がなかったし、ライブで言い続けてきた「あなたの居場所でありたい」「ライブハウスでずっと待ってる」っていう言葉を、なきごとを終わらせることによって嘘にしてしまうのも嫌だったので。なきごとだから寄り添えていた部分、なきごとだからみんなが選んでくれた部分があるからこそ、見せる光景が少し変わってしまったとしても、なきごとであり続けることを選びたいなと思いました。
ーーなるほど。
水上:……なんか、似てるけど“悲しい”と“寂しい”はちょっと違うものだと思っていて。前向きな卒業だったからこそ、悲しいよりも寂しいっていうほうが私の感覚に近いんです。声が出なくなったりして、物理的にステージに立てなくなったら悲しいことだと思うけど、“寂しさ”にはもっと愛があるというか。きっと岡田本人も寂しい気持ちが強いんじゃないかなって思います。もし今回の出来事で抱いた感情にまだ名前がついてないファンの人がいるなら、それは“寂しい”かもしれないよっていうのは伝えたいですね。
これから、だんだん岡田の音がなくなっていく曲がリリースされるのって寂しいと思うんですけど、それ以上に「え、今こんなかっこいいことやってるの!?」というのが上回れるように頑張りたいです。ポップだけど実は泣き所があって「必要としてた歌詞ってこういうものだったんだ」と思ってもらえるような曲を作りたいし、ロックな曲だったら「この轟音が私の涙を隠してくれるな」と思ってもらえるような音をなきごとで出せていたらいいなって思います。
ーー思えば、そうやっていろんな鍵を一つひとつ開けていったのが、なきごとの7年間だったのかもしれないですね。
水上:そうかもしれないです。ずっと地続きで、軸や芯はあまり変わってないと思ってるんですけど、20歳過ぎからやってきたからこそ、これまでの7年間って、この先の7年間よりも人として大きく変わっていく時期だったと思うんですよ。自分の足りなかった部分をどんどん補いたいと思ってやってきたし、「これは言ったらダメだ」「ここまで言わないと伝わらないな」とか、そういうことも考えながら生きてきた7年だったから。なきごとをやってこれたからそこに向き合えたと思いますし、なきごとに育ててもらって、自分自身もなきごとを育てようと思いながらやってこれました。めっちゃ人生ですね。
「私自身がライブハウスは居場所だと思ってることにも気づいた」
ーーメジャーデビューもあれば、メンバー卒業もあり、いろんなことが重なった2025年は1つの節目でもあったと思いますが、7年間を振り返る機会にもなったんじゃないでしょうか。
水上:本当に振り返るきっかけになったなと思います。やっぱり、自分だけの泣き言だと思っていたことが実は誰かの泣き言でもあったというのは、今でも私の中で衝撃的なんですよね。そこに今一度立ち返ってみると、綺麗なもので着飾るよりも、自分の素直な本音をもっと入れてもいいのかなって、昨年末ぐらいから結構考えてました。
ーーというと?
水上:なきごとを組んだ経緯的にも、前身バンドで一度、私以外のメンバーが全員抜けることになって、1人になる時に弾き語りでCDを作ろうと思っていた作品のタイトルが「なきごと」だったんですよね。私の泣き言を詰め込んだ1枚を作ろうと思って。そしたら岡田が帰ってきてくれて、ならば1から新しくやろうと言って組んだのがなきごとなんです。だから誰かに寄り添うバンドでありたいっていうコンセプトはありつつ、その核にはやっぱり私自身の泣き言を曲にしている節があって。当時は憎しみすらも落とし込んで、すごく荒削りだったなと思いますけど、「今だったらこういう言葉は使わないな」って思うところとも今一度向き合って、新しく作る曲たちにも使ったりと攻めていきたいなと考えているところです。
ーーいいですね。そうやって閉じていた初期のなきごとと比べて、新曲「甘々吟味」や直近の楽曲ではまた違う側面を見せられるようになったと思いますが、あえて言うなら何か変わるきっかけはありました?
水上:どうですかね……それこそ活動を振り返った時に、なきごとで最初に作った曲って「ドリー」と「メトロポリタン」なんですけど、その時点ですでに2軸に分かれていたんですよ。
ーー確かに!
水上:とはいえ初期のなきごとのコンセプトはすべてダークだったし、そういった一貫性は当時のほうが強かったなって。そう思うと、私の中では初めてのワンマンライブがすごく大きかったんです。どういう人がなきごとを聴いているのかが目に見えてわかったし、やっぱり目の前にいる人の感情って大きく見えるので、コロナ禍を経て「それでも来てくれてる“あなた”と一緒にライブを作りたい」っていう気持ちにどんどん変わっていったのは確かで。家で聴いてくれてるリスナーの気持ちはコメントをもらえないとどうしてもわからない……だけど、その人たちも置いていかない曲があったりするから、部屋の片隅で小さくなってる人にもちゃんと届けたいっていう気持ちも間違いなく意識し続けてきたところです。なので今回の「甘々吟味」は高校時代が題材になってるんですけど、いい思い出を入れつつ、不登校で学校に行けなかった時期もあったから、当時のことをちゃんと歌詞に織り交ぜたいなって。楽しいだけじゃなくて、酸いも甘いもあるよねっていうあの頃を形にしたかったので、同じようにもがいている子たちに潜在的にでも届いたらいいなと思ってます。
ーーそれはなきごとを辞めなかった理由とも直結しそうですね。
水上:そうですね。無理にならない程度に手を引っ張れる存在であれたらいいなと思います。ずっと家から出られなかったけど、ライブハウスに行くことがきっかけで家から出られたならすごく嬉しいし、だからこそ、なきごとがライブをやってる時は「ここがあなたの居場所であってほしい」と思っていて。あとはやっぱり、私自身がライブハウスは居場所だと思ってるんだなってことにもあの文章(※)を書いてた時に気づきました。そうやって誰かにとって「居場所だ」って思ってほしいからこそ、あの空間をなくしたくない。活休も挟まずにツアーをやるのは、そういった面が濃いのかなって思いますね。
ーーその話を聞けて、続けてくれて本当に嬉しいなと思いました!
水上:ありがとうございます……!