Fire EX.主催フェス『FireBall Fest. 火球祭』 野球愛と『AIR JAM』リスペクトから生まれた台湾の“Wonderland”
土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.21
2025年11月22・23日に、台湾の4人組バンド・Fire EX.が主催するフェス『FireBall Fest. 火球祭』に初めて行ってきました。今回はFire EX.のSam(楊大正/Vo/gt)さんへのインタビュー内容も交えてお届けします。
メリーゴーラウンドからチアリーダー登場まで…“Wonderland”を目指したフェス
会場は、台北市のお隣、桃園国際空港がある桃園市・楽天桃園野球場。到着してまず目に入るゲート前のポールに、出演アーティストたちのフラッグが! もうそれだけでめちゃくちゃテンションが上がるのです。かわいいロッキンなデザインは、全て、日本のイラストレーター・TM paintのイラストで統一されていて、球場内の世界観の作り込みがバッチリ! オフィシャルグッズも独特で、缶ビールのデザインもフェスオリジナルだし、なんとTENGAがスポンサーで、オリジナルデザインのTENGAが販売されていました(笑)。
土井:このフェスには「『ROCKIN’ WONDERLAND』というサブタイトルがついています。まさにワンダーランドでした!どんな思いが込められているのですか?
Sam:私がとても好きな曲に「Winter Wonderland」という、クリスマスシーズンによく流れるジャズの楽曲があります。“Wonderland” という言葉には、とても美しくて、幸せに満ちた場所というイメージがあり、私はこの言葉がとても好きなんです。『FIREBALL Fest.』は、ロックミュージックを愛するすべての人たちのためのフェスであり、来てくれた人にとって“Wonderland”のような場所であってほしいと思っています。2024年からこのサブタイトルを使い始めましたが、今振り返ってもとても的確だったと感じています。
初開催の頃からメリーゴーラウンドを設置し、その後は海賊船などのアトラクションも追加。屋台やコンテンツもどんどん充実させてきました。来場者の皆さんに、まるで遊園地や縁日のような感覚で楽しんでもらえたら、という思いがありました。会場のさまざまな場所に小さなサプライズを散りばめて、歩きながら「ふふっ」と笑顔になれる瞬間をたくさん見つけてもらえたら嬉しいですね。ハード面の演出も含めて、遊園地のような雰囲気、そして幸せで楽しい空気感を大切にしています。大切な人と一緒に過ごす、幸せなWonderland。そんな時間と気持ちを、来場者の皆さんに届けたいと思っています。
もちろん肝心のステージもとても見やすくて、グラウンド内に2つ横並びに配置されています。順に演奏が繰り広げられ、球場のスタンド席から両方のステージがしっかり見えます。もちろんグラウンドに簡単に降りられるので、ステージ前でスタンディングで楽しむのも自由。行ったり来たり自分のペースで楽しむための心遣いが素晴らしいなと思いました。
球場の外もお楽しみがいっぱい。フリーエリアにステージが2つ。マーケットゾーンも大きくて、飲食店と雑貨店がたくさん。さらにはネイルやピアスやタトゥーのショップもあって、シールでしょ? と思ったら、ちゃんと彫ってた! びっくり。フェスでパッと彫るくらいカジュアルなファッションなんですね、きっと。私は勇気が出なかったです。飲食ブースで大根餅とパフェをゲット。フェスで大根餅なんて、めちゃ台湾、なんてヘルシー。これがまた本当に美味しかったです。日本のアーティストが多いからか、お好み焼きなど日本メニューも多かったです。
ロックミュージックと野球がクロスオーバーするフェスでありたい
印象深かったのはファミリーで参加しているお客さんへの配慮が多かったこと。人生において音楽を卒業しなきゃいけないなんて寂しい。学生の頃結成されたFire EX.と一緒に25年、歳を重ねてきたファンの皆さんが、親になっても音楽を卒業せずに子供も一緒にずっと楽しめるように用意されていることが多いこと。巨大なブランコがグラウンドに設置されていたり、子供向けケーブルテレビの「歌のお兄さんお姉さん」的なグループ、YOYO家族藝人が登場して、歌と踊りを披露。これに子供だけじゃなくてパンクキッズたちもめちゃくちゃ盛り上がって踊っていて驚きました。みんなかわいい! さらには、この球場がホームのプロ野球チーム・楽天モンキーズのチアリーダーも登場してパフォーマンス。私は知らなかったのだけど、台湾はプロ野球がとても人気で、チアリーダーたちはアイドルグループとしてデビューするほど人気なのだそうです。ということで、やはりこのパフォーマンスタイムも大盛り上がり。応援ソングだと思われる楽曲で、みんな同じ振り付けで踊ってハッスルしてました。
土井:これだけ過ごしやすい会場を実現するには、調整が大変だったのでは?
Sam:2019年が初開催(野球場での開催はこの年が初めて)で、次が2023年でしたが、その間に4年空いてしまい、2023年は正直かなり大変でした。スタッフが入れ替わったり、会場条件も変わっていたりして、ほぼ新しいイベントを一から作り直すような感覚でした。ただ、2023年から2025年まで3年連続で同じ場所で開催できていることで、会場や現実的な条件も安定し、基礎的な運営ノウハウがどんどん蓄積されてきています。2023年以降は、来場者の声をしっかり聞きながら、「体験として足りなかった部分」を改善することにとても力を入れてきました。ひとつ心残りだったのは、今年こそオンラインオーダーシステムを実現したかったことです。ライブを観ながら、長時間並ばずに飲食や物販を注文できる仕組みを目指していました。ただ、この規模の人流に対応できる技術は、台湾ではまだ実用化された前例がなく、今回は実現できませんでした。とても悔しいですが、技術会社と引き続きトライを重ねて、近い将来必ず形にしたいと思っています。
土井:プロ野球の選手が登場したり、チアリーダーが登場したり、野球にちなんだコンテンツが多いのはなぜですか?
Sam:主催のFire EX.は、もともと大の野球好きなバンドです。楽天桃園棒球場を使わせていただけているのも、長年野球ファンとして楽天モンキーズを応援してきた関係があるからです。そうした背景もあり、私たちはこの会場でコンサートを行った最初のバンドになりました。ここは、ある意味「自分たちのホームグラウンド」のような存在です。野球との距離がとても近いからこそ、キュレーションの段階でも自然と野球の要素を取り入れたいと考えましたし、プロ野球の球場で行うイベントとして、とても自然な流れだと思っています。『FIREBALL Fest.』は、ロックミュージックと野球がクロスオーバーするフェスでありたい。音楽だけでなく、台湾の野球文化そのものも、もっと応援される存在であってほしいと思っています。
2日目の大トリのFire EX.のシークレットゲストがまさかの野球選手でびっくり。林智勝という引退したばかりのスター選手だそう。野球のお決まりの応援スタイルで、会場中が大熱狂でした。ロックフェスの最後にまさかのコンテンツでもうひと盛り上がり。やりすぎではないかと思うほどの花火も上がり、大団円でした。そしてその翌日、11月24日に公開になったのが、昨年『WBSCプレミア12』で優勝した台湾チームのドキュメンタリー映画『冠軍之路』の主題歌、Fire EX.「今天的我」。MVも感動してしまう。