ナズ&DJプレミア、“音楽中毒者”がコラボアルバム『Light-Years』で祝福するヒップホップカルチャー
「いつもこうやって話すんだ。『このRun-DMCのビデオを観たか?』『このジャケット、覚えてる?』『このライムを覚えているか?』「アルバムのアートワーク、それに描かれたグラフィティは覚えてる?』『初めて聴いたときのこと、覚えてる?」ってね。俺たちはいつも過去を振り返って、好きなことや人生について、そして人生を通じてどうやって音楽と向き合ってきたかを話しているんだ。それが曲に反映されていると思う。たぶん、そういう感じだったんだと思う。だって、それが俺たちの本質だから。俺たちはジャンキーなんだ」(ナズ/※1)
ヒップホップレーベル・Mass Appealが行ったベテランアーティストの作品を連続リリースするプロジェクト「Legend Has It...」の一環として、昨年末にリリースされたのがナズ&DJプレミアによるコラボアルバム『Light-Years』だ。近年、プロデューサーのヒット・ボーイと『King's Disease』『Magic』というふたつの三部作アルバムを同時進行的に制作してきたナズと、ロック・マルシアーノやランサムとのコラボアルバムの記憶も新しいDJプレミア。直近精力的に活動してきたふたりが、再び手を取り合いひとつのアルバムを完成させた。ハングリー精神は健在だ。
結論から言うと『Light-Years』は、ヒップホップのカルチャーそのものを祝福するようなレコードになっている。産業として膨れ上がり、資本主義に満たされたヒップホップの“ストリートカルチャー”としての側面を再び我々に釘打ちしながら、現在のシーンのあり方も同時に肯定する。巧妙な比喩表現とレトリックを操るナズのラップと、彼の言葉を際立たせる形で酩酊的なループとざらついた音のテクスチャーを作り上げたDJプレミアのサウンド。その明細さと的確さは、現在においても色褪せない。
たとえば、「Welcome To The Underground」では、NWA「Fuck The Police」におけるアイス・キューブのラインを引用しながら、我々を地下の世界に誘う。地下室でうごめくネズミやシロアリに比喩しながら、自らがストリートの猥雑さと緊張感から出てきた人間であること、そして、そういった環境から音楽が生み出されていく様子を巧みに捉えていく。「Writers」では、ヒップホップの歴史において極めて重要なグラフィティにスポットを当て、グラフィティライターを数多くネームドロップする。光が当たりづらい場所にスポットを向けたことは、本作の重要な側面だろう。今やストリートの視点を欠いた形で、商業的な側面が外野から注目されやすくもなったヒップホップのカルチャーを支えてきたものにこそルーツを置き、リスペクトを捧げるのだ。
「NY State Of Mind Pt. 3」や「3rd Childhood」など、明確に続編を謳っている楽曲が各所に配置されていることからも、彼らの過去の作品の続編的な位置付けであることは確かである。クイーンズブリッジのプロジェクトで育ったナズにとって、ストリートを活写することは人生を回想することだが、本作においてもそれは変わらない。しかし一方で、「Bouquet (To The Ladies)」では、PMDやLLクールJなどのベテランたちの声を混ぜながら、現在のシーンにおける女性ラッパーの台頭を称え、全編を通して多くの女性ラッパーをネームドロップする。「Sons (Young Kings)」は、自らの幼少期を回想しながら、自分の息子、そして今を生きる子どもたちと向かい合う楽曲だ。ナズは、アルバムの各所で、現在のヒップホップシーンや自らの人生に対して、率直な態度を示している。
ナズとDJプレミアが、スキルフルなラップと巧妙なサンプリングワークによる引用を通して本作で行ったのは、ノスタルジーに浸ることでも、過去を過去として切り捨てることでもない。過去と現在をあらゆる手段で混ぜ合わせ、カルチャーそのものを捉えようとしているのだ。『Light-Year』はまるでその万華鏡のような光景を見ているようだ。
「Junkie」で、ナズは自らのことを“ヒップホップ中毒者”(〈rap aholic〉)と呼ぶ。「3rd Childhood」で言及されているように、かつて、麻薬中毒者の人々を日常的な光景として見てきたナズを、ゲットーから抜け出させたのはヒップホップである。ここで“ジャンキー”(〈I'm still a junkie, hip-hop junkie〉)という言葉を使ったのも意識的だろう。また「Pause Tapes」では、音楽作りについて語るハヴォック(Mobb Deep)のインタビューを冒頭に引用し、DJプレミアのスクラッチで場面を切り替え、純粋な音楽の煌めく瞬間、その誘惑を描写する。
彼らは紛れもなく音楽中毒者である。それは、冒頭に記したナズの発言から見ても明らかだろう。彼らが思い出させるのは、荒れたストリートの光景と人生を変えてしまう音楽への熱とマジック。そして、その幾重にも重なった先人たちと現在の類稀なる芸術家たちの摩擦だ。それは、一枚のレコードが回るときに、私たちの前に現れる。
※1:https://www.gq.com/story/nas-and-dj-premier-finally-locked-in-for-a-full-album