never young beachが見せてくれた“明るい未来” 結成10周年の円熟ーー満員御礼の日本武道館公演

写真=Ozawa Kiyoe

 never young beach(以下、ネバヤン)のライブを初めて見たのは2015年5月、渋谷のO-nest(当時はTSUTAYA O-nest)。1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』のCDリリースツアーだった。見に行ったのは、信頼できる友人ふたり(本秀康、neco眠るの森雄大)が推薦コメントを書いていたから。その時点でもすでにフロアはぎっしり満員だったし、「どうでもいいけど」や「あまり行かない喫茶店で」は人気曲になっていた。

 その後すぐに安部(勇磨)くんに下北沢の喫茶店でインタビューした。よくしゃべる頭の回転の早い若者。ネタとして話が面白いというより、口調や態度におかしみが宿る。落語で言えば“ふら”がある。この感じなら、何を歌ってもいい曲になるだろうな。安部くんは、まだロン毛で、髪の先を金色に染めていた。

写真=Ozawa Kiyoe
写真=Ozawa Kiyoe

 その年に何度かライブを見たが、当時はレパートリーが限られていて、1stアルバムの全曲をやっても40分足らず。それでも「どうでもいいけど」でしっかりとフロアの興奮をさらってしまう。夏に見たライブでは、安部くんは「オリジナル曲がもうないので」と言い訳するように、アンコールで細野晴臣の「恋は桃色」をカバーしていた。細野さんのあの歌にしっくりする歌声の持ち主が、この世代に出てきたことを頼もしく思った。

写真=Ozawa Kiyoe

 それが2015年のネバヤンの思い出。あれから10年、ネバヤンは日本武道館の舞台に立つ。オリジナルメンバー3人(安部、鈴木健人、巽啓伍)に加え、岡田拓郎、下中洋介(DYGL)、香田悠真の3人がサポートを務める編成。この編成で落ち着いてから、もう3年ほどになる。

写真=Ozawa Kiyoe
写真=Ozawa Kiyoe

 最近のネバヤンといえば、車寅次郎(映画『男はつらいよ』)な腹巻きスタイルにもなったし、The Beach Boysなピンストライプシャツにもなってきた。今日、この晴れの舞台で彼らが選んだのは、ピシッと決めたスーツの上下。セットの背後に浮かぶ、アーチ型のロゴを電飾で表現した看板「never young beach」を見て思った。これって、1966年のTHE BEATLES日本武道館公演へのオマージュなのか。BEATLESのステージのバックも「THE BEATLES」と描かれたアーチ状のロゴだった。

写真=Asami Nobuoka
写真=Asami Nobuoka

 そして、よくよく考えれば、2025年の現代にこの大舞台に立つバンドとしては、シンプルすぎる演出だ。ロゴが電球になっててチカチカしたり、背後の幕が開いたり閉じたり。二段重ねのステージセットの前面に下中、安部、岡田、後段上に香田、鈴木、巽という配置も、いつも通り。あとは、舞台袖までの距離が長いのと、中央にせり出す花道くらいか。スクリーンもないし、ド派手な照明や飾り付けもない。

写真=Asami Nobuoka

 つまり、勝負はあくまで音楽だった。彼らはどんどん曲をやる。それでいいのだ。今年SNSで、ネバヤンのライブで、「どうでもいいけど」の歌の部分じゃなく、イントロや間奏のギターメロディに合わせてコーラスしている映像が流れてきた。最高すぎて笑ったけど、どんな凝った細工よりも、ああいう場面こそがこの大きな日本武道館でも必要だろう。バンドと客席の喜びと照れとエモ、あらゆる感情が共振して自然に混ざる。決まりきったコールやリアクションとは違う、おっきな意味でのDIYがそこにあると感じた。

写真=Asami Nobuoka

 サポートでキーボードを弾く機会も多い盟友・谷口雄によるレコードDJ(アルバムはメンバーがそれぞれ持ち寄ったお気に入り)を経て、先にバンドメンバーが登場。待ってましたとばかりに安部くんが登場し、1曲目から一気に大盛り上がりに持っていくかと思いきや、この大きな空間と自分たちの足元のつながりを確かめるような「らりらりらん」でライブはスタート。序盤は、現時点での最新アルバム『ありがとう』(2023年)からの曲を中心に、一緒に作ったメンバーたちとじっくりと歩みを進めていく。ネバヤンとしてはメジャーレーベルと契約していた時期もあったし、正直言えばもっと早く日本武道館でのワンマンは実現できた気もする。だが、物事に機が熟するタイミングがあるとしたら、今日この場ということだ。バンドの10年っていろいろあるよ。このメンバーで、このお客さんでよかったと確信できるのが今日だったということ。

写真=Asami Nobuoka

 この日のために用意した久しぶりの新曲にも、彼らが向かいたい未来を想像させるものがあった。安部くんがハンドマイクで歌う、言ってしまえば『ありがとう』以降を示すような、アダルトな歌謡タッチ(でも、つまらない大人になってはしまわないぞと踏ん張る意地や切なさもしっかりあって)。ピンスポットを浴びて歌う安部くんの姿に、11年目以降の彼らの新しい”円熟”を感じた。

写真=Asami Nobuoka

 そしてそこからライブは後半へ。「Oh Yeah」「あまり行かない喫茶店で」「なんかさ」とたたみかける。もうこの場には祝祭感しかない。終わってみれば、全21曲、2時間近いライブはネバヤン史上最長だったはず。彼らの曲は短いのに全部クライマックスを持ってるから、お客さんも感情を使い果たしただろう。アンコールでは謎の黒マントで「妖怪人間ベラ」と苦笑された下中の無駄使いもご愛嬌。岡田・下中のギターの説得力があるから、そんなエアポケットも楽しい記憶になる。ラストを、もうひとつの新曲でじっくりと締める構成もよかった。「だよ」の前につく言葉(好き)をあえてタイトルで大きな声で言わずとも、それがみんなの気持ちに火を灯す。今夜の余韻が、これからのネバヤンへの予感になる。

 広い武道館が発売即完したし、追加で解放した席もすぐに完売。上の上の方までほぼ全席埋まっている。確かに10年目にして初めての日本武道館という機会は、ファンにとってもお祝い興行ではある。だけど、ネバヤンみたいなバンドが毎年の暮れには武道館でやる(かつてRCサクセションがそうだったように)が、定番になったら、それこそリアルな“明るい未来”なんだがな、と「明るい未来」で発射された金テープが舞い降りる景色を見ながら思った。

■ライブ情報
『never young beach Spring Tour 2026』
2026.4.10 Zepp Osaka Bayside, Osaka
2026.4.16 Zepp Nagoya, Aichi
2026.4.19 Zepp Fukuoka, Fukuoka
2026.4.30 Zepp Haneda, Tokyo

Standing ¥6,500
2F 指定席 ¥7,500
Under 22 ¥5,500

【注意事項】
【Under22 チケット注意事項】
※入場時に生年月日の確認を実施いたしますので必ず身分証をご持参下さいませ。
※身分証を忘れた場合、チケット代との差額をその場にていただきます。

【注意事項】
・制限枚数:1公演につきお一人様4枚までお申し込み可能。
・未就学児童は保護者同伴で入場無料(2F指定席は膝上に限り無料)但し、席が必要な場合は要チケット。
・小学生は保護者同伴の上、要チケット。
・整理番号付き
・電子/紙チケット併用

公式サイト:https://neveryoungbeach.jp/

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