Spotify年間ランキングから振り返る、2025年音楽シーンの傾向は? 芦澤紀子氏×柴那典氏によるトークセッションをレポート
Ado、ワールドツアーを機に広げた海外でのアーティスト人気
芦澤:「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」は毎年非常に注目度の高い部門ですが、1位を獲得したのはCreepy Nuts「オトノケ - Otonoke」です。昨年、「Bling-Bang-Bang-Born」の大ヒットがありましたが、2年連続でこの部門を制しております。「Bling-Bang-Bang-Born」も4位にランクインしていますね。
柴:Creepy Nutsは「Bling-Bang-Bang-Born」が昨年象徴的なヒットになったわけなんですが。こうしたグローバルヒットの場合、アーティスト名より先に楽曲名が広がることが多い。「Bling-Bang-Bang-Born」は特にダンスと一緒に広まっていったので、Creepy Nutsという名前ではなく、曲が先に届く例もあったかと思うのですが、「オトノケ - Otonoke」が続いてヒットしたことによって、Creepy Nutsがユニークなヒップホップグループであり、J-POPアーティストであるという認識が、おそらく海外に広まっていったのではないかと。これも『ダンダダン』のオープニングテーマですが、韻の踏み方で「ダンダダン」を表現していたり、リリックも含めてR-指定のテクニックが感じられる、Creepy Nutsならではの楽曲になっていると思います。
芦澤:それ以外のラインナップを見ていくと、藤井 風「死ぬのがいいわ」、Teriyaki Boyz「Tokyo Drift (Fast And Furious)」やYOASOBI「アイドル」「夜に駆ける」なども含めて、海外での長期的な支持に支えられたロングヒットが目立つ印象があるなか、5位のLiSA「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」にも注目です。
柴:この部門の中では唯一今年にリリースされた曲です。アニメ『俺だけレベルアップな件』シーズン2のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲で、作曲は澤野弘之さん、フィーチャリングにはStray KidsのFelixさんが参加しています。『俺レベ』が韓国原作のコミックスだということもあって国際的なコラボレーションに繋がったわけではあるのですが、それを含めてもやはり、LiSAさんの存在感、強さがここで証明されたと思いますね。
芦澤:「海外で最も再生された国内アーティスト」部門で1位を獲得したのは、Adoです。Adoが1位を獲得するのは、このランキングを発表してから初めてのこととなります。この部門では、2021年から2024年まで4年連続YOASOBIがトップに君臨していました。ここまで発表してきた楽曲部門のランキングに、実はAdoの楽曲は1曲も入っていないというところがポイントになってくるかなと思います。
柴:先ほどもお話ししたように、やはり海外からJ-POPに認知が広まっていく場合、曲が先に届いてアーティストの名前が広まっていく流れがほとんどだと思うのですが、それで言うと、Adoさんは今年「この曲がバズった」「この曲が主題歌で聴かれた」というよりは、アーティストとしての支持が非常に大きく広まった年だったと。これはやっぱりワールドツアーの開催が大きいんじゃないかなと思います。
芦澤:そうですね。国内アーティスト最大規模のワールドツアーは、動員も含め大きな話題になりました。それによって、アーティスト全体の楽曲が聴かれる、ある意味、これまで日本のアーティストがなかなか成し遂げられなかったことを達成した、素晴らしい実績を残した年だったんじゃないかなと思います。
柴:ゲームのアトラスサウンドチーム、ジブリ映画の久石譲さんを除くと、ランクインしているのは、ほぼ海外ツアーをやっているアーティストですよね。YOASOBIもワールドツアーをやっていますし、米津玄師さんもワールドツアーをやった。藤井 風さんもそうですし、Creepy Nutsもアジアツアー。XG、BABYMETAL、LiSAさんも。海外でのライブが動員に結びつき、動員が再生回数にも繋がるという、地に足のついた循環を見せているのが2025年かなと思います。
芦澤:ストリーミングは、コロナ禍ではリアルなライブと結びつくことがないなかで成長を遂げた経緯はありますが、ライブもどんどん復活してきて、2025年は国内アーティストが海外ツアー、イベント、フェスの出演なども目覚ましかった印象がありますね。
米津玄師「IRIS OUT」が韓国で早くも首位に J-POP人気は次のフェーズへ
芦澤:最後に、主要国の国別で「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」を見ていきたいと思います。インドネシア、韓国、ブラジル、インド、アメリカ、フランス、タイと、それぞれの国別TOP5の楽曲をランキングで発表しております。グローバルランキングに入っている楽曲、例えばCreepy Nuts「オトノケ - Otonoke」は、ブラジル、アメリカ、フランスの4カ国で入っていたり、藤井 風「死ぬのがいいわ」もインド、ブラジル、アメリカ、タイなど多くの国でランクインしています。
柴:韓国では米津玄師さんの「IRIS OUT」が早くも1位になっています。今年3月にソウルでの米津玄師さんの公演を観に行ったんですけど、びっくりする盛り上がりでした。日本語の曲なのに、ほぼ全曲大合唱が起こるくらい熱狂的なファンが、3月の時点でアリーナを満杯にしていた。そこから「IRIS OUT」が日本のみならず韓国でも大きな旋風を巻き起こしている。韓国におけるJ-POP人気も、また違ったフェーズに入ってきていると思いますね。