歌声分析 Vol.4:TOMOO 透明感と芯が両立する無二の個性 ”温度”を宿すボーカルが聴き手に響く理由を説く

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 連載第4回目となる今回は、シンガーソングライターのTOMOOを取り上げたい。

楽曲の“説得力”を底上げする歌声

 ピアノの弾き語りを軸に、言葉とメロディの関係を丁寧に組み立てるソングライティングで評価を積み重ねてきたTOMOOは、2025年5月に単独公演『TOMOO Live at 日本武道館』を開催し、キャリアの大きな節目を迎えた。同年11月12日にリリースされた2ndアルバム『DEAR MYSTERIES』も、楽曲ごとに声の表情を描き分ける完成度の高さで注目を集めている。

 TOMOOの名が広く知られるきっかけとなったのが、Spotifyの『RADAR:Early Noise 2023』への選出だ。楽曲が多数のプレイリストにピックアップされ、中でも「Super Ball」は音楽配信サブスクリプションサービスを中心にロングヒットを記録した。その後、日常の感情の機微をすくい取る歌詞、柔らかさの奥に芯の強さを持つ歌声、派手なアレンジに頼らないサウンドとメロディの説得力が評価され、着実にファン層を拡大していったのである。楽曲単位で注目を集めるケースは少なくないが、TOMOOの場合、その評価は常に“声”へと回収されていく点が興味深い。サウンドやメロディの良さに加え、歌声そのものが楽曲の説得力を底上げしているからだろう。

TOMOO - Ginger (Live at 日本武道館 , 2025)

 TOMOOの歌声の最大の特徴は、太い芯と透明感という、一見すると相反する要素が同居している点にある。強く響かせても決して濁らず、繊細に歌っても輪郭が曖昧にならない。光量と質量を同等のポテンシャルで鳴らしていると言える。明るく前に抜ける声でありながら、薄くならず、しっかりとした重心が残る。この性質は、どの楽曲にも共通するTOMOOの歌声の無二の個性である。

 その特性が最もわかりやすく提示されているのが「Super Ball」だ。軽快さと洒脱さを併せ持つシティポップチューンだが、歌唱は決して軽くない。中低音をメインに構成されたAメロでは、母音を早めに切り上げるのではなく、語尾を空気に溶かすように抜くことで丸みを出している。注目すべきは、後半の展開部である〈君の強さは〉から〈鉄壁のシェイプじゃないとこにだって生きてる〉までのブロックだ。刻むような譜割りの中で、〈生きてる〉の“き”の母音に強いアタックを与えつつ自然に抜いていく。この高度なリズム処理が、曲の大きなフックとして機能している。後半に向かって声量を上げ、楽曲全体にドラマ性を加えていく構成も含め、「Super Ball」は声の質量と軽快さ、その二面性を端的に示す1曲である。

TOMOO - Super Ball【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 「Ginger」では、リズムと感情の揺らぎという別の二面性が浮かび上がる。息を混ぜすぎない中低音から中高音を軸にしたメロディの中で、母音に一瞬だけ細かなビブラートをかけ、感情の余韻を表現している。一方、〈ジャムとかミルクとかコーヒーとか蹴散らして回る〉のように短い単語が連続するパートでは、言葉の頭のアタックを揃え、語尾に癖をつけず、等間隔で声を跳ねさせている。声でリズムの粒立ちを作ることができる点は、TOMOOの歌声が持つ大きな強みだ。

TOMOO - Ginger 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

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